文/晏生莉衣

世界各地で民泊ビジネスを仲介するAirbnb(エアビーアンドビー)を利用してウクライナの人たちへ寄付を送るというユニークな支援を、レッスン23(https://serai.jp/living/1065028)で紹介しました。実際には行かないウクライナの民宿を予約して、宿泊料を支援金として宿のホストに送金するというオンラインでの直接支援です。この新しい支援の方法は世界各地で賛同する人たちの間に広まり、Airbnbを介して多くの支援金がウクライナに送られてきました。

「いつか本当にここに泊まりたい!」

「ウクライナを訪れる日が来ることを願っています!」

ウェブサイトには、泊まる予定のない宿に宿泊料を送金した各国のゲストからの応援メッセージも掲載されています。

世界からエールとともに送られた宿泊料

Airbnbを利用して海外を旅したことのある私も、さっそくこの方法でウクライナへ支援金を送ってみました。送り先に選んだのは首都のキーウではなく、ヨーロッパ最大級の原子力発電所があるザポリージャ(ザポロジエ)でした。

マップ上から宿をチョイスして予約、ホストさんの無事を祈りながら送金すると、すぐにホストさんから感謝のメッセージが届きました。スーパーホストのステータスを所有しているそのホストさんにはさまざまな国々の人たちからの宿泊料兼支援金が集まっていて、メッセージには、受け取った支援金は地域の病院やシェルターなど援助を必要としている施設に届けると書き添えられていました。

その後、ホストさんからは、寄せられたお金を使ってご自身が行った現地支援の報告がたびたび送られてくることになりました。世界からザポリージャへ、ザポリージャから現地援助へという2段階のグローバル支援の輪が自然発生的に広がったのです。こうしたグラスルーツの支援は、外国の政府による公的な国際支援と比較すれば額はささやかでも、価値の重さはけして負けていない、いえ、より貴重だとも感じられ、その後もAirbnbを利用した支援の交流を続けることにしました。

攻撃激化の地域はリストから除外

すると、10月中旬、このザポリージャのホストさんから再びメッセージが。

「残念なことに、Airbnbがザポリージャに制限をかけ、リスティングをブロックしてしまった」

すでにレッスン23掲載当時、Airbnbは武力攻撃が激化した地域についてはリスティングから外していると発表していましたが、戦況と支配の状況が悪化していたザポリージャも、ついにその対象地域となってしまったということのようです。ホストさんによると、ザポリージャは広いので州の全土に危険が及んでいるわけではないのですが、ザポリージャのリスティングは一律にすべて外されてしまったということです。

Airbnbのサイトで確認してみると、確かにマップ上ではザポリージャの宿泊先は一件も示されず、「ウクライナ、ザポリージャ」で検索しても「検索結果はありません」と表示されます。私のように実際に予約・送金したことがある人は、過去の旅の記録から宿泊先のサイトにアクセス可能なのですが、ホストさんのサイトの予約カレンダーが無効になっていて、予約ができないようになっています。これによって、Airbnbを使って宿泊料を支援金としてザポリージャに送るという直接支援も、できなくなってしまいました。

幸いにも、ホストさんは電気、水道、ガスといったインフラは使えていて生活に大きな問題はないそうです(記事執筆時点)。しかし、ザポリージャの原発施設の安全は、ウクライナだけでなくヨーロッパはもちろん全世界に影響する深刻な懸念で、日本人は体験的にその懸念をシェアするところです。

首都キーウや他の都市は?

では、ウクライナの他の地域はどうなっているのかというと、現在のところ、首都のキーウ、多くの避難民が押し寄せた西部のリヴィウ、南部のオデーサといった主要都市は、リスティングが減ってきているようにも見えますが、宿泊先として選択することは可能です(記事執筆時点)。

そして驚くことには、キーウ郊外の町で、ジェノサイドの痕跡について衝撃的なニュースが伝えられたブチャにも、リスティングが出ています。応援メッセージが侵攻当時から切れ目なく寄せられているリスティングもありますから、ブチャはAirbnbのマップ上から消されることはなかったということなのでしょうか。

破壊された市街地の様子と被害者の姿が痛々しく伝えられたブチャでしたが、Airbnbに掲載されている写真は破壊が起こる以前のものです。それらの写真を見ていると、首都近郊という利便性と木々が多く豊かな自然をどちらも享受できるこの町で、人々が送っていた過去の平穏な日常が想像できて、現地で実際に何が起こっていたのか、報道されるまでわからないという意味でのコントラストが、悲しみとともに浮かび上がります。

Airbnbから見る紛争の世界

一方、マップを周辺世界に拡大してみると、ロシアには宿泊先のリスティングはありません。首都モスクワをはじめ、マップ上に広がる広大なロシアの地に民泊がひとつも掲載されていないのです。念のために「ロシア」で宿泊先を検索しても「検索結果はありません」と表示されます。隣国ベラルーシも同様です。Airbnbはアメリカに本部を置く企業であることを考えれば、これは当然のことなのかもしれませんが、地域間衝突の絶えない中東のイスラエルとパレスティナには、双方にリスティングがあるのとは対照的です。

旅先候補の暮らしを知るのに見て楽しいAirbnbのウェブサイトですが、ちょっと視点を変えてながめてみると、世界の紛争地について考えることにもつながります。

* * *

危機的状況が続くウクライナ。厳寒の2月から春、夏、秋と季節がめぐり、再び、凍てつく冬が訪れています。命がけで祖国にとどまり続けている方々のご健康とご安全を祈ってやみません。そして、ザポリージャが再びAirbnbの宿泊先として復活する日が来ることを、かの地の原発の安全とともに願うばかりです。

文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外研究調査や国際協力活動に従事。平和構築関連の研究や国際交流・異文化理解に関するコンサルタントを行っている。近著に国際貢献を考える『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。

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