文/晏生莉衣

(前編【異文化リテラシー レッスン31】はこちら

言語によって回答は違う?

では、今回のレッスンの本題に入ります。

ChatGPTは日本語を始め、さまざまな言語に対応しているということですが、質問に使う言語によって回答が違うのでしょうか。質問に使われた言語から特有の文化を判断して、文化的なエッセンスを含んだ回答がされるのでしょうか。

たとえば、英語と日本語で同じ質問をした場合、同じ内容の答えが返ってくるのか、あるいは異文化的要素が反映された返答になるのか、ChatGPTの異文化理解度が気になるところです。

その点を確認するべく、まず、次のような概念的な質問を短く、日本語と英語でしてみました。

・愛とはなんですか? (What is love?)
・成功とはなんですか? (What is success?)
・失敗となんですか? (What is failure?)

結論から先に言ってしまうと、これらの質問については日本語でも英語でも、同じ内容の回答が返ってきました。ということで、日本語の回答を紹介しましょう。

○ 「愛とはなんですか?」

OpenAIウェブサイトからChatGPTにログイン後のチャット画面から抜粋

○ 「成功とはなんですか? 」

OpenAIウェブサイトからChatGPTにログイン後のチャット画面から抜粋

○ 「失敗とはなんですか?」

OpenAIウェブサイトからChatGPTにログイン後のチャット画面から抜粋

いかがでしょうか。ChatGPT無料版では返答はごくジェネラルで、確かに語彙のレベルや文章自体は普通の日常会話程度という感じですが、ほぼリアルタイムで文章が示される点を考慮すると、なかなかのまとめ方といってもよいのではないでしょうか。人間が同じようにこうした文章をすらすらと即答するのは、けっこう至難の業ですから。

日本人とアメリカ人ではどうなる?

さらに、ダブルチェッキングとして、「日本語と英語で同じ質問をしたら、答えは同じになりますか」と日本語で聞いてみたところ、

『同じ質問を日本語と英語で尋ねた場合、答えが同じであるかどうかは、質問の内容や文脈によって異なります。…(略)…日本語と英語では文法や語彙が異なるため、質問の形式やニュアンスに微妙な違いがある場合もあります。したがって、日本語と英語で同じ質問をする場合は、質問の文脈やニュアンスを考慮し、それぞれに適した形式で質問を行う必要があります。』

という答えが返ってきました。冒頭にあるような漠然とした概念的な質問なら日本語でも英語でも答えは同じような内容になりますが、文化的違いについて比較したいなら、質問自体を文化的なニュアンスが含まれた形にして聞いてみる必要があるということです。

そういうわけで、今度は日米比較をするために、質問に、「日本人にとって」「アメリカ人にとって」と条件づけをして聞いてみることにしましょう。各質問に続いて、返ってきた回答中の主点となる文章を取り出して比較してみます。

<愛について>
◆「日本人にとって愛とはなんですか?」
ChatGPT の回答 『日本人にとって愛は、言葉よりも行動で表現されることが一般的です。日本人は感情表現に控えめで、愛を含む感情も間接的に表現されることが多いです。』 

◇「アメリカ人にとって愛とはなんですか?」
ChatGPT の回答 『アメリカ人にとって愛は、個人の感情表現や自己表現が強く求められる文化的背景があります。アメリカ人は、愛を表現するために直接的な言葉を使うことが多く、相手に自分の気持ちを伝えることが重要だと考えています。』 

<成功について>
◆「日本人にとって成功とはなんですか?」
ChatGPT の回答 『日本人にとって成功は、社会的評価、長期的な視野、集団志向、質素な生活、そして努力と倫理に基づいています。』

◇「アメリカ人にとって成功とはなんですか?」
ChatGPT の回答 『アメリカ文化において成功は、個人の成果、物質的繁栄、自己実現、認知と地位、起業精神などが関連している場合が多いです。』

<失敗について> 
◆「日本人にとって失敗とはなんですか?」
ChatGPT の回答 『一般的に、日本人にとって失敗とは、個人的な責任や恥を感じることが多いとされています。例えば、学業や仕事での失敗、人間関係のトラブル、あるいは社会的なルールに違反することなどが挙げられます。また、日本人は集団主義の傾向が強く、周囲の人々や社会に迷惑をかけたり、影響を与えたりすることも失敗とみなされます。このため、失敗した場合には、個人的な反省だけでなく、周囲の人々に対する謝罪や、失敗を取り戻すための努力をすることが求められることがあります。しかし、最近では、失敗を前向きにとらえ、挑戦や成長の機会と捉える風潮も広がってきています。特に、起業やイノベーションの分野では、失敗から学び、改善していくことが重要視されるようになっています。』

◇「アメリカ人にとって失敗とはなんですか?」
ChatGPT の回答 『一般的に、アメリカ人にとって失敗は成功や個人的成長に向けた必要なステップとして捉えられています。アメリカ社会は個人主義的な傾向があり、失敗は個人が自己のスキルを向上させ、強靭性を発展させるための学習の機会であると考えられています。アメリカ社会はリスクテイクと革新を重視しており、失敗はこれらの目標を追求する上で内在的なリスクであるとみなされています。そのため、ビジネス、スポーツ、芸術など、多くの分野において失敗に対する受容度が高いとされています。また、失敗に対する捉え方は、アメリカ合衆国の地域や個人の文化的背景によって異なる場合があります。例えば、一部の地域では失敗が弱さや無能力の象徴であると見なされる場合もありますが、別の地域では学習プロセスの自然な一部として捉えられる場合もあります。』

