市販薬「ガスター10」を飲んでいいとき、悪いとき|薬を使わない薬剤師 宇多川久美子のお薬講座【第22回】新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。この時、感染予防にもっとも重要になるのは自身が「健康であること」。免疫力をつけ、たとえ感染してもそれに負けない抗ウイルス力を身につけることです。さて、こうした情況で、市販薬の中でも安易に手を出してほしくないのが「胃薬」です。

強酸性の胃酸が感染予防に重要な役割を果たす

ウイルスは喉や鼻の粘膜を通して感染、増殖します。新型コロナも同じです。ウイルスが喉や鼻に入ってくることを完全に防ぐことは出来ませんが、喉の粘膜に付着したウイルスを水やお茶で胃に流し込むことはできます。胃には強酸性の胃液があります。強酸性の胃液でかなりのウイルスが死滅すると考えられています。

実際、私が薬剤師として薬局に勤務していたときは、かぜやインフルエンザの流行する季節は感染症の患者さんに薬をお出ししたら水を飲み、手を洗うのが、みなの習慣でした。薬局だけでなく多くの医師も実践していました。多くの患者さんに接する医師や薬剤師がバタバタと感染しないのは、こうした行動が有効だったことも理由のひとつだと思います。

さて、そこで胃薬です。市販薬のパッケージを見てみましょう。効能には「胃痛、胸やけ、胃酸過多、胸つかえ、胃もたれ、胃重、胃部不快感、胃部膨満感、吐き気、嘔吐、げっぷ、飲み過ぎ、食べ過ぎ、消化不良、食欲不振」などなど、書き切れないほどです。胃の不快症状すべてといっていいでしょう。

胃痛の原因の筆頭は、胃酸の出過ぎです。強酸性の胃液で胃が荒れ、炎症を起こす。そこで胃薬を飲んで胃液の分泌を抑える、あるいは中和することで症状を緩和します。しかし胃液の分泌を抑えるわけですから、胃酸は弱まります。もしそこにウイルスが入ってきたら、胃酸で退治できないかもしれない、という状態になります。

新型コロナウイルスの感染が続くなかで、胃は私たちの大きな防御壁になります。いつも以上に胃を大事にしなければと思うのです。「胃薬を飲まずに済む生活」を送ることが求められているのです。

胃酸過多にはH2ブロッカーが有効

胃痛に悩む人たちに画期的と迎えられた市販薬が「ガスター10」というH2ブロッカー薬でした。1997年、それまで医師の処方箋がなければもらえなかった「処方薬」でしたが、市販しても安全であると厚生労働省が認定され、「市販薬」になりました。こうした薬のことを「スイッチOTC」と言います。OTCはOver The Counterの略。薬局のカウンター越しにもらっていた薬(処方薬)という意味です。

スイッチOTCは、処方薬と市販薬の薬効成分はまったく同じです。たとえば、「ガスター10」には薬効成分「ファモチジン」が10mg、病院で処方される「ガスターD錠10mg」にも「ファモチジン」が10mg入っています。ただしファモチジン20mgの錠剤もあり、こちらは市販されていません。

胃酸の分泌には、「ヒスタミン」が大きく関わっています。胃粘膜には「ヒスタミン受容体」があり、そこに「ヒスタミン」がくっつくことで、胃酸が分泌されます。H2ブロッカーと呼ばれる胃腸薬は、ヒスタミンの代わりにヒスタミン受容体にくっつく作用があります。「ヒスタミン」をブロックすることで、胃酸の分泌が抑えられるのです。ですから、ガスター10は、胃酸過多による胃痛・胸やけ・もたれ・むかつきなどの症状に効果があるのです。

ストレスや食べすぎ、飲みすぎなど、胃の調子が悪くなる原因もさまざまです。原因によって症状も違ってきます。胃酸が出すぎているのか、胃の動きが悪くてもたれているのか、粘膜が荒れて炎症を起こして痛むこともあります。最適な薬を選ぶことで胃の症状は楽になりますが、選択を間違えると効果がまるで出ないこともあります。

胸やけやげっぷの原因は胃酸過多であることが多いので、ガスター10などのH2ブロッカーがよく効きます。胃酸過多の状態が長く続くと逆流性食道炎や胃潰瘍などに進展し、医療機関の受診が必要になってしまうこともあるので注意が必要です。

長く飲みつづければ胃の自力が低下する

食べすぎ飲みすぎで胃の動きが悪くなったり消化が追いつかなくなると、もたれたり消化不良の状態になります。この場合は消化酵素を主成分とした薬で消化を助けたり、胃の動きを促す成分の胃薬がよいでしょう。

不安やストレスによって胃炎や下痢を起こしているような場合は漢方処方の胃腸薬が合うこともあります。二日酔いの吐き気・頭痛に効果的な処方もあります。

このように、自分に出やすい症状と、その症状に効果的な薬を見つけて常備しておくと良いでしょう。選べないときは、薬局で薬剤師に相談して選んでもらってください。繰り返しますが、薬を飲んでも痛みや吐き気などが続くようなら、胃潰瘍や逆流性食道炎などの病気のサインかもしれません。そのような場合は医療機関の受診を考えましょう。

胃薬の市販薬はドラッグストアにたくさん並んでいます。長い期間、飲みつづけている人もいます。「飲んでいるから調子がいい」と言う人もいます。しかし胃薬を飲みながら「今日もお酒がうまい」「まだまだ飲める」というのは本末転倒だと思います。本来、自力で働かなくてはならない胃を、薬に助けてもらっているわけで、長い目で見れば胃の力を弱めてしまうことになるでしょう。

今は感染拡大を防ぐため、さまざまな予防策が取られ、ストレスもたまりがち。そういう時期だからこそ飲み過ぎ、食べ過ぎをはじめ、胃に負担をかける生活習慣を見直してみませんか? 今回の新型コロナ禍が、そのきかっけになればと思います。

宇多川久美子(うだがわ・くみこ)

薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『血圧を下げるのに降圧剤はいらない: 薬を使わない薬剤師が教える』(河出書房新社)。

 

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