文/鈴木拓也

もし「ガン」と診断されたら、手術前にこれだけはやっておきたい

■いまや「がん=死」ではない

体調に異変を感じて病院に行ったら、「ガン」と診断された。そのとき、あなたはどう思うだろうか?

思うもなにも、大きなショックを受けて、仕事も手につかず、食事をとる気にもならなくなる、という人がほとんどかもしれない。

もちろん、それは「ガンは治らない病気で、苦しみながら死に至る」というイメージが、この病気につきまとうからだろう。

しかし、そのイメージは「ガンの患者さんの一部に起こる最悪のシナリオを強調したものであり、実際には多くの患者さんがたどる経過とはかけ離れている」と指摘するのは、産業医科大学第1外科講師で外来医長も務める佐藤典宏医学博士だ。
佐藤博士は、著書『ガンとわかったら読む本』(マキノ出版)の冒頭で「ガンは治る病気となりつつある」と述べ、国立がん研究センターが2017年に作成したデータを提示している。

それによれば、ガン全体の5年生存率は67.6%、10年生存率は55.5%となっているが、これは、10年以上前にガンと診断された患者の統計に基づいている。

ガンの治療法はその10年間で大きく進歩し、これからも進歩し続けることを考えれば、今後生存率はさらに向上するのは間違いない。ガンと診断を受けて、最初から深刻になるのは早計だ。

とはいえ、ガンの告知を受けたら、どうしても気分は落ち込み、不安にかられるもの。それに対し、佐藤博士は以下のアドバイスを掲げている。

「つらい気持ちを家族や友人など、信頼できる人に話してみるのもいいでしょう。話すことで気持ちの整理がつき、心が落ち着きを取り戻すことも多いものです。
また、ガンサバイバーの体験記などを読んでみてもいいでしょう。
たいていの人は、告知後1~2週間は落ち込むものの、その後は現実を受け入れて、『治療を受けるしかない』と気持ちを切り替えられるようになります」(本書29~30pより)

本書には、こうしたガンに対する我々の思い込みを覆す、様々な知見が盛り込まれている。以下、そのいくつかを紹介しよう。

■セカンドオピニオンにはデメリットもある

セカンドオピニオン外来を開設する病院が増えるなど、ガン治療においては別の病院の医師の意見を仰ぐのが普通になってきている。

佐藤博士も、治療が難しい進行ガンの場合は特に、セカンドオピニオンを取ることを推奨する。

一方で、「デメリットもあります」とも。

「時間がかかりますし、お金もかかります(通常2~3万円程度)。また時間の制約上、単に標準治療の解説にとどまり、じゅうぶんな説明が得られないまま終わる可能性もあります。
さらに、セカンドオピニオンの結果で転院となった場合には、これまで受けてきた検査のやり直しが必要となる場合がほとんどです」(本書87pより)

セカンドオピニオンを担当する医師の持ち時間は、1時間程度だという。その貴重な時間を無駄にしないためにも、佐藤博士は「聞きたい趣旨を明快にして、それを先方の病院に前もって伝えておく」ことが大事と説く。聞きたいのは、例えば手術のことなのか、抗ガン剤のことなのか、あらかじめ整理しておきたい。

■ガンに安静はむしろ弊害

ガンと診断されたら、「仕事や家事を休んで安静していなくては」と考えてしまうが、実はそうではないという。

感染症や消耗性の病気と違い、「ガンに安静は必要ないばかりか、むしろ弊害となります」と、佐藤博士は釘を刺す。
正解は、「活動的で規則正しい生活」。手術前まで、早寝早起きに徹し、外に出て積極的に体を動かす生活を心がけ、できる限り仕事も家事も続ける。

さらに、スクワットなどの筋トレや有酸素運動をして、体力の維持・向上に努める。これを手術前の「プレ・リハビリ」と呼び、術後の合併症を減らし、身体機能の保持に効果的だという。

■タンパク質とプロバイオティクスを積極的に摂取

食事面からアプローチしたガンの民間療法には、動物性の食材を断つ玄米菜食や野菜ジュースを大量に飲むゲルソン療法など、様々なものがある。

こうしたメソッドについて、佐藤博士の考えは「ガンの手術を控えた時期には、これらの極端な食事療法はお勧めできません」と明快だ。

佐藤博士によれば、重視すべきはタンパク質の摂取。ガン患者は、慢性炎症などで体内のタンパク質の消費・分解が進んでいるため、筋量・筋力が低下するサルコペニアのリスクが大きくなる。そして、サルコペニアは、「術後合併症の増加や死亡率の上昇に直結」するのだという。

具体的には、体重1kgあたり1.2gのタンパク質が摂れるよう献立を工夫することが、勧められている。目安として、肉や魚を200gプラス卵1個を食事に含むようにすれば、1日に必要なタンパク質が確保できるとする。

くわえて、「プロバイオティクス」も手術前に摂取するよう勧めている。プロバイオティクスとは、腸内細菌叢のバランスを改善し、人体に有益な作用をもたらす微生物を指し、乳酸菌やビフィズス菌がよく知られる。

臨床試験によれば、プロバイオティクスを手術前に十分摂った患者は、術後合併症の発生率が約50%も減少したという。

プロバイオティクスは、ヨーグルトや納豆などの発酵食品に含まれている(中でも佐藤博士が勧めるのが「ケフィアヨーグルト」)。少なくとも手術の1週間前から、毎日摂るようアドバイスしている。

*  *  *

上記のほか、佐藤博士は「手術前にやるべき10か条」として、不眠の解消や禁煙など挙げる。どれも、今日からすぐに始められ、お金もかからないものばかりだし、不安に苛まれてただ時を過ごすよりずっといい。ガンという病に立ち向かう励みになる1冊としてお勧めしたい。

【今日の健康に良い1冊】
『ガンとわかったら読む本』

http://www.makino-g.jp/bookdetail/isbn/978-4-8376-1326-8/

(佐藤典宏著、本体1,400円+税、マキノ出版)

『ガンとわかったら読む本』

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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