文・晏生莉衣

SDGsの取り組みが日本のあちこちで実践されている今、世界はつながっていて、自分たちはそのつながりの中で生きていることへの理解が深まっています。そうした気づきから、世界にはさまざま支援を必要としている人たちがいることに思いを寄せ、その人たちのためになにかしたいと願う人たちが増えています。

貧困の中で苦しい生活を強いられている子どもたちを助けたい。
危険な土地に暮らす人たちを救いたい。
でも、どうすれば? 
自分にはなにができる? 

困っている人たちのためになにかをしたいという思いを形に変える方法としてよく使われるのが、寄付という行為です。ヴォランティアをする日本人が増えているとはいえ、どこかの国に行って支援のヴォランティアをするというのは誰にでも簡単にできることではありません。それで、「そうした活動はハードルが高くて無理だけれど、その代わりに、国際協力活動を行っている団体にお金を送って支援を必要をしている現地の人たちのために役立ててもらおう」と、そんなふうに考えて募金に協力するという方法を選ぶようになるのですが、そうする際に、同時に「自分が寄付するお金ははたしてきちんと現地の困っている人たちに届くのだろうか」と考えてしまうという声もよく聞かれます。

どこかの途上国で支援活動を実際にしていて信頼の置ける間柄の人に、「現地で困っている人たちのために役立ててください」と現金をお渡しすれば、それはきっと一番確かな方法で、そのお金はご寄付者のご希望どおりにそっくりそのまま現地の人たちのために使ってもらえるだろうと考えて安心することもできるでしょう。でも、信頼できる国際支援ワーカーが身近にいない限り、そういう方法はなかなか取れないものですね。そのため、代替策として国際協力活動を行っている団体に寄付をしようということになるのですが、こうした団体の中で、NGO法人と呼ばれる非営利組織や公益法人など、法律に基づいて法人格を持っている団体は、財務状況や事業報告を毎年ウェブ上に公開していますので、どのようなお金の使い方がされているか、ざっくりとしたところはそうした公開資料から把握することができます。

寄付や募金は団体の収入源

ただし、お金の使われ方について一般的に言うと、寄付や募金で団体に集まった支援金がそっくりそのまま海外の現地支援活動に使われるということは、特定の使途を指定した募金や寄付の場合を除き、ほぼありません。国際協力団体の主な収入源の一つは、寄付や募金で集まった支援金のほか、団体を支える会員の支払う会費など、善意で寄せられるお金ですが、それ以外に、公的機関などからの国際協力活動に関する助成金が収入の一部となっているケースがほとんどです。それらを合わせた総収入から団体の運営や活動にかかるさまざまな経費が支出されます。

具体的には、海外での現地活動にかかる人件費や旅費などの事業費と、国内でかかる人件費や事務所賃料、光熱費代といった管理費の支払いに充てられるほか、広報やアドボカシー活動にかかる費用や募金活動にかかる費用も団体の収入から支出されます。寄付や募金で集められた支援金から募金活動にかかる経費が支払われているというのはなんだかなぁと、感じられる方もいらっしゃるかもしれません。でも、全員が手弁当の無給ヴォランティアで、その中のどなたかの自宅や所有する場所を利用してすべて自前や持ち出しの活動を行っているというような完全なる任意の慈善活動でない限り、団体を運営するための諸経費というものが発生しますので、寄付や募金がこうした経費のために支出されるということは、実際にはどの国際協力団体でも行われています。

寄付先を選ぶポイント

ですから、寄付をしてもそのすべてが世界のどこかで苦しんでいる人たちの手に渡るわけではないのですが、それでも、そうした人たちに寄付者の善意が確実に届けられるなら、それは助けが必要な人たちにとってはかけがえのない命綱となります。

では、どこに寄付をしたらいいの?
どの団体に寄付すれば有効に役立てられる?
この団体は信用できる?

寄付を有効に使ってもらいたいと思うのはお金を出す側からすれば当然のことですので、そんな疑問を抱いたら、各団体が公表している決算報告書や監査報告書をチェックしてみましょう。ただ、そうした財務資料は会計用語が使われていてわかりにくいことも多いので、基本的なチェックポイントとして人件費に注目してみてください。基本的に、人件費は総支出を指す「経常費用」の欄に、事業費と管理費の項目に分けて記載されていますが、それぞれにどれだけの人件費がかかっているかで、その団体の活動の仕方を大まかに把握することができます。人件費は団体の運営や活動に必要なものですが、あまりに高い人件費が使われると感じたなら、寄付先候補から外してもいいかもしれません。

また、経費全体のうち、国内人件費を含む管理費の占める割合が高い場合は、その団体が実際に行っている海外支援活動数が少ない、あるいはそもそも自分たちが海外支援活動を行うのではなく、アドボカシーを活動の中心としていて、支援金を集めて他の機関に送金することを目的としているといった団体であるケースが考えられます。あるいは、集められる寄付金は限られているのに都内に事務所を構えて国内スタッフにそれなりのお給料を払っているというような団体の場合も、おのずと管理費の比率は高くなります。

国際協力団体はそれぞれが掲げるミッションによって活動形態が異なりますから、自分が思い描く国際協力や支援のイメージに近い活動をしている団体を寄付先に選んだほうが、寄付する側の満足度も高くなり、気持ち的に納得がいくということになるでしょう。

1000円寄付したらいくら現地に届く?

ただ、どのようなことにどれだけのお金が使われているのかは財務資料だけではよく見えてこないのも事実です。そうした不透明さをなくすために、活動内容や経費の項目をより詳細に明らかにしてわかりやすく公表している団体もあります。そうした団体であれば、より具体的にその団体の活動のあり方が理解できますし、透明性やアカウンタビリティ(説明責任)を高める努力が見られる点から寄付する側の信頼度アップにもつながるでしょう。

ウェブ上の公開情報から寄付先候補の団体を調べる以外に、たとえば、「1000円寄付したらそのうちどれだけの金額が現地支援に当てられますか」と、その団体に電話やメールなどで問い合わせてみるのも一案です。きちんと答えが返ってくるかどうか、またその答えの内容が納得できるものかどうか、そうしたことも、寄付先としてその団体を選ぶかの判断材料になるでしょう。法人格を持たず、ウェブで財務状況を公開していないけれど、自分たちにできる国際協力や支援活動を高い志を持って行っているという組織は規模の大小を問わずありますから、そうした団体へは直接問い合わせる方法で確認してみてもいいですね。

寄付や募金したいと思う気持ちはとても貴重なものですから、その尊い心がけが無駄にされないように、支援金が世界のどこかで苦しい生活を送っている人たちに間違いなく届くしくみが明確化されているかどうかも、寄付先を選ぶチェックポイントになるでしょう。

* * *

寄付をする日本人が年々増加しているという統計があります。昨今は新型コロナウイルス感染拡大がこの傾向に影響しているのではという指摘もありますが、悪い出来事の中からでも他人への思いやりや助け合いという善が生まれてくるような社会を築いていけたら、私たちの未来は少しずつでも明るくなっていくのかもしれません。

文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外研究調査や国際協力活動に従事。平和構築関連の研究や国際交流・異文化理解に関するコンサルタントを行っている。近著に国際貢献を考える『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。

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