病院へ足を運ぶのがためらわれる状況が続いています。第21回、22回で、かぜ薬や胃薬を例に処方薬と市販薬の違いをご説明しました。もうひとつ大きな違いがあります。
処方薬には配合されないが市販薬ならOKの成分とは
患者さんの症状に合わせて医師が処方する処方薬がオーダーメイドのスーツだとすれば、市販薬は既製服のようなものです。具体的な違いは「有効成分の配合量」です。市販薬は安全であることが最優先されますので、有効成分の含有量は、処方薬に比べると少なめになっているものが多いです。
また、処方薬には基本的に1種類の有効成分しか入っていません。一方、市販薬には複数の有効成分やおまけの成分も入れることができます。この点も処方薬と市販薬の大きな違いと言えます。
たとえば、肩こりや腰痛の貼り薬。市販されている「冷湿布」は、貼ったときに“スッ”とします。スッとするのはl-メントールという成分です。l-メントールに薬効はありません。スッという爽快感は得られますが、それで捻挫や肩こりが改善することはありません。しかし、この清涼感がないと効く気がしないということで売れないのだそうです。それで、処方薬より多くこのおまけの成分が入っているのです。
病院で処方されるインドメタシンやロキソプロフェンなどの消炎鎮痛成分が入った貼り薬を貼っても、あまりスッとしないので、「効いているのかわからない」とボヤく人もいます。貼るとスッとして気持ちいい、効いていると感じる人にとっては、市販薬の「冷湿布」のほうが、本当に効くかもしれません。“効いている感じ”は、大きなプラセボ効果を発揮すると期待できるからです。
爽快感を求めるなら市販の目薬
目薬も同じことが言えます。
パソコン作業やスマホを見ている時間が増え続ける昨今、目の疲れを感じる人も激増しています。市販の目薬には「スッキリ」「爽快感」をアピールする商品も多いです。たしかに1滴差すと、目が覚めるようなスッキリ感や冷感が味わえます。あのような目薬は、病院で処方することはできません。スッキリするのは、冷湿布と同じくl-メントールのおかげ。l-メントール自体に薬効はないからです。
ですから、目が疲れる、ゴロゴロするという症状で眼科を受診し、「スッキリする目薬ください」と言っても、スキッとする目薬は処方されません。
そのような症状で処方されるのは、ビタミンが配合された目薬でしょう。疲れ目に処方される目薬に赤い色をした目薬がありますが、ビタミンB12が有効成分として入っています。シアノコバラミンという赤い色をした成分です。ちなみに市販もされている目薬「ソフトサンティアひとみストレッチ」の色も赤いのですが、有効成分としてビタミンB12(シアノコバラミン)、ピント調節機能を改善するネオスチグミンメチル硫酸塩、目の組織代謝を活発にするビタミンB6(ピリドキシン塩酸塩)が入っています。
市販の目薬にはビタミンもかゆみ止めも
市販の目薬には、ビタミンB12やB6だけでなく、ビタミンE、ビタミンAなど、複数のビタミンが入った薬もあります。そのほか、目のかゆみを抑えるクロルフェニラミンマレイン酸塩、目の組織の新陳代謝を促すタウリン、疲れ目に効果があるL-アスパラギン酸カリウムなども見られます。1本に、複数の有効成分を配合できるのは市販薬ならではと言えます。
仕事中などに目をスッキリさせたい、とにかく眠気を吹き飛ばしたいときもあるかと思います。そのようなときにl-メントールの入ったスカーッとする目薬は、たしかに一時的な効果はあります。とはいえ、市販薬では解決しない疲れ目やドライアイ、それらに隠れた緑内障や白内障のおそれもありますから、あまり市販の目薬に頼っているのも考えものです。常用していた目薬が以前より効果が薄くなってきたといって、たくさん点滴するのも問題ですし、刺激成分がかえって、角膜を傷つけてしまうこともあります。目薬の説明書きには「1週間〜2週間、使い続けて症状に改善がないときは医師や薬剤師に相談を」と書かれています。
もう1点。市販の目薬と処方される目薬の大きな違いは防腐剤の量です。処方される目薬は5ml程度のボトルに入ったもので、薬局では、薬剤師から「2週間以内に使い切ってください」と指導されます。一方、市販薬の多くは10〜15ml入り。開栓後の使用期限は、おおむね1か月程度です。防腐剤はコンタクトレンズに吸着されやすいので、使用頻度によっては、角膜への影響も心配されますし、レンズが、変形・変色する可能性もあります。また、市販の目薬の多くに、充血を改善する血管収縮剤が入っていますが、コンタクトレンズによる酸素不足をさらに悪化させる場合もありますので、コンタクトレンズをしている方は十分、気をつけてください。
宇多川久美子(うだがわ・くみこ)
薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『血圧を下げるのに降圧剤はいらない: 薬を使わない薬剤師が教える』(河出書房新社)。