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ピアノは寄り添い、ギターはぶつかる。デュオには性格が出る?【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道37】

文/池上信次

(1)チック・コリア&ハービー・ハンコック『デュオ・ライヴ(原題:CoreaHancock)』(ポリドール)
チック・コリア&ハービー・ハンコック『デュオ・ライヴ』

チック・コリア&ハービー・ハンコック『デュオ・ライヴ』

演奏:チック・コリア(ピアノ)、ハービー・ハンコック(ピアノ)
録音:1978年2月

「編成で聴くジャズ」の今回はデュオの2回目。同じ楽器のデュオを聴いていきます。この「デュオ」は、ほかの編成に比べて、「こっちのほうが巧い」といったような「優劣」の部分を聴きがちです。同じ楽器ですから、そこに耳が向いてしまうのは当然なのですが、ジャズは演奏技術の巧拙を聴くものではありません。いかに個性を発揮するかが重要なので、むしろ同じ楽器のほうが違いが際立ちますから、ジャズとしての面白さが詰まっているともいえるでしょう。横綱同士の対戦にはそれならではの楽しみがあり、横綱と幕下の対戦であってもジャズでは必ずしも一方的な相撲にはならないということです。

ジャズではどんな組み合わせも有りですが、実際には同種楽器デュオはピアノとギターがほとんどといっていいでしょう。要するに、コード(和音)が出せる楽器でないと、デュオで音楽を組立てるのは難しいということですね。

ピアノ・デュオは、クラシックではモーツァルトの時代から多くの楽曲が作られています。ジャズでは1930年代から録音が残されています。ジャズでもピアノ・デュオを演奏する発想は、クラシックのピアノ2重奏からきているものでしょう。この時代はストライド・ピアノのスタイルが人気で、ジェームズ・P・ジョンソン、ミード・ルクス・スイス、アルバート・アモンズらのデュオが知られています。当時コードの演奏ができるジャズ楽器はピアノしかありませんでしたから、ピアノが最初というのは当然といえば当然なのですが(当時ギターやバンジョーはリズム楽器)。ストライド・ピアノは低音コードのリズムを生かしたソロ・ピアノの手法で、いわば「ひとりオーケストラ」を目指した奏法です。ふたつのオーケストラが即興でぶつかると破綻しますから、デュオではアレンジされた演奏が多かったようです。

という歴史あるピアノ・デュオですが、ぜひ聴いておきたいのは、ハービー・ハンコックとチック・コリアのデュオ。同世代で、前後してマイルス・デイヴィス・グループに参加、ともに「フュージョン」の開拓者。見方によっては強烈なライバルというふたりですが、じつは仲よし。それがこのデュオ演奏に見事に表れています。
タイトルは『デュオ・ライヴ』。リラックスしていながらも、こんなに高度なやりとりができるというのは、ほんとうに特別な間柄なのでしょう。寄り添いすぎず、離れすぎない音の会話がじつに自然で、ともに音楽を作る喜びに溢れています。そしてそれが、リスナーにもすごくよく伝わってくるのが素晴らしいところ。聴いていてじつに楽しいのです。ふだんは弾くことはないであろうお互いの代表曲「処女航海」(ハンコック)「ラ・フィエスタ」(コリア)を弾いているなど(ファン・サービスですね)聴きどころも満載。

なお、ふたりのライヴ盤『イン・コンサート』(ソニー)もまったく同じ時期の録音です。『デュオ・ライヴ』はコリアの、こちらはハンコックの所属レーベルからというものです。ちなみに、このふたりによる78年の来日コンサートは、なんと日本武道館で開催されました。その後もハンコックとコリアは頻繁に共演しており、またハンコックはイリアーヌ・イライアスと1995年に『ソロズ・アンド・デュエッツ』を、コリアは2008年には上原ひろみとピアノ・デュオ・アルバム『デュエット』をリリースするなど、両巨匠はピアノ・デュオ好きというところでも共通しているのでした。

(2)イリアーヌ・ウィズ・ハービー・ハンコック『ソロズ・アンド・デュエッツ』(ブルーノート)
イリアーヌ・ウィズ・ハービー・ハンコック『ソロズ・アンド・デュエッツ』

