効果は飲み薬と大きな差はない?
前回、テープ剤の有効成分は、頭痛・生理痛薬、かぜ薬などに使われている解熱鎮痛剤NSAIDs(エヌセイズ)と同じという話をしました。
ではテープ剤と飲み薬、どちらがより有効なのか? 直貼りすることで、薬効成分がより早く患部に浸透するのは確かでしょう。しかし有効成分が患部に留まるわけではありません。やがて皮膚を通り抜けて血流に入ります。そして全身に回ります。飲み薬の場合は全身に回りながら患部に到達するわけです。いずれも患部に有効成分はやって来ます。その意味では貼り薬も飲み薬も、若干のタイムラグはありますが、効果効能に大きな差はないと考えられます。
また有効成分が同じであることからNSAIDsのテープ剤と飲み薬を併用するのは、注意が必要です。併用が長期間に及ぶことで、副作用が出るリスクも増します。
テープ剤がこれほど処方されるのは日本だけ
それにしても、なぜこれほどテープ剤は人気があるのでしょうか? 実は、処方薬としてテープ剤が出てくるのは日本ぐらいです。テープ剤も湿布も日本では大量に処方されています。私は「貼り薬のほうが飲み薬より直に効く」というイメージが根強いのだと思います。薬効成分がずっと患部に留まり効きつづける、そんなイメージが浸透しているように思います。余談ですが、日本には昔からトクホンをはじめ膏薬というものがありました。そういう貼り薬文化みたいなものが脈々と息づいているのかもしれませんね。
結論として、貼り薬でも飲み薬でも大きな差はありません。さらに言えば、昔ながらの冷感湿布、温感湿布と比べて、NSAIDsのテープ剤のほうが必ず効果が高いとも言い切れません。なぜなら、薬とその人の相性、さらにはその人の薬に対するイメージも、効果を左右するからです。痛みを軽減する大事な要素にプラセボ効果があります。「この薬が効く」と思って服用すると効く(と感じる)のです。
たとえば同じような肩こりでも、冷感湿布のスーッとするのが好きで、実際、症状が軽減したという成功体験があれば、その人にはその後「冷感湿布が効く」というプラセボ効果が生まれるかもしれません。同じように温感湿布のポカポカするのが気持ちよくて、それで症状が改善した経験のある人にとっては「温感湿布が効く」というプラセボ効果が期待できます。
医師もそのへんは心得たもので、肩こりの患者が「私は温感湿布が効くのでテープ剤ではなく温感湿布がいい」と言えば、温感湿布を処方してくれるものです。そこで「温感湿布よりテープ剤の方が効きますよ」と説得してもあまり意味がないからです。(もちろん医師によりますが)
貼っていると安心の精神的依存
テープ剤と飲み薬の消炎鎮痛剤とでは効果に大きな差がないと述べましたが、これを示すひとつとして、病院で処方されるテープ剤の枚数が「1か月70枚まで」に制限されたことが挙げられます。
テープ剤を肩、腰、膝など数か所に貼る、それも両側に貼る、しかも1日2回、貼り替えるという人も少なくありません。こうすると1日10枚以上、必要になります。1か月70枚ではとても足りません。高齢の方には決して珍しくありません。それなのになぜ、こんな制限ができたのか? というと、単に“貼り過ぎ”と判断されたと。何枚貼っても、それに見合う効果がないことがわかっているからではないでしょうか。本当に必要な薬であれば、その薬がなければ症状が悪化してしまうような薬であれば、こんな制限はされないはずです。
ちなみに、病院でよく処方される「モーラステープ」もNSAIDsですが、有効成分はケトプロフェンといいます。炎症を抑える効果としてはロキソプロフェンやジクロフェナクとほとんど違いはありません。ではなぜ病院で処方されるテープが「モーラステープ」なのかというと、おそらく昔からよく使われているからという理由が大きいと思います。私も薬剤師だったころずいぶんたくさん「モーラステープ」をお出ししたものです。「モーラステープ」は今も昔も、販売数が全薬品の常にトップテンに入るようなマンモス商品です。ただ市販はされていません。
モーラステープにしろ、ロキソプロフェンにしろ、これだけテープ剤や湿布が人気なのは、「貼っていると安心」という心理だと思います。逆に言うと「貼らずに痛みが出たらいやだ」という心理です。「薬のおかげで」という気持ちが抜けがたくあるのでしょう。そう信じている人に「いや、それはプラセボ効果ですよ」と言うのもちょっと気が引けます。ただ、前回の記事で述べたとおり、NSAIDsを貼りつづけることで血流が悪くなるおそれがあり、血流の悪化が肩こりや腰痛といったコリによくない影響を及ぼすことは間違いないでしょう。
私も以前、首が回らないほど首から背中からコリ症でした。何を貼っても何を飲んでも治りませんでした。それがウソのように治ったのは、ウォーキングを始めて肩甲骨回りの筋肉を動かすようになってからです。薬は根本を解決するものではなく、その場を凌ぐものでしかない。自らの経験から私は痛感しています。長年テープ剤を貼りつづけている人に一度、薬を貼らずに筋肉をほぐす運動を取り入れることを提案いたします。
宇多川久美子(うだがわ・くみこ)
薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『薬は減らせる!』(青春出版社)。
構成・文/佐藤恵菜