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新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大(オーバーシュート)対策を阻む「困った人たち」について(前編)【異文化リテラシー レッスン3】

文/晏生莉衣
新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大(オーバーシュート)対策を阻む「困った人たち」について(前編)【異文化リテラシー レッスン3】世界中で新型コロナウイルスが猛威をふるい、感染拡大が止まりません。日本では、その影響を受けて、開催間近のはずだった東京オリンピック・パラリンピックの延期が正式に決まるという大きな動きがあった一方で、その舞台となる東京では、同じ時期、桜の名所では多くのお花見見物の人たちが集まり、出店には行列ができる盛況ぶりでした。繁華街ではいつもどおりの人出でにぎわう光景も見られ、新型コロナウイルスのことなどまるで意にも介さないような人々の様子に、国の内外から疑問の声が上がりました。東京2020の延期のニュースを「来年の桜の季節に開催も」と好意的に報道した外国メディアが、ウイルスに対する警戒感を持たずに遊び歩く日本の若者の行動を、今度はあきれるような論調で取り上げました。

春休みで陽気も良く、日本人が大好きな桜が見頃になる季節でしたから、年齢に関係なく、お花見に行きたいと思う気持ちも理解できますし、各地の若者がお休みを利用して東京に行きたい、人気の渋谷や原宿で遊びたいと思う気持ちも十分に理解できます。しかし同時に、これは、感染拡大を防ぐためにこれまでいろいろな我慢をし、まじめに協力してきた多くの人たちの努力を一瞬のうちに無にするような残念な行為でもありました。

自粛要請を真剣に受け取らない人たちの存在は、これまでウイルス感染拡大の脅威になんとか耐えて持ちこたえてきた日本にとって大きな危険要因になっていると言っても決して大げさな話ではありません。今や、ウイルスそのものの危険に対する対応策だけではなく、その行動によりウイルスを日本中に蔓延させる「触媒」と化している人たちという危険についても、東京をはじめ各地方自治体、ひいては国が、緊急に対応策を取らなければならなくなっています。

「困った人たち」の特徴とは

対応策の参考までに分析をしてみると、こうした「困った人たち」にはいくつかの共通点があります。共通してあるものを欠いているという特徴です。と言うと、「常識を欠いているに尽きる」「危機感に欠ける」というごもっともなご意見がすでにありますが、それらを大前提にしてさらに掘り下げて考えます。

1.「共感力」に欠ける

Social Emotional Learning (SEL)という教育アプローチがあります。直訳すると「社会的・情緒的学習」となりますが、子どもの社会性や感情面での成長を促すための学びです。2000年代に入って研究が盛んになり、欧米でSELプログラムが広く導入されています。その学びの主要素の一つに、「社会的な意識(social awareness)にかかわる能力」というものがあります。ハーヴァード大学の研究センターでは、この能力を

・「他者を理解し、共存できる」
・「社会に適応する価値観と態度を示すことができる」
・「自分が属する社会に貢献しようとする意識を持つことができる」
・「良い社会環境を大切にし、感謝の念を持つことができる」

というように説明しています。ウイルス感染防止のためにイヴェント中止に協力したり、多くの方々が外出を控えているのをよそに、桜の名所に群がって花見を楽しむ日本の「困った人たち」には、こうした能力がどれも欠けていると言わざるを得ません。

この社会的な意識にかかわるより具体的な能力の一つに挙げられるのが「共感力」(empathy、エンパシー)です。「心の知能指数」(Emotional Intelligence (EI):エモーショナルインテリジェンス)の概念を1990年に初めて提唱したアメリカ人心理学者でイェール大学のピーター・サロヴェイ博士とニューハンプシャー大学のジョン・D・メイヤー博士は、この「共感力」を「他人の気持ちを理解し、自分のこととして体感できる能力」と定義しています。

