文/晏生莉衣
ラグビー ワールドカップで学ぼう! 知っているようで知らない英語のルール(3)【世界が変わる異文化理解レッスン 基礎編26 】世界中から多くの人々が訪れるTOKYO2020の開催が近づいてきました。楽しく有意義な国際交流が行われるよう願いを込めて、英語のトピックスや国際教養のエッセンスを紹介します。

* * *

英語のスペルと発音には色々なルールがあります。これまで2回にわたり、次の基本的なルールを3つ紹介してきました。

1.「音節中、母音が1つで最後にくると、長く伸ばして発音される」(例:no, go, me, we)
2.「音節中、母音が1つで子音が最後にくると、母音は短く発音される」(例:cat, red, big, song, sun)
3.「単語の最後がeで終わる場合、そのeは発音せず、eの前にある母音は長母音の発音になる」(「サイレントe」のルール)(例:wine, make, home, gene, use, tube)

今回は、現在、日本で熱戦が繰り広げられているラグビー ワールドカップから、こうしたルールが使われている単語をピックアップしてみたいと思います。ラグビーにくわしい方も、英語の勉強と思ってどうぞおつき合いください。(その前にそれぞれの発音についてもっと知りたいという方は、レッスン24レッスン25をご参照下さい。)

・「no side」

まず、ラグビーの精神「no side」には、1と3のルールが使われています。noは1のルールで母音のoを長く発音してノー。sideは最後のeを発音せずに、その前の母音iをアイと発音しますが、これは「サイレントe」のルールがあるためです。カタカナでは「サイド」と書きますが、英語では、最後は子音のdの音だけで、ドというしっかりした音にはならないことにご注意を。

・「sin-bin」

反則をした選手に審判からイエローカードが出されて10分間の退場。「シンビン」と言われますが、英語ではsin-binと書きます。ハイフンはつけなくてもかまいません。ラグビーのにわかファンには聞き慣れない用語ですが、sinは罪や違反など、binは大型の箱・容器、貯蔵する入れ物・場所などのこと。日本ではそういう呼び方はあまりしないのですが、英語圏では大きなゴミ入れ容器のことをbinと呼び、リサイクルするものを入れる大きな容器はrecycle binです。食パンを入れておく保存用の箱はbread bin、穀物貯蔵庫はgrain bin。こうした発想から「sin-bin」は「罪や違反を入れておく場所」というような意味になり、一時退場者が座らされる場所やベンチのことを指しますが、実際には、一時退場の罰則そのものを表す意味合いで使われていますね。アイスホッケーではペナルティボックスとも言いますが、それよりもかなり独創性のある呼び方に聞こえます。

さてここからがスペルと発音のルールについての話ですが、sin、binともに2のルールが使われています。どちらも母音はiが1つで子音のnで終わっていますから、iを「イ」というように短く発音してシン、ビンとなります。これに対して、上記のように、sideのiは「アイ」という長母音の発音ですが、こうした違いはそれぞれのスペルと発音のルールからきています。

world cupのcup、rugbyのrugの音節を始め、scrumやrunなどにも同じ2のルールが使われています。ここで注意したいのは、これらの単語はスペルだけ見ると、uの部分をローマ字読みに「ウ」と発音しそうになりますが、2のルールによって、「ア」に近い短母音の発音になることです。子音で終わり、母音が「u」1つしかない短い単語のほとんどは、uが「ア」に近く発音されると、こうした例から覚えておくとよいでしょう。

3の「サイレントe」のルールは、こんな用語にも使われています。

・line-outなどのline
・half timeなどの time
・scrum zoneなどのzone
・advantageのtageの音節

これらはいずれも最後のeは発音されず、その前の母音は長母音の発音(aはエィ、iはアイ、oはオーというようにアルファベットの発音と同じ)になっていることがおわかりになりますか?

カタカナ用語を英語に

では次に、よく出てくるラグビー用語を例にして、その他のルールをいくつか紹介しましょう。ここではまずカタカナ用語で示しますので、スペルを考えてみて下さい。

・「プール」

サッカーでは予選組み合わせで決まった出場国の集団をグループA、グルーブB…と呼びますが、ラグビーではプールA、プールB…と言いますね。スペルも発音も水泳のプールと同じ「pool」ですが、水泳のpoolは古英語から、こちらのpoolはフランス語由来と、別々の単語です。さて、ここでのスペルと発音のルールは「oがooと2つ続くと、ウーかウというような発音になる」というものです。oならオーかオと発音しそうですが、ooとダブルになると本来のoの発音とは変わるのがポイントです。

poolはウーと長く伸ばすケースで、他にmoon, food, schoolなどがあります。ウと短く発音するのはbook, cook, look, goodなど。短いウの発音はooにkが続く単語に多くありますが、どちらの発音になるか、はっきり区別するルールはありません。日本人の方はたいていの場合、正しく発音できているので、それぞれ発音してスペルと音の長さの違いを再確認してみて下さい。

ここで1つ補足です。ラグビーでは、blood injury(出血をともなうケガ)についての規定がありますが、このbloodの発音は、ooがウー、ウにはならない例外です。発音はご存知だと思いますので実際に声に出してみると、アに近く発音することがおわかりになるでしょう。発音ルールには例外がつきものなので、例外もいっしょに覚えてしまうと楽です。

・「レフリー(レフェリー)」

審判を指すレフリーは、refereeとつづります。上記のpoolはooが2つでしたが、refereeでは最後がダブルのeeになっています。ご参考までに、現在の日常的な英語では、このように同じ母音が2つ続くスペルは「oo」と「ee」以外にはほぼありません。

ここでのルールは、「eがeeと2つ続くとイーのように発音される」というものです。ooのように新しい音を作り出すわけではないので簡単です。ただし、一般的な日本語の「レフリー」の発音とは違って、英語では最後のeeにアクセントがつきますので気をつけて下さい。tree, free, meet, tweet, greenなどもこのルールの単語です。

・「モール」

プレー中に複数の選手が立った状態で組み合っている時に、その状態を指す「モール」という表現がよく出てきます。ショッピングモールのmallを想像しがちですが、正しくはmaulですね。auという二重母音はローマ字式に「アウ」と発音しがちですが、「オー」というような発音になることが注意点です。(ただし、イギリス英語とアメリカ英語では若干発音が異なります。) 身近な例ではaudio, auction, Australia, sauceなど。それぞれ声を出して発音してみるとよくおわかりになると思います。

このように、英語の発音は母音だけとっても、日本語の「あいうえお」と違ってスペルの組み合わせによって発音が異なってきます。今回紹介したpoolではoが2つもあるのにオーと発音せず、maulはoが使われていないのにオーと発音。英語圏の子どもたちが単語の読み書きに苦労するのがわかるような気がします。

以上、ルールを追加して紹介しました。時に例外がありますが、ルールは基本的にほとんどの単語にあてはまるものです。日本で行われるビッグなワールドイヴェントをレッスン材料にすれば、ちょっととっつきにくく思える英語のスペルと発音のルールの勉強も面白くなるのではないでしょうか。こうしたルールが使われている単語は、ラグビー関連でもまだ色々とありますから、みつけて書き出してみるのもよい頭の体操になります。ノーサイドの精神でどのチームも応援しながら、ワールドカップで楽しく学んで下さい。

文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外で研究調査や国際協力活動に従事。途上国支援や国際教育に関するアドバイザリー、平和構築関連の研究等を行っている。

 

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