取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
佑子さん(仮名・70歳)は、64歳からパートとして、ビル清掃会社で働いていた。5年間、友達だったと思っていた「社員さん」の秀美(仮名・59歳)さんに裏切られる形で会社を辞めた。
40年ぶりに働いたきっかけは、長男へのマイホーム購入資金援助
佑子さんは6年前に「パートのオバサン」としてビルの清掃会社の清掃スタッフになった。25歳からずっと専業主婦をしており、働くのは約40年ぶりだった。それまで働かなかったのは、「働くのは家の恥」だと思い込んでいたからだという。
「私たちの世代は、“夫の収入が低いから、それを補填するために妻が働く”という先入観があったんです。だから、働いたら主人に失礼だという思い込みもあった」
しかし、働かざるを得なくなったのは、夫の退職金の半額を、子供たちに与えてしまったから。
「主人は3歳年上なのですが、定年退職したとき退職金が5千万円ほど出たんです。年金もあるし夫婦2人悠々自適で暮らせると思っていたら、長男が“家を買うから1000万円ほど援助してくれ”と言うから、そうしたんです。そしたら次男も家を買うというので、かわいそうだから同額を援助。すると、嫁に行った末娘が“私も欲しい”というので、500万円援助。退職金が半額になったと同時に、主人がガンに。最新治療を尽くしても、あっけなく亡くなっちゃったんです」
子供たちはろくに見舞いも来なかった。
「結局、お金をくれる親が好きなんですよね。大学まで出してやったのに、何もしてくれない。その時私の手元には500万円しかなかった。お恥ずかしい話ですけれど、そのうち200万円を増やそうと思って、投資をしたら全てパーになってしまった。どうにもならなくて自治体の生活相談窓口に行ったら、“まだ若いし元気なのだから働きなさい”と言われて、清掃会社でパートをすることにしたんです」
佑子さんはそこで秀美さんに出会う。
「明るくて優しい社員さんで、研修時代から親切にしてくれた。とても声が大きくハキハキした人で、課長クラスの人なのに、研修時代から私に目をかけてくれたんです」
【パートのオバサンと、社員さんの友情が生まれたきっかけは……次のページに続きます】