取材・文/坂口鈴香
上野明美さん(仮名・59)は認知症になった母親、トキ子さん(仮名・91)の介護のため、東京と実家のある静岡を往復していた。その後父親の竜二さん(仮名・93)も腰を痛め、要介護に。両親の介護と更年期が重なり、一時期は「お先真っ暗」と絶望的になっていた上野さんだったが、3代目となったケアマネジャーに支えられて、遠距離介護生活にもリズムができてきた。決して楽な状況ではないながらも、落ち着いた時間も持てていたのだが――。
(「認知症になった母――遠距離介護がはじまった」から続きます)
上野さんの介護生活は後半戦に入った。
■遠距離介護後半戦、軸足を移す
今年に入ってトキ子さんの状態が悪化した。突然高熱を出したトキ子さんを病院に連れていったところ、がんが見つかったのだ。
「余命3か月と言われました。手術をして、高熱の原因となっていた胆管の詰まりを取り除いてもらいましたが、これ以上の治療はできないので自宅で過ごしてくださいと言われて、自宅に戻りました」
手術後、いったんは元気になったトキ子さんだったが、自宅に戻ったあとは次第に弱っているという。余命といわれた3か月も過ぎた。上野さんは、トキ子さんを自宅で看取りたいと考え、訪問診療をしてくれる医師を探しているところだ。
10年になろうとしている上野さんの遠距離介護も後半戦に入り、静岡に軸足を置くようになった。上野さんの兄(61)もフリーで働いているので、常にどちらかが両親のそばにいるように調整している。
「幸いフリーの仕事なので、比較的融通がききます。東京にいる間に仕事を集中的にこなすなど、何とかやりくりしてきました。とはいえ、どうしても調整できないときはオファーを断らざるを得ないことも多く、仕事もだんだん減ってきているのですが……。それでもこうした働き方ができるのは、実家が静岡というクルマで2時間半で帰れる距離だからです。クルマで行き来できる距離じゃないと、遠距離介護は無理だったと思います」
週末には渋滞で5、6時間かかることもあるので、週末に東京に戻るのは避けているという。飛行機や新幹線を使う遠距離介護に比べれば、負担は少ないとはいうものの、月に何度も往復するのは決して楽ではないはずだ。
【次ページに続きます】