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難聴ではないのに聞き取れないのはなぜ？知られざる「聞き取り困難症（LiD）」の症状と対策

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2025/6/29

文／鈴木拓也

医誠会国際総合病院でイヤーセンター長を務める阪本浩一医師のもとには、「耳が悪いかもしれない」と訴える患者がよく訪れる。

まっさきに疑うのは難聴だが、検査でそうではないと判明することがある。

聴力に問題はないはずなのに、聞き取りが難しいという症状は「聞き取り困難症」（Listening difficulties＝LiD）と呼ばれる。

LiDは、人口のおよそ１％の割合でいると推測され、非常に稀なわけではない。しかし、世間でも臨床現場でも認知度が低いのが実情。そのため、周囲の人たちの無理解にさらされ、本人は人知れず悩むことになりやすい。

阪本医師は、LiDに苦しむ当人や関係者の理解の一助になればと、著書『聞いてるつもりなのに「話聞いてた？」と言われたら読む本』（飛鳥新社　https://www.asukashinsha.co.jp/bookinfo/9784868010630.php）を上梓。症状の詳細や対策を、多角的に論じている。

他の人の声が混じると聞き取れなくなる

LiDをはじめて知ったという方には、難聴ではないが聞き取りが難しいとはどういうことか、ピンとこないかもしれない。

本書の冒頭に、その１例がある。オフィスで勤務するBさんに、取引先のMさんから電話がかかってくる。Mさんは明瞭に話しているのだが、Bさんには、次のように聞こえる。

「すみません、Bさん。Ｏ商事のMですが、昨日送ったメールで至急●＠だので、□って△る￥で、でき＋す＊？」

肝心なところが聞き取れないので、Bさんは何度か聞き直すが、一向に聞き取れず困り果ててしまう。

実はこのとき、電話のそばでは２人の社員がおしゃべりをしていた。Ｂさんは、静かな場所だと聞き取れるが、別の声が混じると聞き取りに困難を覚えてしまう。これは、典型的なLiDの症状である。

言葉が虫食い状態に聞こえるだけではない。ほかにも「すべての音が同等に聞こえたり、すべての声が重なったりする」「音としては認識するが、単語として聞こえない」というパターンもあるという。いずれにしても、生活や仕事に大きな支障をきたしかねない症状である。

発達機能の凹凸が原因のことが多い

阪本医師によれば、LiDになる背景要因はいくつか考えられ、その６割ほどが「発達機能の凹凸（偏り）」だという。

何かを思考するといったことに比べ、音を聞くのは自動的になされるので、簡単なことに思われるかもしれない。しかし、実はこれも複雑な脳の働きのおかげでなりたっている。

人の声が耳に入って、音声として正しく認識するには、「覚醒水準」「注意力」「語彙力」「ワーキングメモリ」「推測力」が正しく機能していることが必要。どれか１つでも足りないと、聞き取りが難しくなってしまう。こうした能力についての詳細は本書に譲るが、LiDの人は、いずれかの能力の発達に「凹凸」がある可能性が高いそうだ。

ところで、発達の「凹凸」と言えば、ADHDといった発達障害が連想されるが、LiDの大人の多くは、発達障害ではないが、それに近いグレーゾーンだという。そのため、子どもの頃は見過ごされやすく、社会人になって聞き取りに悩む場面に直面して、何かがおかしいと自覚することになる。

まずは騒がしい場所を避ける

阪本医師は、LiDは「進行性のある病気ではなく、ひとつの特性／個性」であると説明している。

だからといって、放置していいものではない。仕事・生活面での苦労はついて回るし、将来的には「認知症のリスク」が上がる可能性もあるとも。

幸いにも有効な対処法はいくつもあり、本書ではそれらについて解説がなされている。

基本的な方法の１つが、「騒がしい場所を避けること」だ。

プライベートで人と話をするときは静かな店を選ぶ、家族と会話するときはテレビやラジオ、BGMなどの音は消す、生活音を抑えるためにリビングのイスや机の脚にカバーをつける、電話をするときは静かな場所に移動する。（本書162pより）

といった工夫をするだけでも、「聞き取りがグンと楽になります」とある。

さらには、聞き取り能力を向上させる方法として、テレビ番組『３分クッキング』を書き取るというのが推奨されている。聞きながら文字を書く作業によって、「脳の大規模なネットワークの相互作用が高まり、言葉を理解する力や聞き取りの向上が期待」できるそうだ。しかも１回３分だけなので疲れにくく、習慣化しやすいというメリットもある。

他にも、LiDの人たちが実際に行っている対策や、医師の処方にもとづく投薬、日ごろの生活習慣など、様々なアドバイスが記されている。

「もしかしたら自分はLiDではないか？」と心当たりがあるのなら、本書を一読してはいかがだろうか。きっと、希望が開けるはずである。

【今日の健康に良い１冊】
『聞いてるつもりなのに「話聞いてた？」と言われたら読む本』