失敗については内容が広くカバーされているので、全体的に引用しました。

こうして比較してみると、それぞれの質問について、日本と米国の文化の違いが反映された回答が出てきています。ベーシックな回答としてはOKと言えるレベルです。

ただ、いくつか気になる点もありました。一例ですが、日本人にとっての成功のうちに「質素な生活」という要素が含まれていて、これはなんぞや? という感じでしたので、英語で同じ質問をしてみたところ、その箇所は「simple life」となっていました。つまり、ChatGPTが「simple life」を「質素な生活」と訳したのですが、この訳にはちょっと違和感があります。simple lifeが日本人にとっての成功の典型的な要素かどうかについてもクエスチョンマークがつきますが、それはとりあえず置いておくにしても、simple lifeを入れるのであれば、そのまま「シンプルライフ」としたほうがすんなりときます。

このあたりは、ChatGPTが自ら認めた日本語理解能力の限界といえるところで、日本語としてなにか気になることがあれば、訳の的確性を確認したほうがベターです。

AIは常に進化する

こうした欠点を含めて、回答については、最新の有料版ではより一層進化したプロフェッショナルなリスポンスを得ることができるとされていて、有料版の日本人ユーザーの実際の使用感などがウェブでいろいろとレポートされています。

また、AIは常に情報を取り入れて進化しますから、無料版でも時間をおいて同じ質問をし直すと、同じ答えを繰り返すのではなく、新たな情報にもとづいた回答になっていきます。

有料の高性能ヴァージョンでは、

・小説、詩、俳句、脚本など、本格的な創作ができる
・専門的な学術論文を理解し、要約、解説、翻訳ができる
・目的に即したビジネスメールが書ける
・書いたビジネスメールの添削や翻訳ができる
・データからビジネス戦略を考案できる
・高度なプログラミング作業に使える
・その他、作業効率アップにつながるさまざまな活用ができる

というようなことが可能となり、また、

・生活習慣の相談に乗ってもらえる
・趣味に関する専門的なアドバイスをもらえる
・ファイナンス面で生活設計プランを立ててもらえる
・心のメンテナンスのためのトーク相手になってもらえる

等々、創作や教育、ビジネス分野以外でも、アイディア次第で生活に関するさまざまな目的に利用することができます。

利便性と危険性が混在

ビジネスに劇的な効率アップをもたらすことが期待されているChatGPTですが、その一方で、数々の理由からその使用を一時的に禁止する国や規制に乗り出す国や地域が出てきています。

個人情報保護の問題や著作権侵害といった課題が指摘されているほか、そもそもChatGPTの回答が正しいかどうか確証はなく、誤情報が入っていることもあります。また、回答にバイアスがかかっていないかという点についても注意喚起されるべきで、過去には、AIチャットツールによる差別的な回答が問題になった事例があります。回答は間違っていないのか、偏向していないのか、よくチェックして判断することが必要になってきます。

人間が学ばなくなる懸念

そして、特に懸念の声が多く上がっているのが教育の分野です。もっとも指摘されているのは、質問の仕方を工夫すれば、ChatGPTがレポートや宿題の回答を作成してくれるため、自分で考えて書く必要がなくなるという点です。

ChatGPTを使えば、ある意味、自分の学力や知識を超えた回答を作成することが簡単にできてしまいますし、人間が書いたのと同様の自然な文章で回答が作られるので、学生が書いたのかAIが書いたのか見抜くことも困難だと言われています。そして、ChatGPTが本の内容をまとめたり、論じたりしてくれますから、課題となっている本をまったく読まなくてもレポートや宿題を済ませることが可能になります。

すでに、米国ではかなりの割合で大学生がレポート作成の際にChatGPTを利用したことがあると答えたという調査結果が出ており、その使用を禁止する教育現場も出てきていますが、ChatGPTが教育に与える影響は本当に大きいのです。

こうしたAIツールに頼ることで、年令を問わず、自分の力で考えるという学びの基本中の基本を省いて勉強を進めてしまえる選択肢ができることから、読解力、思考力、文章力といった能力を磨くプロセスが軽視されるだけでなく、人間本来の創造力や感性が育たなくなるというマイナスの影響が多いに考えられます。

また、自分で試行錯誤して課題に取り組むより、ラクして済ませてしまおうとする風潮が子どもの世界に広まることで、真剣に問題に取り組まない、面倒なことを嫌がる、避けるといった特性や倫理観を身につけがちになりますし、そのまま大人へと成長していけば、日本人や日本社会の特質までもが変わっていくことにつながります。AI依存による長期的な影響はきわめて大きいと言わざるを得ません。

ChatGPTが仕事の効率や生活の質を向上させる技術革新の賜物となる可能性は大きい反面、人間が本来持つ力を蝕んでいく負の側面も否定できません。わたしたちの世界をどう変えるのか、世界はどう変わるのか、ChatGPTを始めとする対話型AIについて、歓迎の意見だけでなく警鐘を鳴らす声にも耳を傾けながら、今後の展開を注視していく必要があるでしょう。

文・晏生莉衣 (あんじょう まりい)
教育学博士。国際協力専門家として世界のあちこちで研究や支援活動に従事。国際教育や異文化理解に関するコンサルタントを行うほか、平和を思索する執筆にも取り組む。近著に日本の国際貢献を考察した『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。https://note.com/mariianで発信中。

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