「ウイルス感染なんて気にしない」「暇だし、遊びたい」と繁華街を楽しそうに歩く若者たちは、本当ならまさしく同じ時期に春の選抜高校野球大会に出場できるはずだったのに、ウイルス感染拡大防止のために大会が中止されて夢がかなわなかった同世代の高校生球児たちの流した涙の意味をわかっているでしょうか。球児や関係者が感染拡大防止のために払った多大な犠牲を、自分たちが台無しにしてしまっていることに気づいているでしょうか。同じ時期、新型コロナウイルスに感染して生死の間をさまよっている世界の若者たちの苦しみを、どう感じているのでしょうか。

「かわいそうだと思うけど、自分のことじゃないし」―― 平気でそんなふうに答える「困った人たち」の声が聞こえてくるようです。

2.「責任ある意思決定能力」に欠ける

SELの学びで本件に関連性が高いもう一つの要素は、「責任ある意思決定(responsible decision-making)能力」です。SELプログラムの実施に早くから取り組んできた非営利団体CASEL(Collaborative for Academic, Social, and Emotional Learning)によると、この能力は

・「倫理規範、安全性への配慮、社会規範に基づいて、自分の行いとその社会的な相互作用について建設的な選択ができるか」
・「様々な行動の結果を現実的に評価できるか」
・「自分だけでなく、他者も身体的、精神的、社会的に良好な状態であるかを考慮することができるか」

がポイントで、より具体的には、問題の把握、状況分析、問題解決、自己評価、反省、倫理的責任にかかわる適性を挙げています。

感染拡大が懸念される中、混雑した場所を出歩いて自分が感染すれば、自分は症状が出ずに苦しい思いをすることはなくても、他の人にうつして感染を拡大させてしまう可能性や、自分がウイルスをうつしてしまった人の命が奪われる危険性もあるという状況を若い世代の人たちが把握して、自らの行動が招く結果の深刻さを理解することができるのであれば、ふらふら外出するか、しないかの選択は違ってくるはずです。ところが、「困った人たち」は、この「責任ある意思決定」をする能力を欠いていることから、「若い人は重症化しないから大丈夫」「ウイルスにかかったらその時はその時」というような言葉を口にして、好き勝手な選択をしてしまいます。

日本ではあまり取り入れられていないSELですが、ソーシャルスキル、ライフスキル、参加型問題解決というような学習に積極的に取り組む学校や、学校以外の社会活動や家庭での教育でもこうした能力を伸ばすことは可能ですから、日本人が一概にこれらの能力を欠いているわけではありません。しかし、学力を向上させることだけに力を入れている学校では学ぶことはできませんし、こうした学びの機会にまったく恵まれなければ、能力が欠如したまま育ってもおかしくはありません。

3.「社会的責任感」に欠ける

2に挙げた倫理的な側面と合わせてSELの観点から導き出されるのが、自分の社会的責任(social responsibility)を理解し、その責任を果たす能力です。私たちは皆、なんらかの社会に属して暮らしています。それぞれが住む地域コミュニティがあり、働いている方々なら勤めている会社やその他の団体や組織、子どもや学生は学校や大学などにも属しています。そして、それぞれが、所属する社会や組織のルールや決定を順守することで、社会的責任を果たしています。ルールや決定に従うのはその社会や組織が正常に機能するために必要なことで、私たちがそのようにして社会的な責任を果たすことによって、私たちの社会の良好な状態が保たれるという好循環のサイクルが創られています。

一方で、「自分はコロナウイルスなんて怖くないから外出する」という「困った人たち」は、自分たちが負っている社会的責任に対する意識がきわめて低いことが、その行動から示されています。単に社会的責任感が欠如していて社会のルールを守れないという以外に、もう一つ考えられるのは、きちんとした所属先がないために、ルールや決定に従う義務もなければ責任もないというケースです。まったく働いていない状況にあるなら、所属先のルールや決定に縛られることはありませんので、ある意味、野放し状態です。そういうケースでも、一番小さい単位の社会としての家族や友人からの注意があってもおかしくないのですが、そうした注意を無視することは簡単ですし、むしろ、家族や友人がいっしょになって社会のルールを破ることも少なくありません。

