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三好一派の襲撃を受けて長刀で応戦する将軍義輝(演・向井理)。

怒涛の如くに展開する『麒麟がくる』後半戦。今週は将軍足利義輝(演・向井理)殺害という一大事変が描かれた。相変わらず東奔西走する明智光秀(演・長谷川博己)だが、将軍候補を巡って身もふたもない発言をしてしまう。光秀、大丈夫なのか?

* * *

編集者A(以下A): 鎌倉、室町、江戸の各幕府で征夷大将軍は39人を数えます。その中で、現職で殺害された将軍が3名もいます。鎌倉幕府第3代将軍源実朝(みなもとの・さねとも)に室町幕府第6代足利義教と第13代足利義輝です。

ライターI(以下I):鎌倉幕府第2代源頼家は、実朝に将軍位を譲った後に暗殺されているので除外しているのですね。その中で、今週の『麒麟がくる』では、第13代義輝(演・向井理)が殺害された永禄の変が描かれました。俗に剣豪将軍とも伝えられる義輝ですが、刀こそ握ったものの、意外とあっさりな最期でした。

A:〈戦戦兢兢、深き淵に臨むが如く、薄氷を履(ふ)むが如し〉――。最期を迎えるにあたって義輝が『詩経』小旻(しょうびん)の一節をそらんじていたのが印象的です。深い淵を覗いたり、薄氷を前にしたりしたときは行動が慎重になります。そうしたことを表していますが、『広辞苑』では、転じて〈危険に直面していること〉も表すようです。

I:義輝の最期は見る人によって印象が異なるのではないでしょうか。私は、これまで当欄が再三指摘してきた〈後半戦、尺が足りない問題〉の影響が出ていると見ました。せっかく向井理さんをキャスティングしたわけですから、もう少しじっくり描いて欲しかった。なぜ、最側近だった細川藤孝(演・眞島秀和)が義輝から離反したのか、義輝だけではなく、義輝の母(慶寿院)や弟(足利周暠/しゅうこう)まで殺されなければならなかったのか。松永久秀(演・吉田鋼太郎)が〈幕府の身内のものでさえ、義輝さまのご勝手ぶりにあきれ果てておる〉と言っていましたが、ドラマの中で己の力のなさに無気力にはなっていたものの、誅せられるほどの義輝専横の場面があったでしょうか。そこははっきりと残念だった部分として指摘せざるを得ません。

A:義輝の母は、近衛家出身で関白前久(演・本郷奏多)の叔母にあたる人物です。永禄の変は、京都が震撼する出来事でした。それだけにもっとじっくり描いてほしかったという気持ちはわかります。でも後半戦尺が足りないのはわかりきったことですから、こればっかりはしょうがないですね。ただ、多くの視聴者が期待しているドラマですから、そうした思いはどんどん主張してください。

I:(苦笑)。さて、 敬愛していた義輝が殺害されたことを知った光秀(演・長谷川博己)が激怒して大和の松永久秀を訪ねます。

A:『麒麟がくる』では、朝倉義景(演・ユースケ・サンタマリア)と光秀の関係がどうなっているのか曖昧な形になっていますが、義景は光秀の大和行きを許します。将軍の覚えもめでたい光秀の利用価値をはかっている感じですね。

I:義景の「使える刀かなまくらか」という台詞がありました。藤吉郎が初登場した際にも信長が「使えるぞ」と言っていました。それが〈戦国のリアル〉なのかもしれませんが悲しい台詞です。

A:〈使える家臣〉を多く抱えることが、戦国時代にお家を維持する指標だったと思います。そうしなければお家が滅びてしまいますから。まさに生きるか死ぬかの時代に、例え代々の重臣であっても〈使えない者〉は切り捨てざるを得ない。お家が傾いたら領国の民も人身売買されたりしますし、所領も野盗に襲われたりしますから。

