それまでのケアマネジャーは、トキ子さんに問題が起きて電話しても、「今日は休みですので」と言って、話も聞いてくれなかった。家を訪問しても、両親の顔も見ずに、ハンコだけもらうとすぐに帰ってしまっていた。そのときは、「そんなものなのか」とさほど不審にも思わなかったという。
「それが今のケアマネジャーは、電話で済まさず、必ず家に来て親の顔を見てくれるし、『何かあればいつでも連絡してください』と言ってくれています。家も3回建てないと満足する家は建てられないと言いますが、家と同じですね。ケアマネージャーも3回目にしてようやく満足のいく方に出会えました」
■デイサービスの間だけは息抜きできる
信頼のおけるケアマネージャーのおかげなのか、トキ子さんは拒否していたデイサービスにも行くようになった。要介護2の竜二さんは週2回、トキ子さんは週3回利用している。
竜二さんにとってはトキ子さんが一人でデイサービスに行っている時間だけが一人になれる時間だ。そのときに上野さんは竜二さんを外に連れ出し、食事をしたり、買い物をしたりしているという。
「静岡にいる間は母に付きっきりなので、両親がデイサービスに行く日は私も息抜きができます。ただ、いつデイサービスから緊急の連絡が来るかわからないので、いつでも電話が取れて、すぐに家に戻れるようにはしています。母も、本当はデイサービスに行きたくないけれど、父や私のために行かなくては、と思っているのではないかと思います。ときどき正気になるときがあって、そのときに『あなたたちに迷惑をかけるから、施設に入れて』と言うんです。父は、『どこにも預けないよ』と返していますが」
認知症の人は、何もかもわからなくなっているわけではない。トキ子さんにも、夫や娘に迷惑をかけていると感じていて、そのことに対して申し訳なく思う気持ちはあるのだ。そう思うと、なんとも切ない。
【「東京に戻ると冷静になれる――遠距離介護を成功させるコツ」】
に続きます。
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。