薬効は、必要なところだけに効いているのではない
薬が体内に入ったあと、どのような道をたどるのでしょうか。まず、胃で消化されます。食べ物と同じです。薬の成分は血液中に入り、血流に乗って体内を駆けめぐります。薬が「効いた」のは、薬効成分が全身に行き渡っている状態を意味します。
薬が効果と副作用のセットであるのはこのためです。薬が患部にのみピンポイントで効いてくれればいいのですが、全身に回って、薬の必要ない箇所にまで届いて、望んでいない作用を出してしまいます。身近なものでは、眠くなる、じんましんが出るなどが見られます。
しかし、こうした自覚症状がないまま、副作用が起きていることもあります。たとえば頭痛薬。「これなしで生きられない」と常用している人が少なくありません。しかし解熱鎮痛効果のあるロキソプロフェンやイブプロフェンなどの成分は、頭痛にのみ作用するわけではありません。その強い作用は、以下に述べるように、身体の他の箇所にも作用を及ぼします。
薬の効き方に個人差が大きいのは、一人ひとりの身体が違うからです。よって、副作用の出方も個人差が大きい。出る人もいれば、出ない人もいます。症状が激しく出る人もいれば、あまり気にならないという人もいます。
薬は薬効だけでなく必ず身体のどこかで副作用を起こしていることを忘れないでほしいと思います。
薬を消化するためには大量の酵素が必要
錠剤、カプセル、粉末。形状は違っても、多くの薬は合成化合物であり、私たちの身体にとって異物です。薬はまず胃で消化されますが、薬の成分を分解するためには酵素が使われます。合成化合物を分解するには、大量の酵素が必要になるのです。
酵素とは体内で起こるあらゆる化学反応において、触媒として機能するタンパク質です。「酵素入り○○」「酵素ダイエット」という言葉もよく目にします。食べ物を消化するのも、アルコールを分解するのも、血液や皮膚をつくるのにも酵素は不可欠。身体の代謝を保つうえでその働きはきわめて重要です。
異物が身体に入ると大変なので、肝臓が一生懸命働いて、分解して、毒性のない状態にしてくれます。ここで大量の酵素が使われる。薬は身体にとって異物。薬を飲めば飲むほど、大事な酵素が消費されることになります。
このように薬を飲むということは、肝臓に負担をかけることでもあります。近年、4剤以上の薬を服用している多剤服用(ポリファーマシー)が問題になっています。1つでも負担ですが、それが多剤となれば、肝臓にかかる負担は大変なもの。ましてや生活習慣病を抱えて何年も飲みつづけている高齢者ともなれば、その負担は何重にもかかっているはずです。
酵素の減少が免疫低下を招く
私はこの酵素の大量消費を、薬の副作用のひとつだと考えています。酵素は食べ物などの消化、分解、エネルギーの代謝に必要不可欠です。その酵素が薬の分解に大量に消費されると、代謝にも影響が出て来ます。つまり代謝が悪くなるのです。
私が薬の飲み過ぎを警告するのは、この理由が大きいです。薬を飲むことで代謝が悪くなり、血流が悪くなります。近年、低体温の人が増えていると指摘されていますが、低体温になる要因のひとつは血流の悪化です。体温の低下は免疫の低下につながります。このように薬を飲みつづけるということは、将来、免疫低下を招くリスクがあるとうことです。
薬を飲んで症状が落ち着くと、人はホッとします。しかしそれは「治った」のではなく、あくまで症状を抑えた状態に過ぎません。症状が出るのは必ず原因があります。その原因を解消しない限り、症状は消えません。
痛み、熱、だるさ、その症状は身体からのメッセージです。SOS信号です。それを薬で落ち着かせてしまうと、結果的に、身体からの声が聞こえなくなってしまいます。身体に異変を感じたら、まずは自身の生活を振り返り、思い当たるフシを突き止める。これが薬と「一生のおつきあい」をしないための基本です。
宇多川久美子(うだがわ・くみこ)
薬剤師、栄養学博士。一般社団法人国際感食協会理事長。健康オンラインサロン「豆の木クラブ」主宰。薬剤師として医療現場に立つ中で、薬の処方や飲み方に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」をめざす。薬漬けだった自らも健康を取り戻した。現在は、栄養学や運動生理学の知識も生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に薬に頼らない健康法をイベントや講座で多くの人に伝えている。近著に『薬は減らせる!』(青春出版社)。
構成・文/佐藤恵菜