●重要事項説明書はここを読め
見学では見て、聞いて、感じ取ることが大切になるが、「重要事項説明書」にはホームの性格が数字として表れる。基本体制を確認しておくことは不可欠だ。
「重要事項説明書」は、見学する際などにもらうことができる。また、ホームページに掲載しているホームもあるし、都道府県ホームページの高齢者関係部署のページにも掲載されているので、内容を確認できる。
東京都の場合は「東京都福祉保健局」のページにある。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/smph/kourei/shisetu/yuuryou/jyuuyoujikou/index.html
なお、重要事項説明書の様式や項目は都道府県によって少しずつ違うが、以下に挙げるチェックポイントは記載されているはずだ。
1 入居者に対する看護・介護職員の割合
介護職員の人員配置基準は、介護・看護職員:入居者が1:3が最低基準だと定められている。つまり、入居者3人に対して1人の介護・看護職員を配置しなければならない。特別養護老人ホームはこの基準どおりというところがほとんどだが、介護付き有料老人ホームでは、1:2や1:1.5などというところもある。もちろん、こちらの方が介護体制はより手厚いということになる。
ただし、この基準は職員の総数で考えるので、24時間この比率であるというわけではない。夜間などはもっと職員数は減る。
重要事項説明書だと、このように記載されている。
なお、有料老人ホームの場合、この基準が当てはまるのは「介護付き有料老人ホーム」のみなので注意してほしい。冒頭に挙げた鹿児島の老人ホームは外部事業所から介護サービスを受ける「住宅型」なので、この人員配置基準は適用されない。
2職員体制
「職種別の職員数」(「職員の人数、勤務形態」などという表記の場合もある)を見れば、介護職員の数と、そのうち常勤職員がどれくらいの割合なのかがわかる。また機能訓練指導員がいれば、リハビリに力を入れているホームだと見なしてよいだろう。
もっとも見るべきポイントは「職員の状況」(「勤続年数別人数」などという表記の場合もある)だ。
オープンして間もないホームなら別だが、そうでない場合、勤務年数が1年未満の職員が半数以上となると、ホーム運営上どこかに問題があるのではないかと疑ってみた方がよい。
様式によっては、「前年度1年間の退職者数」も記載されているので、これも大いに参考になる。
この重要事項説明書のホームは、歴史が古く、介護サービスに定評のあるホームだ。これほど勤続年数が長いということは、職員が大切にされており、働きやすいホームだと思ってよい。すなわち、入居者も暮らしやすいということだ。
良いホームの例を見ると気になってくるのが、冒頭の職員全員が辞めてしまったホームだ。閉鎖されることが決まったが、まだ鹿児島県のホームページに重要事項説明書が掲載されていたので、「職員の状況」から勤続年数を見てみよう。
先述したようにここは住宅型有料老人ホームなので、介護職員の数は多くない。常勤職員9名のうち7名が勤続3年以上。10年以上も1名いるので、この時点のデータだけではホームへの不安材料は見つけられなかった。
ただ、前年度1年間に3名退職しているのに、採用者は1名のみなので、人手が足りているだろうかという疑問は湧くところだ。こればかりは、実際にホームを見学してみないと判断できないだろう。
さらに、先日民事再生法の適用を申請し、過去最大規模の経営破たんとなった「未来設計」が運営していたホームのうち1か所の重要事項説明書も参考までに挙げておこう。
このホームに関しても、勤続年数のデータ的に不審な点は見当たらなかった。問題があったのは経営であり、現場の職員の介護サービスには問題はなかったのではないかと思われる。
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今回は、有料老人ホームの職員体制見極めのポイントを解説した。
重要事項説明書を「読む」のもなかなかおもしろいと思われた方もいるのではないだろうか。データだけですべてがわかるわけではないが、判断材料のひとつにはなる。ホームページに掲載されている各ホームの重要事項説明書を見比べてみるのも、ホームの質を見る目を養うことになるのでおすすめしたい。
ところで、ホーム入居の決め手として、「施設長が気に入った」という人も少なくない。確かに、「人」という点では判断材料の大きなポイントではあるのだが、注意も必要だ。
というのも大手運営会社によるホームの場合、施設長には異動があるからだ。有能な施設長ほど異動が多いと言ってもよいほどだ。
施設長が変わっただけで、良くも悪くもホームの雰囲気は一変する。というわけで、施設長の印象だけで入居を決めるのは早計なのだ。
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。