■年寄りばかりのところには、絶対行かない
トキ子さんが介護サービスを利用しはじめたのは、アルツハイマー型認知症と診断を受けてから4、5年経ってからだった。というのも上野さん家族は、トキ子さんが介護サービスを利用できることはもちろん、介護認定というシステム自体知らなかったのだ。
「たまたま私が静岡で通っている整体で、先生と世間話しながら母のことを話すと『介護度はどれくらい?』と聞かれました。それで、『介護度って何ですか?』と。そこではじめて、介護認定というものがあるのを知ったんです。ちょうどその整体の院長が介護施設を運営していたので、ケアマネジャーを紹介してくださって、母に会いに来てくれることになりました。そこで介護サービスとは何かの説明を受け、地域包括支援センターに行ってようやく介護認定を受けたんです」
異変を感じてから介護サービスを受けることができるようになるまで、すでに7、8年経っていた。
介護認定を受けて、「ようやく道が開けた」と喜んだ上野さんだったが、トキ子さんは自ら扉を閉めてしまった。
トキ子さんとともにデイサービスを見学した上野さんは、トキ子さんを置いて帰るように促され、午前中見学しただけで実家に戻った。ところが、デイサービスが終了して戻ってきたトキ子さんはカンカンだった。
「『あんな年寄りばかりがいるところ、ちっともおもしろくない。絶対行かない!』と。今思えば、この頃はまだ元気だったと思います」
【後編に続きます】
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。