そして、このケースは若い世代に限った話ではなく、シニア世代にもあてはまります。ヨーロッパや中東に海外旅行に出かけ、帰国したところで感染がわかったという高齢者に関するニュースが流れることがたびたびあって、ウイルス感染が世界に広がるさなかに、感染すれば重症化のリスクのある高齢者が、なぜ、状況が大変深刻な外国へわざわざ旅行するのかと驚きを禁じ得ないのですが、こうした方々は、現役時代には持っていたはずの社会的な責任感を、退職して自由気ままな年金生活を謳歌されているうちに失ってしまったのかもしれません。

自分の行動の影響が自分だけにとどまらないというこの新型コロナウイルスの脅威に対しては、「ウイルスにかかったら自分で責任取るから」という自己責任論は通用しませんので、この社会的責任にかかわる能力が特に重要になります。この能力を欠いている人は、その人が暮らす社会にウイルス感染拡大という悪影響をもたらす大きな危険性があります。

4.「世界的な視野」に欠ける

3で挙げた「社会的責任」を考える際、私たちが生きる社会ということでもっとも大きな枠組みは国際社会です。私たちは日本社会の一員であると同時に、世界という大きな共同体にも属しています。「日本は国際社会の責任あるメンバーとして、国際社会の平和と繁栄のために貢献していく」ということが国際協力の方針としてよく言われますが、個人レベルではそうした国際社会の一員である自覚を持つことが日頃はむずかしいかもしれません。

しかし、今回の新型コロナウイルスの問題では、私たちは、世界が緊密につながっている現実をまざまざと見せつけられています。一つの国で発したウイルス感染が人の移動を介して世界中に広がり、現在、世界各国でこのウイルスとの戦いが日々、続けられています。自分が世界の誰かから新型コロナウイルスをうつされる危険性があれば、自分が世界の誰かにウイルスをうつしてしまう危険性もある、と考えれば、世界の中で、自分が実際になにかの役割を持っていることを、今までになく簡単にイメージできます。

ところが、こうした状況にあっても、「困った人たち」にはそうした世界が直面している危機を感じ取ることができません。その一つの要因に、若い世代の国際社会に対する関心の低さが挙げられます。内閣府が2018年11月~12月に行った日本の若者の意識に関する国際比較調査では、「国際的な視野」に関して日本の若者のきわめて消極的な意識が示されています。「国際社会の一員としての役割を果たしていくために必要な『異文化理解力・対応力』」を「十分に身につけていると思う」と回答したのはたったの4.1%で、調査対象国(日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スゥエーデン)の若者(13歳~29歳の男女)の中でもっとも低い結果となりました。「将来外国留学をしたいと思いますか」との問いには、53.2%が「したいと思わない」と回答し、こちらも調査対象国の若者の中でもっとも低い数値でした。

こうしたデータが表すように、一般的に言って、日本の若い世代は国際社会に自分の身を置く意識が薄く、むしろ世界に対して内向きです。それに加え、その中でももともと「共感力」を欠いている「困った人たち」は、イタリアやスペイン、フランスで、ウイルス感染によって亡くなった家族に対面することも許されないまま別れを告げなければならない遺族の悲しみに思いをはせることも、それによって自分の享楽的な行動を自ら変えることもできません。アメリカで、イギリスで、その他の国々で、危機の最前線で懸命に働く医療関係者が次々とウイルス感染の犠牲となっていることも、医療機器の不足で救えるはずの命が救えず、命の選択という苦渋の決断を迫られていることも、この人たちには関係ないのです。「困った人たち」は相変わらず、楽しむために行動し、戯れを続け、そうした自分たちの姿が、世界からひんしゅくを買い、反感を生んでいることに気づくこともありません。

* * *

日本崩壊の元凶となりかねない「困った人たち」。こうした人たちに対して、一体、どのような対応を取ることができるのでしょうか。考察は後編に続きます。

文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外研究調査や国際協力活動に従事。平和構築関連の研究や国際交流・異文化理解に関するコンサルタントを行っている。近著に国際貢献を考える『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。

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