メタボの一角、脂質異常症。ひとたび薬を処方されると「一生のおつきあい」になりかねません。前回、脂質異常症の薬についてご説明しました。今回は、悪玉と呼ばれるLDLコレステロールを減らす薬で、現在もっとも多く処方される「スタチン」についてお話します。
日本人の研究者が発見した「スタチン」
現在、世界で4000万人以上に処方されているといわれるベストセラー薬「スタチン」。実は、スタチンを世界で最初に発見したのは日本人の農芸化学者、遠藤章氏です。1973年に青カビの培養液からコレステロール合成阻害剤コンパクチン(後にスタチンと呼ばれる)を発見。その後の研究で紆余曲折を経るうちに、製品化はアメリカのメルク社「メバコーン」に先を抜かれましたが、その後、三共製薬(現・第一三共)から「メバロチン」という名で発売されました。
これほどのベストセラー、スタチンの作用機序を簡単に説明しておきましょう。スタチンは、肝臓でコレステロールの生成を促す「HMG-Co還元酵素」という酵素を阻害する薬です。HMG-Co還元酵素を抑えれば、肝臓におけるコレステロールの生成量が減ります。減った分、血液中にあるコレステロールで補おうとするので、結果的に血中コレステロール値が下がるというわけです。
現在、スタチンは、日本では6つの製薬会社から発売されています。
・プラバスタチン(商品名「メバロチン」第一三共)
・シンバスタチン(商品名「リポバス」MSD)
・フルバスタチン(商品名「ローコール」ノバルティスファーマ)
・アトルバスタチン(商品名「リピトール」アステラス製薬)
・ピタバスタチン(商品名「リバロ」興和創薬)
・ロスバスタチン(商品名「クレストール」アストラゼネカ)
以上は先発品ですが、現在ではそれぞれにジェネリック(後発医薬品)も発売されています。20社以上から80品目ほどのジェネリックは発売されています。いかに売れているか。この数からもわかります。
ミトコンドリアの活動にも影響
先述の通り、スタチンはコレステロールの生成を促す「HMG-Co還元酵素」の働きを阻害することでコレステロールの量を減らす薬です。しかし阻害する酵素は「HMG-Co還元酵素」だけではありません。薬の作用はプラスだけということはありません。作用には反作用が、プラスがあればマイナスが伴います。
スタチンの場合、ミトコンドリアの活動を阻害するという反作用があります。ミトコンドリア……久しぶりに聞いた! という人もいらっしゃるのではないでしょうか。私たち人間を含め生物の細胞の核にあるミトコンドリア。細胞が呼吸するのに欠かせないものです。そのパフォーマンスが落ちることで免疫力も低下してしまうことが、スタチンの深刻な副作用です。
「年のせいかな」「かぜかな」的な副作用に注意
2012年、米国FDA(食品医薬品局)は次のような見解を発表しました。
「スタチン系薬剤は糖尿病のリスクを高める」
スタチンの投与によって2型糖尿病が激増しているという調査データが出ています。
このほかに指摘されている副作用の中で、特に重大と思われる症状を2つ挙げます。
・横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)
骨格筋の細胞の融解、壊死を引き起こし、筋肉の痛みや脱力を生じさせます。厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」にも、医薬品の、主に脂質異常症の薬や抗生物質によって起こる場合があると記載されています。
私が薬局でこの薬を扱っていたときにも患者さんが手足や肩、腰の筋肉の痛みやしびれ、脱力、こわばり、尿の色が赤褐色になるといった症状を訴えられることが少なからずありました。
特にこわいのは、筋肉痛を覚えても「年のせいかな」と思い込んで放置してしまうケースです。特に高齢者の方です。スタチンといっしょに湿布が処方されるようになったので理由をうかがうと、スタチンの服用を始めた頃から手足の痛みがひどくなってきたということでした。「もしや」と思い、医師と相談してスタチンの服用を中止してもらったところ、手足の痛みも引いていきました。
・間質性肺炎
肺胞の壁に炎症を起こす病気です。肺に酸素が取り込みにくくなるため、初期症状として、階段を上がったり、走ったり、少し無理をしただけで息切れ、息苦しくなる、空咳が出る、発熱などが見られます。これもスタチンの副作用だとは気づかず、年のせいにしたり、ただのかぜと思い込んで見過ごされてしまうことがあります。
スタチンがLDLコレステロールを減らすことは、臨床研究によって証明されています。問題は、日本ではメタボ健診によって、基準値を超えるとすぐ薬を処方されてしまうことにあります。
脂質異常症の基準値超えは、軽いものなら運動量を増やすことで改善されます。ジムで筋トレとか毎日1万歩歩くとかジョギングするといったハードなものでなく、ウォーキング程度でも効果がみられるのです。ですから「メタボ予備群」という診断は、“生活習慣の見直しが必要ですよ”という忠告です。
しかし40代、50代、働き盛りでは、運動なんてしている時間がない、薬を飲んだほうがラクと思っている方が少なくないように見受けます。そして薬に頼ってしまう……。「薬との一生のおつきあい」の始まりです。
薬を飲んで数値を基準値に下げてしまうと、せっかくの「予備群」という忠告をみすみす見逃すことになります。そうした気づきのきっかけを奪ってしまうことが薬のもうひとつの副作用だと私は考えています。
宇多川久美子(うだがわ・くみこ)
薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『薬は減らせる!』(青春出版社)。
構成・文/佐藤恵菜