文/晏生莉衣
体に不調を覚えて病院で診察を受ける。だれにでも起こりうることですが、実際に医者にかかるとなると、いったい自分はどんな病気なのか、どんな治療をするのかと不安になるものです。診察を受けて、「大丈夫、じきに治まりますよ」ということで済めばホッとしますが、くわしい検査が必要となれば気持ちは落ち着きません。
そして、検査の結果、入院や手術が必要と告げられたら、それだけでパニックに陥って、どうしたらよいのかわからなくなってしまうかもしれません。そんなとき、冷静になって病気との向き合い方を考えていくための方法の一つが「セカンドオピニオン」です。
「セカンドオピニオン」でなにがわかる?
「セカンドオピニオン」を直訳すれば「第2の意見」。治療を始める前に、今かかっている医師とは別の医師の意見を聞くことです。
病気や治療の説明についてよくわからない点や疑問がある、あるいは、他の治療法があるなら検討してみたいと思う場合などに、現在、診察を受けている先生(主治医)の同意を得て、紹介状とそれまでの検査結果のデータや所見などの資料を提供してもらい、それを別の専門医に見てもらって意見を聞くことをいいます。基本的には、別の医療機関に行って、そちらの専門医に相談します。
セカンドオピニオンを求めることで、最初にされた診断や提案された治療法について、別の医療機関の専門医からさらに説明を受け、助言をしてもらう機会が作られるので、病気や治療法についてよりよく理解できるようになることが期待されます。
特に、がんなどの命に関わる病気であれば、どのような治療が自分にとって一番良いのか、慎重に考えたいと思うのは当然ですから、最初に行った病院で提案された治療を受けるべきかを決めかねているなら、セカンドオピニオンというチョイスは、悩み迷い続ける状態を抜け出すきっかけにもなるでしょう。
メイヨークリニックが明らかにしたメリット
この「セカンドオピニオン」は、アメリカで始められた医療サービスです。現在、アメリカの多くの病院でセカンドオピニオンに関する対応が整えられていますが、トップクラスの医療機関であるメイヨークリニックもセカンドオピニオンに積極的に取り組んでおり、その一環として大変興味深い研究結果を発表しています。
研究対象となったのは、複雑な病状を持ち、同クリニックでセカンドオピニオンを受けた286人の患者です。研究によると、そのうち、最初の診断が同クリニックの専門医によるセカンドオピニオンと正確に一致したのは、たったの12パーセントでした。残り88パーセントについてはなにかしらの点で別の見立てがされ、そのうち21パーセントについては最初の診断とはまったく異なる意見が出されたことが報告されました。(*1)
これにもとづけば、5人に1人以上の割合で最初の診断が間違っている、より端的に言えば、誤診の可能性があったということになります。 研究を行った専門家は「セカンドオピニオンを得なかったら、これらの患者はどうなっていたのだろうか」と、懸念を表しています。
同クリニックが行った新たな研究では、医師の診断に影響を与えるさまざまな要素を考慮し、セカンドオピニオンが偏った診断を修正する機能についてシミュレーションを行っています。その結果、医師による診断の精度にムラがあったり、質の高い医療へのアクセスが限られていたりする状況では、セカンドオピニオンがきわめて貴重であることが報告されました。(*2)
興味はあるけど、実際はむずかしい?
メイヨークリニックのこれらの研究結果は、自分や家族が納得する治療を選んで受けるための手段として、セカンドオピニオンに大きなメリットがあることを明らかにしています。
しかし、そうしたメリットがある一方で、これは日米ともに同様なのですが、「セカンドオピニオンには関心があるけれど、実際に利用するのはむずかしい」という声も聞かれています。日本とアメリカでは医療制度が大きく異なるので、これからは日本の状況にしぼって考えてみましょう。
日本でセカンドオピニオンの利用を妨げる要因の一つは、その費用です。セカンドオピニオンは、公的健康保険が適用されない自由診療となります。したがって、かかる費用は全額自己負担です。重い病気の疑いがある場合、高額な治療費の出費がこれから続くだろうと考えると、自由診療扱いのセカンドオピニオンのために決して安くはない費用を払うことに躊躇を覚えてしまうかもしれません。少しでも気軽にセカンドオピニオンを利用できるようにするために、費用負担の軽減策を政府や自治体に求めたいものです。
また、別の要因としてあげられるのが患者側の心理です。セカンドオピニオンを受けたいと伝えれば、現在診てもらっている先生の気分を害してしまうかもしれないし、信頼関係を損ないたくないといった思いから、主治医に「他の先生の意見を聞きたい」とは言い出しにくいと感じてしまう方も少なくないでしょう。
しかし、だれにでも、自分の病気について正しく知る権利があります。自分で治療法を選ぶ権利もあります。ですから、セカンドオピニオンに関心があるなら、遠慮せずに話してみましょう。本当に患者のことを一番に考えてくださる先生なら、問題なく協力してくださるはずです。
受けやすい環境が広がっている
さらに、昨今は追い風も吹いています。日本でも、主要な総合病院にセカンドオピニオン外来が設けられるようになってきましたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延によりオンライン診療が広がったことから、セカンドオピニオンについてもオンライン受診ができる病院が増えてきました。
これまでは施設が整った大都市圏の総合病院でセカンドオピニオンを受けたくても受けるのがむずかしかったという遠方にお住まいの方でも、オンラインでの受け入れ体制が進んだことで受診が可能になりましたし、オンラインの場合は自分の家で受診できますから、病院の診察室で緊張した空気の中で行われるよりも、よりリラックスした環境で、医師の話を落ち着いて聞くことができるというメリットもあります。
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あまり意識しませんが、私たちは普段の生活の中で、さまざまな比較をして自分にとって良いと思うほうを選ぶという行動を繰り返しています。ところが、なによりも大切なはずの自分の健康については、その習慣を離れて、すべてお医者さんまかせにしてしまうといった消極的な態度が取られがちです。
医療のプロの助けは必要ですが、自分の身体のことですから、そのケアについては自分で選ぶ。そのプロセスにおいて、セカンドオピニオンを聞いて参考にすることはプラスになるでしょう。何事でも自ら積極的に取り組む姿勢は満足感を生みますが、それは病気についても同じことです。
そして、あまり情緒的にならず、セカンドオピニオンを自分の病気に関する情報収集の一つととらえれば、その重要性を理解しやすくなるかもしれません。
*1: Monica Van Such MBA, Robert Lohr MD, Thomas Beckman MD, James M. Naessens ScD. “Extent of Diagnostic Agreement among Medical Referrals.” Journal of Evaluation in Clinical Practice. 04 April 2017.
*2: Michael Halasy, DHSc, MS, PA-C, and Jason Shafrin, PhD. “When Should You Trust Your Doctor? Establishing a Theoretical Model to Evaluate the Value of Second Opinion Visits.” Mayo Clinic Proceedings: Innovations, Quality & Outcomes, REVIEW, Vol. 5, Issue 2, 502-510, April 2021.
文・晏生莉衣 (あんじょう まりい)
教育学博士。国際協力専門家として世界のあちこちで研究や支援活動に従事。国際教育や異文化理解に関するコンサルタントを行うほか、平和を思索する執筆にも取り組む。近著に日本の国際貢献を考察した『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。