「とりあえず、眠れる薬出しておきましょうか」から始まる眠剤生活

きっかけはかかりつけ医の処方薬

最近、寝つきが悪い。寝ても熟睡できない、途中で何度も目が覚める。睡眠に悩む人が増えています。「睡眠負債」なんていう言葉もできました。ストレスのせい、年のせい、それとも更年期のせい? 眠れないのは本当に辛い。そこで頼りたくなるのが「眠れるお薬」です。

「最近ちょっと眠れないんですよね……」
たとえば、かぜを引いて、かかりつけのクリニックに行って、診察中そんなふうに訴えると、医師から「じゃ、かぜ薬といっしょに眠れるお薬、出しておきましょうか」

または更年期を迎えた女性。婦人科で不安やイライラ、不眠などの更年期症状を診察してもらうと「では、ホルモン剤といっしょに眠れるお薬も出しておきましょうか」

あるいは整形外科通いをしている高齢の方が「夜中に何度も目が覚めてしまうんです」。すると、「じゃ、痛み止めといっしょに眠れるお薬も出しておきましょうか」

こんなふうに“眠れるお薬”を、かかりつけ医から処方されて飲み始める人も多いことと思います。睡眠薬は何科の医師でも処方することができます。内科や婦人科、整形外科だけでなく、皮膚科でも眼科でも処方することができます。

眠れない日が続くのは心身ともにたいへん辛いことです。かかりつけ医に話すのは自然な流れでしょう。医者のほうも“軽めの睡眠薬”を処方して「しばらく様子をみましょう」と、薬を出すことで患者さんが落ち着けばという気持ちもあると思います。

「薬のおかげで眠れています」では薬はやめられない

薬を飲んで眠れるようになり、薬がいらなくなるなら「よかったですね!」で終わりです。問題は、眠れるようになっても本人が「薬のおかげで眠れている」と思ってしまうこと。これではいつまで経っても薬を手放すことができません。かかりつけ医から「とりあえず」処方された睡眠薬が、いつまでも必要になってしまうのです。はじめ2週間分処方された薬が、次は「1か月分ください」となる。睡眠薬は向精神薬に分類され、30日分までしか処方できない薬が多いのですが、それでも患者さんが望めば、翌月分を処方する医師が多いです。

それでも気分が落ち着いて、服用をフェイドアウトできればいいのですが……。「薬のおかげで」と飲みつづけることの問題が、もうひとつあります。

かかりつけ医が不眠症の専門医ではない場合、その不眠症状の状態や原因を的確に把握して、適切な薬の処方ができていない可能性もあります。もしかしたら、その患者さんには、かかりつけ医では診断できない病が潜んでいるのかもしれない。別の薬が必要なのかもしれない。そうしたことが見過ごされるおそれがあるのです。

睡眠障害にまつわる診断はとても微妙で難しいものです。よく眠れない日が続くなら、やはりそれは睡眠障害の専門医を受診したほうがいいでしょう。

しかし患者さんの立場からすると、それもなかなかハードルが高いと察せられます。日本にはまだ睡眠外来はとても少なく、予約を入れると1か月も2か月も先しか取れなかったりします。睡眠外来以外となると、次は心療内科になります。

できれば心療内科のお世話になりたくない、という心理。かなり一般的になってきたとはいえ、心療内科に壁を感じる人は少なくないようです。かかりつけの内科や整形外科などで、“ついでに”睡眠薬を処方してもらいたい。その気持ちもわかります。

また、処方された薬が「よく効かない」場合は、別の薬と重ねて処方されることがあります。日本では2剤、3剤と複数出されることは珍しくありません。錠数を増やされることもあります。そうしてだんだん薬の量が増えていく。

睡眠薬に限った話ではありませんが、同じ薬を1か月飲みつづけて症状が改善しないのは普通ではありません。睡眠薬を1か月以上、飲みつづけている方は、医師にあらためて、率直に相談してみることをおすすめします。

宇多川久美子(うだがわ・くみこ)

薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『薬は減らせる!』(青春出版社)。

構成・文/佐藤恵菜

 

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