文/晏生莉衣

英国議会下院の本議会場内では、議員が発言中に使ってはいけない禁止用語があります。

昨年、話題になったのが、下院の審議中、スコットランド国民党の幹部議員が、コロナ禍で禁止されていたパーティを首相官邸や公邸で開いたとされるボリス・ジョンソン元首相を追及する際に、使用禁止用語を繰り返したという騒動です。

「首相は進んで議会を欺(あざむ)いた」

野党幹部議員がこう発言すると、下院議長は不適切だと注意し、発言を撤回して「不注意にも(誤解させた)」に変えるように求めました。

すると、同議員は議長の注意をはねのけるかのようにして、

「首相はウソをつき、欺いた」

と、発言をさらにエスカレート。舌鋒鋭く同様の主旨を繰り返しました。

議長は発言の撤回を再三、要求しますが、同議員はなかなか同意しません。

議場内が騒然とする中、議長は、「どの政党も審議に参加してほしいから、党のリーダー(院内総務)のあなたを退出させるようなことはしたくない」と説得を続けるものの、同議員は馬耳東風。当初の発言を撤回するのかという議長の最終確認を受け入れなかったことから、同議員はとうとう退出を命じられました。

問題となった不適切発言とは?

英国議会下院では、本会議場の礼節を保つ規則に違反する表現を用いることが禁止されています。unparliamentary language(下院の慣例に反するような言葉遣い)といわれるもので、こうした物言いをした議員には、議長が撤回を求めることになっています。それでも撤回を拒否した場合、議長から懲戒処分を受ける可能性があります。

問題の野党幹部議員は、このunparliamentary languageを繰り返し使ったルール違反にあたるのです。

でも一体、この議員の発言中のどの部分がダメだったのでしょうか。

議員の発言には多少バリエーションがありますが、元の英語の発言は、

“He has willfully mislead Parliament.” (彼は進んで議会を欺いた)

“Prime Minister misled the House. He must now resign.” (首相は下院を欺いた。ただちに辞任しなければならない) 

“He has lied and has misled the House.”(首相はウソをつき、下院を欺いた)

といったもの。

これらの発言のうち、議長が特に撤回を求めたのは “misled” という単語です。misledはmislead(ミスリード)の過去形で、misleadには、欺く、誤解させる、判断を誤らせる、といった意味があります。

なかでも、最初にmisledを使った際、同議員が「進んで、積極的に」という意味の形容詞willinglyを付けて “willingly, willingly, misled” と強調して言ったため、議長は即座に異議を唱え、「不注意にも、うっかりして」という意味のinadvertentlyに変えるよう、繰り返し求めたのです。

英国下院では、本会議場での審議中に、議員が「ウソをついた」「故意に議会を欺いた」とお互いに非難し合うことは、礼節の規則を破るものとして長年の慣例から許されていません。

ですから、問題の野党幹部議員の発言はルール違反の連続になるわけですが、この「ミスリード」という単語、日本人にはそれほどキツイ表現とは思われていないかもしれません。ミーティング中、誰かが強引に話を自分の意図する方向にもっていこうとしたときなどに、「それはちょっとミスリードじゃない?」と、軽く言うこともあるのではないでしょうか。

本題からそれますが、異文化コミュニケーションでは、日本社会では問題視されていないから外国でもOK、ではない言葉の表現や使い方はいろいろとあるものです。外国人の方々と話すときには、相手の文化を尊重するという点から注意が必要です。

こんなワードはNGです!

では本題に戻って、このunparliamentary languageですが、どんな用語や表現が英国下院本議会場の礼節に反する言葉遣いなのかは、発言者の意図や発言の文脈、発言の流れなどから議長が判断するもので、明文化された絶対禁止リストというものは存在しないということです。

一方で、議員がお互いに向けて使ってはいけないとして、従来、議長からその使用に異議が唱えられてきたNGワードには、以下のようなものがあります。イギリス英語独特の表現や意味合いが含まれているので、カッコ内は、日本語にするとだいたいこんな意味になる、こんなふうに訳されるという日本語表現であるとご理解ください。

・blackguard(悪党)

・coward (臆病者、卑怯(ひきょう)者)

・git(バカ、間抜け、愚か者、嫌なやつ)

・guttersnipe(チンピラ)

・hooligan(ごろつき、ならず者)

・rat(密告者、裏切り者、スパイ、チクリ屋)

・swine(嫌なやつ、卑劣なやつ、下品な人)

・stoolpigeon (おとり、密告者、スパイ)

・traitor(売国奴、国賊、裏切り者、反逆者)

日本でも国会議員の発言としてメディアに取り上げられた表現が含まれています。

大人が公共の場で、相手を貶めるような言葉を使ってののしり合うというのは、第三者にとっては見るのも聞くのも気分がいいものではありません。ごく基本的な対人マナーや社会的なエチケットを守ることができていないということですから、教育的にも子どもには見せたくない姿です。

お互い礼儀正しく、敬意を払い、丁寧に議論を交わす。日本国民の代表である人たちは、そういう国会を創られてはいかがでしょうか。

文・晏生莉衣 (あんじょう まりい)
教育学博士。国際協力専門家として世界のあちこちで研究や支援活動に従事。国際教育や異文化理解に関するコンサルタントを行うほか、平和を思索する執筆にも取り組む。近著に日本の国際貢献を考察した『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。https://note.com/mariianで発信中。

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