休止も5週目に入った大河ドラマ『麒麟がくる』。いくらなんでも忘れてしまう! とならないように、後半戦の予習リポートをお届けします。
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ライターI(以下I):『麒麟がくる』休止が5週目に入りました。再開を待ち遠しいと思っている人が多いのではないでしょうか。
編集者A(以下A):永禄3年(1560)の桶狭間の戦いで織田信長(演・染谷将太)が勝利した段階でドラマは休止しているわけですが、ここから本能寺の変、山崎の戦いの天正10年(1582)まで、22年もあります。
I:『麒麟がくる』の残りの話数は23回ですから、単純にほぼ1年1話の計算になりますね。
A: 描いてほしい場面は山ほどあるんですけど、なかなか厳しいですね。桶狭間後の流れでいいますと、信長は本格的に美濃攻略に着手します。稲葉山城を落として「岐阜」と改称するのが永禄10年(1567)。桶狭間から7年経っています。
I:その間に、信長は小牧山城へ移転(永禄6年/1563)しますし、向井理さんが演じる13代将軍足利義輝が殺害されるという事件が勃発します(永禄8年/1565)。
A:将軍義輝殺害に際して松永久秀(演・吉田鋼太郎)たちがどのように立ち回るのか興味深いですね。おそらく「殺すつもりではなかった」という展開になろうかと思いますが、実際そういうことだったんだと思います。室町時代には「御所巻(ごしょまき)」といって、将軍の住まいを軍勢で取り囲んで自分たちの要求を通そうとすることが頻発していましたが、義輝殺害時も「御所巻」のつもりが暴発して殺害に至ってしまったともいわれています。
I:日曜の朝6時に1991年の『太平記』が再放送(NHK BSプレミアム)されていますが、観応の擾乱の際に「御所巻」の場面が登場しますよね。
A:はい。再放送中の『太平記』では秋以降の放映になるんですかね。比べてみると面白いかもしれません。脚本家はどちらも池端俊策さんですから。そして、義輝殺害を受けて僧になっていた義輝の弟が還俗して義昭として登場します(演・滝藤賢一)。義昭が朝倉義景(演・ユースケ・サンタマリア)を頼って越前一乗谷にたどり着く。
I:そこで光秀と義昭が出会い、やがて義昭は信長を頼るという流れになるのですね。
A:すでに細川藤孝(演・眞島秀和)、三淵藤英(演・谷原章介)などの将軍側近と光秀が懇意にしている設定ですから、義昭と光秀の出会いがどのように演出されるのか楽しみです。
I:『麒麟がくる』ではすでに、朝倉義景が将軍義輝の上洛要請も断る場面や光秀が朝倉義景の姿勢を疑問視する場面も描かれていますから、光秀主導で義昭を信長に引き合わせるという流れになるんですかね?
A:そこに「女軍師帰蝶」(演・川口春奈)がどう絡んでくるのか? そこにはきっと伊呂波太夫(演・尾野真千子)も絡んでくるでしょう。楽しみでしかないですね。
I:そして、ここから怒涛の展開になります。将軍になった義昭は信長を「父」とまでいって称賛しますが、すぐに仲違いする。それだけでなく、各地の諸大名に号令して「信長包囲網」を築いて信長排除に動き出します。
信長が窮地に陥る元亀の3年間
A:義昭の将軍就任が永禄11年(1568)ですが、翌年の10月には信長と衝突しちゃっています。ここで永禄から元亀に改元されますが、元亀の3年間(1570~1572)は信長にとってピンチの連続でした。金ケ崎の退き口がまさに1570年。信長が出した上洛命令に朝倉義景が応じなかったことから始まった越前攻めを端緒にする戦いです。信長の義弟である浅井長政が朝倉方についたために信長が窮地に追い込まれます。
I:金ケ崎は信長、光秀に加えて秀吉(演・佐々木蔵之介)、家康(演・風間俊介)が一堂に会する見せ場です。金ケ崎から朽木を経て京都に車で移動したことがありますが、山道だった記憶があります。
A:放送された回までで、信長と秀吉の出会いもまだ描かれていません。将軍義昭が本圀寺で襲撃されるという事件もあります。気になるのはお市や浅井長政のキャスティングが未発表ということ。一回登場するだけで済ませるんですかね? なんだか尺がいくらあっても足りないのではないかという印象です。
I:本当ですよね。尺足りるんでしょうか(笑)。元亀2年(1571)には俗に比叡山焼き討ちという事件も起こります。光秀が濃厚にかかわっているわけですが、『麒麟がくる』ではどう描くんでしょうか。これまでの大河では、光秀が比叡山焼き討ちを思いとどまるように信長に進言するという場面が幾度かありました。
A:そのあたりの描かれ方を興味深く見守っていきたいと思います。さて、同じ元亀3年には武田信玄が上洛を開始します。それまで信玄とは良好な関係を結んでいた信長にとっては衝撃的だったと思います。この信長×信玄問題は稿を改めて別途論じたいと思います。
I:ここまでで桶狭間の戦いから約12年。まさに怒涛の展開です。光秀が主人公とはいえ、どうしても信長中心になっちゃうのはしょうがないですね。
A:個人的には元亀年間にあった長嶋一向一揆についても触れてほしいです。信長の叔父信次、従兄弟の信成、信昌、兄弟の信広、信興、秀成など、織田一族も多くの犠牲を払った戦いでした。
I:そこまで描かれますかね? それこそ尺がいくらあっても足りない(笑)。長嶋一向一揆はさておき、足利義昭がしかけた〈信長包囲網〉はしっかり描いてほしいですね。さらにこういう怒涛の展開には菊丸(演・岡村隆史)、駒(演・門脇麦)らがうまく絡んでこないと小難しい話になってしまいがちですから、彼らの動きにも注目したいです。『麒麟がくる』のヒロインは駒ですが、同じ池端俊策さん脚本の『太平記』では、ほぼヒロイン役だった藤夜叉(演・宮沢りえ)が途中で不慮の死を遂げました。駒の行く末が心配です。
A:……。 それはさておき、大河ドラマの歴史の中では、『太閤記』(1965年)で、高橋幸治さん演じる信長人気が過熱し、助命嘆願の投書がNHKに殺到したそうです。その結果、当初8月に描かれる予定だった本能寺の変が10月まで延びたというエピソードがあります。『秀吉』(1996年)の際にも渡哲也さんの信長の人気があって登場回が数回延びたといわれています。
I:何が言いたいのでしょうか?
A:『太閤記』や『秀吉』のエピソードは年間に決められた話数の中で調整したということですが、大河ドラマの歴史の中で当初決められた話数を延ばしたという例は皆無です。しかし、『太閤記』の際に助命嘆願の投書が殺到したように、〈『麒麟がくる』をもっとやってほしい〉という声が殺到したならば、全44話の予定が数回延びないだろうかという淡い期待を抱いているわけです。
I:そんなこと起きますかね? 起きたら面白いですけど。
A:次週、本能寺の変までの10年間についてまとめたいと思いますが、関白近衛前久(演・本郷奏多)も登場しますし、あの松永久秀がどの面下げて信長配下になるのか、家康の嫡男信康切腹事件がどのように描かれるのか、興味は尽きません。尺が足りないなら伸ばせ! と声高に主張して今週は終わりたいと思います。
●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり