I:一揆勢に過分に褒美を与えた…とありますね。こんな史料があるんですね!

A:『岡崎市史』では、〈不思議の伝がある〉とこの説を紹介していますが、そんなに突拍子もない話でもないかなと感じています。理由はいくつかあります。ひとつは、先ほどの松平清康殺害の背景には、〈織田信秀と三河の松平信定〉が組み、〈織田藤左衛門家と組んだ松平清康〉と対立していたという説が、近年有力視されています。尾張も三河も内紛絡みで、敵の敵は味方というグチョグチョの状況です。こうした中で、織田家は美濃の斎藤家とも同様の争いがあり、三河は三河で今川の圧力がある。その間隙をぬって甲斐の武田信虎(信玄の父)もちょっかいを出してくる。まさに「仁義なき戦い」。状況的には広忠殺害に織田家が関与していたとしても不思議ではないということを裏付ける史料だと思います。

I:なるほど。そういう史料があるということは、今回の設定が荒唐無稽ということではないのですね。

A:そうなります。それともうひとつ。かつては、松平竹千代(後の家康)が織田家の人質になったいきさつについて、『三河物語』に書かれていたように、当初今川方に人質として送られた竹千代を戸田康光(広忠の舅)が寝返って永楽銭千貫文で織田方に売り渡したという説が主流でした。

I:『三河物語』は、ほぼ同時代人の大久保彦左衛門が書いているわけですからね。

A:ところが、近年、織田信秀が岡崎城を落とした時期があって、その時に竹千代が人質として織田家に送られたという説も提起されています。この時期の尾張、三河の出来事は、合戦の年次も不確定だったり、何が本当のことなのかよくわからない。つまり、信長が広忠殺害に関与していたという設定もドラマ的にはぜんぜん不自然ではないのですよ。

I:ただ、松平家からみれば何代にもわたって争って来た織田家と〈竹千代=家康〉は、やがて堅固な同盟を結ぶことになるわけです。実父の殺害に関与した信長と素直に同盟できるものでしょうか。

A:そのあたりの展開は今後の注目ポイントですね。 まさか、〈本能寺の変 家康黒幕説〉の伏線だった、なんて考えたくもないですが・・・・・・。しかし、祖父・父が殺害された家康が後に江戸に幕府を開くことになるとは、歴史とは本当にダイナミックです・・・・・。ところで、その〈広忠の首〉が原因で信長が信秀に叱責されてしまいました。

I:涙を流さんばかりの表情を見て、〈信長かわいい〉と思っちゃいました。それと土田御前の〈この世には見てはならぬ物があるのです〉〈開けてはならぬ箱があるのです〉という台詞にゾクッときましたね。さらに、注目すべき点として、信長が帰蝶に干しだこを勧めるシーンがありました。

A:〈噛めば、空き腹がまぎれますよ〉ですね。なんか聞いたことがあるようなセリフでした(笑)。

I:第4話で光秀が松平竹千代に〈噛まずに口の中に含んでおくと、ずっと甘くて気が晴れますよ〉といって干し柿を与えていました。

A:干し柿は美濃の名産。干しだこは、尾張知多半島の名産です。お国の名産品を小道具的に投入する方針があるのかもしれません(笑)。『麒麟がくる』は、甘い食べ物を頻繁に登場させたり、芸が細かい。

I:で、美濃の干し柿と同様に、尾張の干しだこもお取り寄せしてみました。第8話で、信長が浜で魚をさばくシーンがありましたが、その背景にたこが干されていたのを見て、いち早く(笑)。ちょっと炙ってみました。

A:(たこを食べながら)お、これはうまい! 〈尾張の海の味じゃ〉と信長がいっていましたが、いや、本当に美味しい。お酒がほしくなりますね。

尾張の干しだこ

お取り寄せした干しだこ。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。

●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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