安土城での家康饗応に新解釈で臨んだ『麒麟がくる』。初めて劇中に登場した森蘭丸(演・板垣瑞生)の態度が、光秀のみならず秀吉ら織田家重臣が追い込まれていた現実を浮き彫りにした。
【前編はこちら】
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ライターI(以下I):今週は冒頭で、丹波の波多野兄弟が登場しました。
編集者A(以下A):丹波篠山の八上城に籠城した波多野一族と光秀との戦いでした。人質となった光秀の母が磔にされたというエピソードが伝わっている場所です。1996年の『秀吉』では野際陽子さん演じる光秀の母美が磔にされて絶叫していたことをご記憶の方も多いかと思います。
I:『麒麟がくる』では、石川さゆりさんが光秀の母牧を演じていましたが、今回は八上城の磔エピソードは採用されなかったんですね。石川さんの磔シーンを見たかった視聴者も多かったのではないでしょうか。
A:現地には、「はりつけ松」という〈現場〉が伝承されていますが、話自体は後世の創作説が有力視されていますからしょうがないです。でも八上城跡や丹波市にある黒井城跡などは訪れてみたい場所です。丹波篠山には何度か行ったことがありますが、城には行きそびれていました。
I:美濃や周山城(京都市右京区)、亀山城、福知山城などは取材で行っていますが、八上城と黒井城は廻り切れていませんでした。篠山名物の牡丹鍋の季節に行きたいですね。
A:磔は採用されませんでしたが、光秀(演・長谷川博己)が命を助けると言った波多野兄弟の首が塩漬けになって光秀の眼前に出されました。波多野兄弟が安土城下で処刑されたのは事実のようですが、このシーンは、朝倉義景、浅井久政、長政3人の首に金粉を施した薄濃(はくだみ)のエピソードを彷彿とさせる場面でした。『麒麟がくる』では、薄濃のエピソードは登場しませんでしたが、終盤、信長(演・染谷将太)の非道ぶりが強調されるエピソードが増えている中で、光秀が命は助けると明言していた波多野兄弟の首の塩漬けをぶち込んできたわけです。
I:信長の非道ぶりが際立ちました。どんどん信長が狂気じみた人物になってきました。比叡山焼き討ち以降、敗者を助けようとする光秀の姿が幾度か描かれましたが、ふたりの溝は深くなる一方ですね。
武田家滅亡直後の光秀と家康のやり取りに「麒麟」が見えた
A:前編でもお話しましたが、本願寺との戦いの勝利、佐久間信盛(演・金子ノブアキ)追放ときて、武田家滅亡までが一気に描かれました。その武田家滅亡直後、戦勝に沸く織田と徳川の中で、光秀と家康(演・風間俊介)のやり取りがありました。前週、家康から光秀に相談していた築山殿(演・小野ゆり子)と信康の問題がすでに両者が亡き者にされていたようです。
I:家康から、〈あれは私の失態。あの後わが妻と息子が武田方と通じ、謀反の意図があったと判明しました。信長さまに命じられる前にこちらで成敗すべきだったと恥じ入るばかりです〉と説明されました。
A:「松平信康事件の詳細は2023年大河ドラマの『どうする家康』で!」 という壮大で斬新な仕掛けなのか?と一瞬思いました(笑)。冗談はさておき、この光秀と家康のやり取りの中に「麒麟の正体」が見えたような気がしました。
I:それは気になります。
A:家康は、光秀の領国の近江と丹波がうまく統治されているとしたうえで、〈どのようなことを心掛けておられるか?〉と尋ねます。それに対して光秀は〈己の国がどれほどの田畑を有し、作物の実りがどれほど見込めるか、正しく検地を行ない、それに見あった人の使い方をし、無理のない年貢をとる〉と答える。
I:統治論のやり取りですね。
A:このやり取りを聞いていてハッとしました。「麒麟とは光秀のことなのではないかと」。もちろん光秀はこのあと、本能寺の変を起こしますが、その思想は家康に受け継がれていく。だとすれば、麒麟とは光秀なのではないかと。
I:なるほど。「麒麟を呼ぶ者が光秀なのでは?」と思っていましたが、実は実は、というのがあるのかもしれませんね。光秀そのものが麒麟というのは、すごくおもしろい。その答えが最終回に出てくることを期待しましょう。
【家康饗応で出た森蘭丸の台詞の意味。次ページに続きます】