I:確かに『麒麟がくる』第1話で人身売買と思われる縄をかけられた人々が描かれていました。〈使える家臣〉をどんどん抜擢して強くて大きな領国を築くことで、結果的に民も安心できるということになるのですかね。

京都政界はいつの時代も魑魅魍魎

光秀(演・長谷川博己)に将軍義輝殺害について問われ、自分を撃てといって光秀に銃を持たせた松永久秀(演・吉田鋼太郎)。

A:今回注目したい場面がふたつありました。まず、義輝が殺害されたことに激怒した光秀が「都から追い出すだけじゃなかったのか」と松永久秀を詰問する場面です。

I: 久秀が「わしの読みが甘かった」と言い訳していました。火縄銃に火をつけた久秀が「これでわしを撃て」と……。『仁義なき戦い』かよ!と思いました(笑)。

A: まあ、戦国時代ですから仁義もへったくれもないわけですが(笑)……。光秀と久秀は若い頃からの知り合いという設定ですが、この段階で主従でも同僚でもない。光秀が久秀に意見するのは筋が通らぬわけです。ところが光秀は、わざわざ越前から大和に飛んでまで自分の思いに忠実であろうとする。猪突猛進で無鉄砲。決して、後先を考えた行動ではない。本能寺の変の動機がどう描かれるのか、その伏線になっているような気がする場面でした。

I: 同様の場面がもうひとつありました。甲賀の和田惟政邸で覚慶(後の足利義昭/演・滝藤賢一)と光秀が会いました。その後越前に戻った光秀は、朝倉義景から覚慶は将軍の器かということを問われます。

A:光秀の回答を聞いて、唖然としました。なんと身もふたもないことを言い出すのかと。

I: 「あのお方はいかがかと思います」って、確かに衝撃的な回答でした。

A:ほかに将軍候補が複数いるのならば、覚慶を否定する回答はありです。しかし義輝を討った三好一党が擁立を目論んでいた足利義栄に対抗できるのは、覚慶しかいない状況で「あのお方はいかがと思います」と言われても……。逆に光秀に「では、ほかに将軍候補はいますか?」と問いただしたくなりました(笑)。

I:義昭のことを〈まごうことなき足利の血。尊き血は我ら武士の誇り〉という台詞もありました。義輝亡きいま、覚慶しか将軍候補がいない中で、光秀の考えは甘いということでしょうか。あるいは光秀は〈空気が読めない〉設定なのでしょうか。いずれにしても光秀の馬鹿正直なまっすぐな性格が、光秀の運命を左右することになるのですかね?

A:そうかもしれません。現在〈京都伏魔殿編〉が進行中ですが、今回も関白近衛前久が、伊呂波太夫(演・尾野真千子)のもとを訪ねて、三好一党に足利義栄に将軍宣下がなされるよう帝に言上するよう脅されていることを吐露しています。

I:本当に京の公家社会は魑魅魍魎ですね。今後、馬鹿正直でまっすぐな光秀が翻弄されていくのかもしれません。

A:これまでの光秀の動向をみると、馬鹿正直にやっていると、足元を救われるということになるかもですね。例えば、前週に義輝の御内書を持参して信長のもとを訪ねた際に、藤吉郎(演・佐々木蔵之介)にやんわりと〈今ごろ来ても遅いよ〉と示唆されています。

I:特に怪しい人物である関白近衛前久は足利義昭と並んで後半戦の重要なキーマンです。京の公家は歴史的に、恫喝してくる相手にとりあえずなびくことが多い。まさしく伏魔殿。おそらく来年の『青天が衝く』でも再来年の『鎌倉殿と13人』でも同様の描写が出てくるでしょうから。比較するのが楽しみです。最終的に京都が捨てられることになる過程を見ることができますよね。

A:近衛前久や今後の足利義昭の動向を見ながら、そうした歴史にも思いを馳せるのも大河ドラマ鑑賞の楽しみのひとつかもしれません。

不本意ながら帝に足利義栄の将軍職任官を言上する近衛前久(演・本郷奏多)。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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