イリアーヌ・ウィズ・ハービー・ハンコック『ソロズ・アンド・デュエッツ』

演奏:イリアーヌ・イライアス(ピアノ)、ハービー・ハンコック(ピアノ/6曲)
録音:1994年11、12月

(3)チック・コリア&上原ひろみ『デュエット』(ストレッチ)
チック・コリア&上原ひろみ『デュエット』

チック・コリア&上原ひろみ『デュエット』

演奏:チック・コリア(ピアノ)、上原ひろみ(ピアノ)
録音:2007年9月

一方のギターは1940年代に「エレクトリック化」され、コードが弾けてソロがとれる楽器となり、晴れてジャズの「メイン楽器」となりました。しかし、ギター同士のデュオが注目されるのは1970年代になってからのことです。

1970年、「ロック・ギターをジャズに持ち込んだ」ラリー・コリエルが、アルバム『スペイセズ』(ヴァンガード)を録音・発表しましたが、そのなかの1曲「ルネズ・テーマ」がギター・デュオでした。共演はジョン・マクラフリン。マクラフリンも当時はロック派ジャズ・ギタリストでしたが、ふたりの演奏はまさに横綱同士のガチな勝負となりました。ふたりともアコースティック・ギターというのも珍しいのですが、ジャジーかつ大技満載のインタープレイは、今聴いても強烈な印象を残すことでしょう。

そして1977年、アル・ディメオラが『エレガント・ジプシー』(ソニー)を発表。そのなかの1曲「地中海の舞踏」がギター・デュオで、ディメオラの相手はパコ・デ・ルシアでした。超速弾きが売りのディメオラと、フラメンコの巨匠パコですから、火花散る超高速対戦となりました(ともにアコースティック・ギター)。そして同年ラリー・コリエルとスティーヴ・カーンがアコースティック・ギター・デュオ・アルバム『トゥー・フォー・ザ・ロード』(アリスタ)をリリース。アルバム冒頭の「スペイン」(チック・コリア作曲)が、これまた火花もの。おそらくこれがジャズ・ギター・デュオのアルバムとしては、広く知られた最初の作品と思われます(ちなみに、80年代からコリエル、ディメオラ、パコ、マクラフリンの4人は組み合わせを変えながら「スーパー・ギター・トリオ」として活動しました)。

「燃え上がりやすい」という楽器の特性もあるのでしょうが、こういった経緯もあって、ギター・デュオはアコースティック・ギターで「バトルもの」のイメージが強く作られてきました。そんな中で「バトル」しないのが、『ジム・ホール&パット・メセニー』。1998年、ジャズ・ギター・ヒーローのメセニーが大きな影響を受けた「心の師」ホールと共演したアルバムです。ホールはエレクトリックのみですが、メセニーはエレクトリックもアコースティックも弾き、お互いにリスペクトしながら、緻密に音楽を組立てていきます。とくに、メセニーの音色で弾くもうひとりのホールがいるというのは言い過ぎですが、影響を受けすぎているのかメセニーの「からみ」ぐあいは尋常ではありません。

「ぶつかり合い」も「からみ」もあり。どういうアプローチをしてもその度合いは強烈。この自由度と濃度の高さがデュオの面白さといえるでしょう。

(4)ラリー・コリエル&スティーヴ・カーン『トゥー・フォー・ザ・ロード』(アリスタ)

演奏:ラリー・コリエル(ギター)、スティーヴ・カーン(ギター)
発表:1977年

(5)『ジム・ホール&パット・メセニー』(ノンサッチ)

演奏:ジム・ホール(ギター)、パット・メセニー(ギター)
録音:1998年7〜8月

※本稿では『 』はアルバム・タイトル、そのあとに続く( )はレーベルを示します。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。近年携わった雑誌・書籍は、『後藤雅洋監修/隔週刊CDつきマガジン「ジャズ100年」シリーズ』(小学館)、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』、『小川隆夫著/ジャズ超名盤研究2』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)、『チャーリー・パーカー〜モダン・ジャズの創造主』(河出書房新社ムック)など。

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