取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
佑子さん(仮名・70歳)は、64歳からパートとして、ビル清掃会社で働いていた。5年間、友達だったと思っていた「社員さん」の秀美(仮名・59歳)さんとは、同じ中高一貫女子校を卒業していることで距離が縮まったという。しかし、秀美さんに裏切られる形で会社を辞めた。
【これまでの経緯は前編で】
何を考えているかわからず、なんとなく機嫌を取っていた
5年間、友達だった佑子さんを、事実上のクビにした秀美さんはどのような人なんだろうか。
「まずは美人だということ。あんなにキレイなのに、なぜずっと独身なのかと思いましたよ。鳥に例えると、白鳥とか鶴みたいなスッとした感じ。最初に食事に誘われたときも、銀座のイタリアンレストランで、1人6000円だったかな。あんなにおいしいものを食べたことはなかった。てっきり奢ってくれるのかと思ったけれど、ワリカンでした」
少し無理をしなければならないお付き合いなのに、なぜ付き合っていたのだろうか。
「パート仲間に“社員さんと友達”と言えることが大きかったのかもしれない。実際に、秀美さんと仲が良くなってから、楽でいい現場を回してもらえるようになりました。それに、他の社員さんの当たりも違うと思いました」
その清掃会社は、3~4人がチームになって、現場に行く。会社に集合し、作業着に着替える。そして、車に乗って現場に行く。終わったら会社に戻り、着替えをしてそれぞれの家に帰る。
「イベント後の大規模施設の清掃、公園などが多かったかな。トシだから屋外作業が辛いんですが、会社側もそれをわかっているんですけれど、人手不足で、希望通りにはいきませんよね。でも秀美さんと親しくなってからは、作業がラクな現場を優先的に回してもらえるようになったんです」
佑子さんが秀美さんに感謝の気持ちを伝えると、「そうよ~。私のおかげよ。感謝しなさい」と言われたのです。
「そのときに、“こういう性格だから、結婚できないんだな”と思ったんですよね。仲良くなるうちにわかってきたのですが、秀美さんはその人が最も言われたくないことを、ズバッと言葉にするんです」
佑子さんの夫は、誰もが知る一部上場企業に勤務していた。本来なら年金で悠々自適の生活ができる。しかし、3人の子供にねだられるままマイホーム資金を援助してしまった。だから働かざるを得ない状況になってしまった。
「秀美さんの会話は追及型なんです。主人の勤務先を聞かれ、“佑子さんはなんでウチみたいな会社で働いているの?例えばどういう理由があるの”などと聞いてくる。私が“いろいろあるのよ”と言うと、“例えばどういうことがあったの?”などと追及してくるから言わざるを得ない。それで私は話してしまう。隠したいことを人に話すと、ちょっとスッとするんですよね」
佑子さんは秀美さんにいろんなことを話してしまった。夫のがん治療のこと、投資詐欺で200万円をパーにしてしまったことなど。
【みんなの前で「ダメな母親と言えば佑子さんよ」と言う……次のページに続きます】