2023年11月「糸引きマフィン」という見慣れない言葉とともに、食中毒事件が報道された。都内の焼き菓子店があるイベントに出店。そこで販売していたマフィンを食べた人が、嘔吐など食中毒が疑われる症状を相次いで訴え、リコールの対象になった。

その洋菓子店がオーガニック素材であることをうたい、砂糖を極端に使用していないこと、被害者対応が杜撰だったこともあり、非難の対象に。2年前からキッチンカーでサンドイッチを販売している正孝さん(70歳)は、「食品を売るのは責任を伴うのに利益が少ない仕事。私も衛生には気を使っている」と、口にする。

貯金5000万円でも、認知症への恐怖から清掃のアルバイト

正孝さんは、大手企業に勤めあげた。その後、定年を延長して65歳まで働き、現在は関東近郊でパン製造業を行う息子(45歳)夫婦と暮らしている。

正孝さんは、2020年からキッチンカーの仕事をしている。これには、息子夫妻の存在があった。息子たちは、十数年前に関東近郊の街に移住し、パン製造業に従事する。その後、その代表が病没し、後を継いだのだ。

この工場の創業年を聞くと、昭和30年代だった。これには、給食の需要があったからだろう。戦後は深刻な米不足や政府の方針もあって、給食はパンが中心だった。米食が登場するのは、1976年の『学校給食法施行』の一部改正からだ。

「創業当時、パンは作れば売れるし、人口増で大規模に作っていた時代もあり、先々代は相当羽振りがよかったみたいだけど、先代のときは夫婦とアルバイト3人で細々と作っていた。そこに息子たちが東京から移住して、入った」

しかし、少子高齢化と原料価格の高騰はとまらない。先代が死去した後、息子たちは付加価値をつけたパンも販売するように。

「地元産の小麦やフルーツを使ったりして、飲食店を中心におろしていた。でもあのコロナのときに飲食店のみならず、給食の注文がストップ。息子たちは子供がいないこともあり、夫婦でバイトしながら食いつないでいた。やがて、少ない貯金も底をつき、首が回らなくなった。息子から借金の相談を受け、それならばと一緒に仕事をすることになったんです」

正孝さんは、65歳の雇用延長が終わった後も「働き続けなくてはいけない」と老人介護施設で清掃の仕事をしていた。

「貯金も5000万円以上あり、マンションのローンも完済している。お金には困っていないけれど、仕事一筋、趣味もなく友達もいないから、家にいたら絶対に認知症になる。その危機感から、ハローワークに通って再就職活動をしました。65歳になると、バイトの求人もない。20社以上から断られて、それでも仕事を求めたんです。しつこいと担当者も味方になってくれる。その姿勢が大切」

息子に経営のアドバイスをするうちに、「仕事を手伝ってほしい」と言わるように。最初は、週に数日間、都内から通っていたが、やがて息子夫婦から「一緒に住んでほしい」と言われて、今は同居している。それまで住んでいた家は、親戚に月5万円で貸している。

「息子たちの持ち家は、夫婦2人なのに、6LDKだから(笑)。全くモノを置いていない部屋が4部屋もあるんだもの。家を貸し出して、民泊をしようという案もあったけれど、泊まりに来る人もいなければ、駅からも遠い僻地でどうにもならない。首都圏から車で90分なのにね」

【息子は母親に捨てられたショックを抱えて育つ……次のページに続きます】

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