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取材・文/坂口鈴香

AKO110さんによる写真ACからの写真

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東京在住の中澤真理さん(仮名・54)の両親は九州で二人暮らしをしていたが、父要さん(仮名・96)が90歳になったころ異常行動が頻発するようになり、とうとう浴室で転倒して入院してしまう。原因は睡眠導入剤の多用によるものだった。東京から中澤さんが駆けつけたことで安心した母富代さん(仮名・90)も寝込んでしまった。

ようやく起き上がれるようになった富代さんと、これからの両親の生活について話した中澤さんは、富代さんがエレベーターのないマンションでの生活に限界を感じていたことを知る。両親の老いの現状に直面し、「親も死ぬんだ」と実感したのだ。

そこで、中澤さんは退職を決意する。50歳という人生の節目は、新しいコミュニティに入る最後のチャンスだと考えたのだ。そして、両親が再び自由に外に出かけることのできる暮らしを取り戻すために、退職金とこれまでの蓄えで、親のためにマンションを買おうと決めた。

「親の終の棲家をどう選ぶ? 介護のために仕事を辞めた一人娘」から続きます)

■高齢者施設ではなく分譲マンションを選んだワケ

「マンションを買おう」と決めた中澤さんだったが、老人ホームなど施設の選択肢を最初から排除していたわけではなかった。

「自立して暮らしてほしかったので、サービス付き高齢者向け住宅や高齢者用のマンションも考えたのですが、両親が『二人で暮らせるうちは二人で暮らしたい。それに老人しかいないマンションはイヤ』と言ったんです。『親と子は別人格だ』とも言われました。ここまで明確な意思があったので、それを尊重しようと思いました。そういうわけで、私と同居するという選択肢も消えました。もう長いこと離れて暮らしているので、私が休みで帰省していても、互いの生活のリズムやテンポが違う。それだけで親が疲れるのがわかるんです」

では、購入するのではなく「賃貸マンション」という選択肢はなかったのだろうか?

「父は今のマンションで死ぬと言っていたくらいなので、今さら年金暮らしの両親に賃貸というのはためらわれました。お金の管理をしていた母にとっても、負担になるだろうと思いました」

そこで、住まいの情報誌で新築マンションを中心に情報を集めた。中古マンションではなく、新築にしておけば、いざとなればそう大きく値崩れせず売れるだろうと考えたのだ。シングルで子どももいない中澤さんにとって、それが最善の選択だった。

■実家から3分の場所に予算ぴったりのマンションが

気になっていたマンションを検討していると、再び前の扉が開いた。

「実家から歩いて3分のところに、マンションの建設が始まったんです。パンフレットを取り寄せて吟味したところ、なかなか良さそうでした。母とモデルルームを見に行ったところ、母も気に入ってくれました。しかも、退職金と貯金を合わせた予算と、目星をつけた部屋の値段が、10万円単位までぴったり合致したんです。借金せずに買えるのは魅力でした。会社を辞める私にとって、借金は避けたかった。精神的に追い込まれますから。その点、このマンションなら身の丈に合っていると購入を決めたんです」

借金はしなくて済んだが、退職金は使い果たした。クルマも持っていない中澤さんにとっては、これまでの人生で唯一の高い買い物になった。

選んだのは、高層階でも1、2階でもなく、ある程度眺望も開けている4階の部屋。もちろんエレベーターもついている。しかも生活環境もこれまでとほとんど変わらない。同じスーパーで買い物もできる。

要さんは、入院してたくさんの薬を整理することができたが、完全に元通りにはなっていなかった。このまま認知症になるともう動けなくなるだろう。家は新しくなるが、両親と一緒になんとか乗り切ろうと覚悟を決めた。

後編に続きます】

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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