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暮らし

親の終の棲家をどう選ぶ?|超遠距離介護を続けるシングル一人娘の今――三たび扉は開いた

取材・文/坂口鈴香

masa2さんによる写真ACからの写真

masa2さんによる写真ACからの写真

九州で二人暮らしをしていた両親がともに介護が必要になった、東京在住の中澤真理さん(仮名・54)。両親が再び自由に外に出かけることのできる暮らしを取り戻すために、仕事をやめ、退職金とこれまでの蓄えをはたいてマンションを購入した。

父の要さん(仮名・96)は、引っ越しの不安からかウツ状態になり、引っ越し後もしばらくは改善しなかった。中澤さんは気をもんだが、機能訓練型デイサービスに通うようになると次第に回復し、趣味の仲間と外出ができるようにまでなった。

中澤さんは実家のマンションで両親と暮らし、東京へは月1回、ハローワークに行くために戻るという生活を続けていた。

「親の終の棲家をどう選ぶ? シングル一人娘の超遠距離介護――退職金で親の家を買う」から続きます)

■前の会社で培ったスキルが生きた

引っ越して1年も経つと、両親の生活にもリズムが出てきた。要さんも落ち着いている。

退職して1年経ったら身の振り方を考えようと思っていた中澤さん。その1年になろうとするころ、再び中澤さんの前の扉が開いた。

「東京に行ったとき同級生と呑んでいると、人事系業務のコンサルタントができる人を探しているという話を聞きました。前の会社で最後に担当していたのが、まさに人事の仕事。『東京を拠点にして引き受けることはできないけれど、九州を拠点として時々通うのならできる』と答えると、『それでもいい』という返事。せっかく開いた扉なので、そこに飛び込んでみようと決心しました」

それから、中沢さんは人事コンサルタントとして業務委託を受け、週に2回客先の企業に通うことになった。

そして、毎週九州と東京を行き来してさらに1年ほど。次第に東京にいる時間を延ばし、帰省するのは2週間に1回程度になっていった。

「今は3か月に2回くらいのペースで帰省する生活です。フリーランスとして、人事系の仕事だけでなく、商品開発やマーケットリサーチなど、これまでの会社勤めで培ったスキルと人脈を生かして、幅広く仕事を受けています」

■90代、奇跡の二人暮らし

そして、両親は96歳と90歳になった。

「奇跡の二人暮らし」と中澤さんはいう。まさに、二人暮らしできるギリギリの年齢、健康状態だ。

「親の終の棲家をどう選ぶ? シングル一人娘の超遠距離介護――退職金で親の家を買う」で書いたように、要さんは機能訓練型デイサービスと趣味の詩吟に通っている。富代さんは台所仕事こそ一人でできているものの、買い物に行って、買ったものを運ぶのが難しくなってきた。ヘルパーと一緒に買い物に行ったり、体調に自信がない日は、買い物をお願いしたりしている。

「母は、近くに母の姉妹が住んでいるので、行き来しています。こういうことができるのは、呼び寄せではなく、地元にいることのメリットです。ただ、母の姉妹が最近相次いで倒れたので、母が食事をつくって、バスに乗って届けるのが日課になっています」

富代さんはそのための定期券も持っている、と笑う。

富代さんは新しいものが好きで、好奇心旺盛だ。スマートフォンのアプリで中澤さんとやり取りしている。そのほかにも、若い友人からパソコン操作を習ってカレンダーを自作したり、写真アルバムをつくったりして楽しんでるという。

こうして両親は周囲の若い友人にも支えられている。これも「奇跡の二人暮らし」が続けられている要因だろう。

「父の通院に付き添うと、せっかく私が帰ってきているのに、病院に時間を費やすのがもったいないらしく、待っている間に『なぜ病院に来ているのか』『今日はもういい』とか『病院に行く必要はない』などと言い出します。『検査しているんだよ』と説明しても、しばらくするとまた同じことを言い出す。ウツ状態は脱したとはいえ、不安にとらわれるとこうなってしまうし、96歳なので、認知機能も微妙なところがあるようです。それでも、ケアマネジャーさんやデイサービスのスタッフ、お友達などいい人たちに出会えて、頑固親父がリハビリを続けることができている。そのおかげで、この年でも二人暮らしができていることに感謝するしかありません。文句を言ったら罰が当たりますよ」

ケアマネジャーからも、「90歳を超えて、以前より元気になられたのは中澤さんのご両親だけです。この家に来るのが楽しみ」と褒められているほどなのだ。

「とはいえ、二人に残された時間はそう多くないことはわかっています。もし母だけが残されたら、東京に呼ぶかもしれません。母は好奇心旺盛ですし、気が若いので、私の友人などともすぐに意気投合するんです。きっと東京にもすぐ適応すると思います」

■未亡人になりたかった

先日、中澤さんが驚いた会話がある。中澤さんが、若い友人と九州旅行をした際、富代さんと3人でお茶を飲んでいたときのことだ。富代さんが、中澤さんの友人にこんなことを明かしたという。

「私は85歳まではなんとしても健康寿命を伸ばそうと思っていたの。そうすれば、そのときには私より6歳上のお父さんは90歳を超えていて、さすがにこの世にはいないでしょ。だから、85歳になったら真理のところに行こうと思ってたのよ。まさかこの年まで二人暮らしをすることになろうとはねぇ」

そして、こう嘆いた。

「お母さんは、未亡人になりたかった~!」

思いがけない富代さんの本音を聞いて、中澤さんと友人は爆笑した。

富代さんの本音、ちょっと怖くもあり、悲しくもある。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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