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ラグビー ワールドカップで学ぼう!(2) 国歌から知る出場国の歴史(前編)【世界が変わる異文化理解レッスン 基礎編27】

文/晏生莉衣
ラグビー ワールドカップで学ぼう!(2) 国歌から知る出場国の歴史(前編)【世界が変わる異文化理解レッスン 基礎編27 】世界中から多くの人々が訪れるTOKYO2020の開催が近づいてきました。楽しく有意義な国際交流が行われるよう願いを込めて、英語のトピックスや国際教養のエッセンスを紹介します。

* * *

熱戦が繰り広げられているラグビー ワールドカップ。事前に練習を重ねて各国の国歌を覚えたホストタウンのヴォランティアや日本人の観戦者が、海外から応援に詰めかけた外国人ファンといっしょに国歌斉唱する光景が共感を呼んでいます。そこで今回から数回にわたり、出場国の国歌からそれぞれの国について簡略に紹介していきたいと思います(英語アルファベット順)。

「Argentina(アルゼンチン) 『Himno Nacional Argentino』」

国歌名を訳すと「アルゼンチン国歌」、そのままです。独立戦争中の1813年に制定。「自由を!」「偉大なるアルゼンチン人に敬礼!」「栄光の死を誓おう!」と勇ましい歌詞が続きます。領土を支配していたスペインと、独立を願う現地生まれのスペイン系住民(クリオーリョ)との戦いでした。1816年に独立を果たした後、同世紀末からイタリアから大量の移民が流入してイタリア系がスペイン系を上回るまでになった結果、公用語はスペイン語ですが、イタリア訛りのスペイン語というアルゼンチン特有の言語文化が生まれました。現在、人口の約97%がヨーロッパ系移民で占められています。もともとの国歌は20分もあり、短縮されたもののそれでも長いので、試合前の斉唱では一部が歌われています。

「Australia(オーストラリア) 『Advance Australia Fair』」

英国君主を国家元首とする立憲君主制のオーストラリアは、英国の国歌を国歌としていましたが、複数回の国民投票を経て、1984年に新たにこの国歌を制定しました。国歌名を訳すと、『進め、美しきオーストラリア』というようになります。歌詞は1878年に創られた詩が元になっていて、「黄金の土地を持ち、海に囲まれ、自然の恵みにあふれる我が祖国」というように、オーストラリアの美しい自然を国力の源泉として誇る内容です。18世紀後半の「キャプテンクック」の上陸を契機に英国領となり、1901年にオーストラリア連邦として英国から事実上の独立を果たした際には、この『Advance Australia Fair』が大合唱され、その後、国民の間で親しまれてきました。英国女王来訪時のイヴェントでは、今でも王室歌として英国国歌が先に歌われます。

「Canada(カナダ) 『O Canada』『Ô Canada』」

カナダの公用語は英語とフランス語。国歌には英語版、フランス語版の他に英仏混合ヴァージョンがあります。カナダはフランス人の入植によって始まり、その後やってきた英国との抗争の末、大部分が英国領となったという歴史がありますが、その後もフランス系住民が残ったため、ケベック州は現在もフランス語圏です。そんなバイリンガル環境の中、国歌はカナダ連邦となった後の1880年にフランス系カナダ人によって作詞作曲され、英語の歌詞はその後に作られました。国歌に制定されたのは、様々なプロセスを経て独立国家となりつつあった1980年のこと。「我らの大地が輝かしく自由であり続けるように」と神に祈り、「我らは汝(カナダ)を守りゆく」とリピートする、愛国心あふれる内容です。2018年には、英語版の歌詞の中で「すべての民」という意味で使われていた「sons」が「息子」を意味することから、「all of us」という表現に改められました。日本でのラグビーワールドカップでは、このジェンダーニュートラルな英語版が歌われています。オーストラリアと同じく英国君主を国家元首とするカナダも、英国国歌を王室歌としています。

「England(イングランド) 『God Save the Queen』」

イングランドには公式に制定された国歌はなく、スポーツの国際大会などではこの英国国歌(「神よ女王陛下を守り給え」などと訳されている)がよく使われています。この英国国歌も伝統によるもので、公式に制定された歌詞ではありませんが、1745年に作られて人気を博した愛国歌「God Save The King」が元になっているとされ、現在のように君主が女王の場合はKingがQueenとなります。その名のとおり、女王に捧げる讃歌で、ワールドカップの斉唱で歌われる一番は「神よ、我らの女王陛下を守り給え!」で始まって終わり、その間の歌詞も「女王陛下万歳!/女王陛下に勝利あれ、幸あれ、栄光あれ/永き御世を」と、英国君主への忠誠を示す内容です。6番までありますが、6番は、追放されたスコットランド系勢力の反乱を英国政府軍が鎮圧したという、愛国歌が作られた当時の歴史的対立がテーマで、「反逆するスコットランド人に破滅を」というような歌詞もあり、折々、議論が起こっています。こうした所以もあってか、イングランド以外の他の連合王国(UK)構成国のスコットランド、ウェールズ、北アイルランドには、それぞれ実質的に国歌のような扱いがされている独自の歌があります。

