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インフルエンザに「抗生物質をください」のなぞ|薬を使わない薬剤師 宇多川久美子のお薬講座【第14回】
かぜやインフルエンザの病原体は「細菌」ではない

厚生労働省の報告書によると、「かぜやインフルエンザに抗菌薬が効果的」と答えた人が4割以上に上るそうです。

抗菌薬とはその名のとおり、細菌に抗する薬です。「抗生物質」「抗生剤」ともいいますが、ここではまとめて「抗菌薬」と呼びます。かぜやインフルエンザの病原体はウイルスですから、抗菌薬は効きません。しかし現実に4割以上の人がかぜやインフルエンザに抗菌薬が効くと思っているのです。

今、世界的に問題になっているのが「耐性菌」です。耐性菌とは抗菌薬は効かない細菌のこと。もともと抗菌薬に対して耐性菌が生まれるのは、ある意味、自然なことです。実際、耐性菌の存在は今に始まったことではありません。ただ近年、著しく強力な耐性菌が問題になっているのです。なぜでしょうか。

かぜでも「抗生物質をください」が耐性菌を生むきっかけに

かぜ症状で診察を受けたときに「抗生物質/抗生剤をください」という患者さんは少なくありません。医師から「抗生物質はかぜには効きませんよ」と説明すればいいのですが、中にはどうしても抗生物質が欲しいと訴える患者さんもいます。医師としては、なぜ抗菌薬がかぜに効かないのかを丁寧に説明している時間がないという事情があるかもしれません。病院といえどもサービス業ということもあるでしょう。かぜに抗菌薬を処方する医師は決して少なくありません。

しかも「抗生物質を飲んだら治った」と言う人もいます。子どものころ、かぜを引いたときに抗生物質を飲んで治ったという経験を持っている人もいるでしょう。その成功体験(?)によって大人になっても“かぜには抗生物質が効く”と信じているものと思われます。

これが痛み止めやかゆみ止めなどの薬であれば、「効くと思って飲めば効く」プラセボ効果が期待できるので、「よし」とする判断もわからなくはありません。しかし、こと抗菌薬となれば話は別。なぜなら、そうした不要な抗菌薬の使用が、耐性菌を生み出す要因だからです。

耐性菌は、抗菌薬を飲んでいない人にも感染するおそれがあります。そして、イザという時、その人に抗菌薬が効きません。

当人にも副作用のリスクがあります。抗菌薬は目標の細菌にだけ作用するわけではありません。腸内細菌が注目されているように、腸の中にも皮膚の表面にも口や鼻の粘膜にも、多種多様な細菌がいて、人間の生命活動に欠かせない常在菌が多々あります。生き物は常在菌と共生関係にあるのです。

抗菌薬は、その常在菌もろとも殺菌しようとします。腸内の善玉菌も殺してしまいます。善玉菌も悪玉菌も抗菌薬からすれば同じ細菌です。抗菌薬の服用に注意が必要なのは、そういうわけです。

抗菌薬は飲みきって菌を絶滅させる必要がある

私が薬局の薬剤師をしていた時代も、ただのかぜなのに「抗生物質」が処方されている患者さんが少なくありませんでした。しかし薬剤師といえども、患者さんになぜ抗生物質がかぜに効かないのか説明するのは容易なことではありません。結果、処方箋にある抗菌薬をお出しするのですが、その際「ぜんぶ飲みきってくださいね」と言ってお渡ししていました。

抗菌薬を処方されたら、必ず処方された分を飲みきる。これが鉄則です。本人のためにも、耐性菌の発生を減らすためにも大事なことです。

なぜ耐性菌が発生するのかというと、抗菌薬にさらされながらも死滅に至らないからです。生き残った細菌が、その抗菌薬への抵抗力を得て、耐性菌として変異するのです。ですから抗菌薬を飲むなら、体内の菌を100%死滅させなければなりません。医師も、それに足る量の抗菌薬を処方しています。一般的には4日分から5日分です。これを飲みきってください。

現実には、熱が引いた、かぜの症状が治まったといって途中で止めてしまう人が少なくありません。途中で止めると体内にまだ細菌が残っている可能性があります。その状態が耐性菌を生む環境になります。

おさらいとして、
・かぜやインフルエンザで抗菌薬(抗生物質)を飲んでも効きません。
・処方された抗菌薬は飲みきりましょう。たとえ途中で症状が治まっても。
補足として、抗菌薬が処方される理由に「二次感染の予防」があります。体力が落ちている人で、かぜなどでさらに体力が落ちて、他の感染症にかかるリスクが高い場合に抗菌薬が処方されることがあります。医師から抗菌薬が処方されたら、その理由を確認しておくといいでしょう。

宇多川久美子(うだがわ・くみこ)

薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『薬は減らせる!』(青春出版社)。

構成・文/佐藤恵菜

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