取材・文/坂口鈴香

佐野しのぶさん(仮名・52)は80代の両親と暮らしている。母親がコロナに感染し、家族にうつらないように懸命に感染対策をしたが、父親、佐野さんの順に陽性になってしまった。最後に発症した佐野さんがもっとも症状が重かったという。

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見えないウイルスとの闘い

「家庭内隔離とか、絶対に無理だというのがよくわかりました。母が発症したあと、父や私にうつらないよう考えられる限りの感染対策をしてきましたが、次々と感染してしまいました。よほど広い家でない限り、感染を防ぐのは無理だと思います。そのうえ、私が一番症状が重かったんです。コロナにしては軽症ということはなるのでしょうが、それでも熱が高い間はかなり苦しかった」

両親は高齢ではあるが、介護が必要なわけではない。それでも佐野さんの心労は大きかった。

「うつらないように、見えないウイルスと闘うのは精神的につらかった。調子の悪い母はもちろん、皆イライラピリピリして家の中の空気が悪くなり、ケンカ直前という感じ。一番先に倒れたものの勝ちだなとさえ思いました」

母親は一時酸素飽和度が95まで下がったという。さらに悪化しないか気遣い、父親が陽性になってからは、二人の病人を抱えて佐野さんの緊張は一層高まった。

「父はすっかり病人オーラが出て、私も陽性になったあとは『陽陽介護』状態。私がいくら具合悪くても、病人となった両親はわがままだし、一人で療養できる人がうらやましかったです」

聞き取り調査とデータ入力の負担が重い

自宅療養者の体調管理として、保健所に加えて都のフォローアップセンターからも連絡が来て、聞き取りをされる。その後厚生労働省の感染者等情報把握・管理支援システム「My HER-SYS(マイハーシス)」にも入力を求められた。

「これも高齢者には難しいと感じました。マイハーシスは、両親の分も私が入力しないといけなかったし、入力したデータが都と共有されていないので、フォローアップセンターからの電話も1日2回来るんです。しかもそれが毎回30分くらいかかります。マイハーシスで入力するのと同じ細かい項目を聞かれるので、母はこれも嫌になってしまって私がかわりに対応することになり、具合悪いときは特に体にこたえました」

かかりつけ医について考え直すきっかけにもなったという。両親と佐野さんは、もう何十年も同じ医師に診てもらっている。家族のことを十分すぎるくらいわかってくれているという安心感は大きいという。

「ところがこの先生は、私たちがコロナになっても保健所に連絡してくださっただけで、あとは何もありませんでした。不安になった父がセカンドオピニオンがほしいと言いだして、別の医院にも連絡したところ、両親が高齢だからと往診してくださり、その後も何度か電話して様子を聞いてくださって心強かったです」

佐野さん親子は医師の対応の違いに驚くとともに、かかりつけ医の冷たさを改めて感じた。両親は比較的軽症だったとはいえ、高齢者はいつ急変するかわからない。自宅療養の不安は消えることがなかったので、セカンドオピニオンを求めた医師が往診をしてくれたのは涙が出るほどありがたく、かかりつけ医を替えることも頭をよぎったという。今後のリスク管理を考えると、かかりつけ医を一人に絞らないほうがよいのかもしれないと考えているところだ。

近所から聞こえてくる咳に連帯感を持つ

佐野さんの住まいは、23区内の住宅地だ。長く住んでいるので、ご近所の家族構成も互いによく知っているという間柄。それだけに母親が、配食サービスが来るのに人目を気にしたというのもまた現実だ。

「家族3人が激しい咳をしているとご近所にコロナ感染がわかってしまうと心配していましたが、窓を開けると周囲の家からも咳が聞こえてくるんです(苦笑)。これが第7波の実態なんだ、と変なところで実感しました。高齢化が進む町内ですが、みんながんばろうと少し力が湧きました」

佐野さんは母親が咳をしはじめてから、在宅勤務に変えた。話を聞いたときもまだ在宅勤務中だった。まもなく復帰できそうだというが、家族3人が少しずつずれて発症したため、とうとう半月も出勤できなかったとため息をつく。しかもその間5日くらいは寝込んでいたので、仕事はまったくできていない。熱がおさまってからは在宅勤務を再開したというが、勤務先は小さな会社なので復帰してからの業務量を考えると恐怖さえ感じるという。

これも一種のコロナ後遺症なのかもしれない。社会が“全快”する日はいったいいつになるのだろう。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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