「Fiji(フィジー)『God Bless Fiji』」

1970年、英国からの独立時に制定。賛美歌のメロディが元になっていて、「何事も乗り越える自由、希望、栄光の土地」へのプライドにあふれた歌詞とともに、「神よ、フィジーを永遠に祝し給え」と高らかに歌い上げます。フィジーでは英語が公用語ですが、フィジー語、ヒンディー語も使われており、国歌は英語とフィジー語(国歌名『Meda Dau Doka』)で書かれ、後にヒンディー語版が加えられました。現在はフィジー系住民が6割近くを占めますが、英国領時代にサトウキビ農園の労働者として多くの移民がインドから流入し、独立時にはインド系が人口では上回っていました。独立後はフィジー系の優遇政策が取られたため、2民族の対立によって政情は不安定で、軍事クーデターが繰り返されてきた過去があります。それでも、特にフィジー系住民の間で国民的スポーツのラグビーの試合は政変中も実施され、世界の強豪国としての地位を築いてきました。2014年からは民主国家として再建の道を歩んでいて、どの民族にも配慮する政策が進められています。代表チームの要のジョン・ヴォラヴォラ選手は、父はインド系、母はフィジー系、出生地はオーストラリアでフィジーとの間を行き来して成長したという多様なエスニシティの持ち主。そんな主力選手の活躍が、平和なフィジーの原動力の象徴として輝きを放っています。

「France(フランス)『La Marseillaise』」

『ラ・マルセイエーズ』は、フランス革命時代にストラスブールの一兵士が一夜で作詞作曲した軍歌です。ルイ16世とマリー・アントワネットらが捕られることになった民衆と軍隊による襲撃に加わるために、マルセイユからパリへと行進中の連盟兵によって歌われて、パリ市民の間で評判になりました。作者による6番までと作者不明の7番が加えられ、1795年に国歌に制定。国歌が南仏の一都市マルセイユにちなんだ名前なのは、こうした経緯によります。ナポレオン帝政時代や復古王政時には禁止されましたが、第三共和政時に再び国歌として復活しました。フランス革命時の軍歌ということから、一国の国歌としてはかなり過激な歌詞が続きます。斉唱で皆が声を張り上げる後半の繰り返しの部分は、「市民らよ、武器を取れ/ 隊列を組め/ 進め、進め!/ 我らの田畑のうねが汚れた血に浸るまで!」というように勇ましい限り。ニュージーランドの「オールブラックス」などが披露する伝統の舞いと同様に、試合前の士気を高めることにつながっているのかもしれません。

「Georgia(ジョージア) 『თავისუფლება』」

日本人には判読しにくいジョージア語の国歌の題名は「タヴィスプレバ」のように発音され、「自由」を意味します。日本では数年前までロシア語由来とされる「グルジア」と呼ばれていましたが、国際社会でより一般的な英語表記「Georgia」に基づいて、「ジョージア」に国名呼称が変更されました。旧ソヴィエト連邦共和国だったため、今でもロシアの影響力が強いと思われることがありますが、ロシア系住民は人口の1%以下で、公用語もジョージア語です。国歌は2004年の「バラ革命」と言われる無血革命後に制定されました。ジョージアのオペラを元にしたドラマティックな調べにのせて、「神への信頼は我らの信条」「自由に栄光あれ!」と賛美しながら、「明けの明星に光輝く地」であるジョージアが、黒海とカスピ海にはさまれたコーカサス地方の山々と平原から成る美しい国であることを生き生きと歌った国歌です。(ジョージア政府による英訳からの邦訳)

* * *

出場国の国歌についてこうして少し知るだけでも、その国の歴史のみならず、他の出場国との関係も見えてきます。こうしたワールドイヴェントが日本で開催され、ラグビーのトップクラスのプレイを楽しめるだけでなく、国際理解や異文化体験の貴重な機会にも恵まれたのは、本当に素晴らしいことですね。

その一方で、ジョージア対ウルグアイの試合後の熊谷会場でロシアの曲が流されて、ジョージアの監督やキャプテンから「我々はロシアではない」と強い苦言が呈されるという出来事がありました。大会組織委員会はミスを認めて謝罪しましたが、ジョージアとロシアは領土問題を巡る長い緊張関係が続いています。どの国に対しても不快感を与えることのないように、出場国の歴史や文化に対する深い理解と尊重の念を持つよう、ホスト国としてさらに努めることが望まれます。
(次回に続く)

文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外で研究調査や国際協力活動に従事。途上国支援や国際教育に関するアドバイザリー、平和構築関連の研究等を行っている。

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