文・晏生莉衣

困っている世界の人々を助けたいという思いから国際協力団体へ送った寄付金がどのように使われるのかについて、前回のレッスン(https://serai.jp/living/1052441)で取り上げました。その中で、寄付金はその全額がそっくりそのまま途上国などで助けを必要としている方々に渡るわけでなく、寄付を受けた団体の活動に必要なさまざまな経費が集まった資金から支出され、それらを差し引いた額が実際の現地支援にあてられるという一般的な仕組みを紹介しました。

なるべく直接届けたい

現在、大変困難な状況に置かれているウクライナを支援したいという声が多く聞かれています。東京にある在日ウクライナ大使館に寄付の申し出が多く寄せられたことを受けて同大使館が開設した特別銀行口座には、10日間で約15万人によって40億円近くの寄付金が振り込まれたという報告が、同大使館から感謝とともにされました。よくある国際協力団体への寄付ではなく、自分が寄付したお金がより直接的にウクライナの人道支援に使われると考えられる方法を選択された方々がたくさんいらっしゃるということの表れのようにも見られます。自分もこの大使館口座に支援金を振り込みましたが、1分もかからず、とてもスムーズにオンライン送金ができました。

そんな折、新たな直接支援の方法がSNS上で呼びかけられ、グローバルな支援の輪が広がりを見せています。世界各地で民泊ビジネスを仲介するAirbnb(エアビーアンドビー)を利用してウクライナの人々へ寄付をするというユニークな方法で、ウクライナにある宿を予約して宿泊代をホストにオンラインで支払うのですが、これは宿泊代を支援金として送金することが目的で、実際には宿泊しないというものです。

世界中からの予約でいっぱい

世界のどこで誰が始めたことかははっきりわかっていないようですが、この支援方法はすぐに広まり、世界各地で賛同する人たちがこの手段を使ってウクライナの人たちに送金を始めています。予約件数は何万件にも登り、総金額もぐんぐんと増えて、記事執筆時点で2億円を超えていることがAirbnbから発表されています。

私はこれまでも、海外に出る際にはよくこのAirbnbを利用して宿泊をしてきました。宿泊先のホストさんと事前にメールでやりとりをしたり、現地でお会いしてあれこれお世話になったりと、その土地の人々との触れ合いが生まれることで、旅の経験がより豊かになるというのがAirbnb利用の魅力です。COVID-19のパンデミック化によってここのところは海外に出ることなく過ごしてきましたが、ウクライナ支援にこの民泊仲介サービスが使われていることを知り、自分も協力したくて久しぶりにAirbnbにログインしました。

首都のキエフはもっとも注目が集まっている都市なので、すでに多くの予約がされているのではないかと予想しましたが、とりあえず、まずキエフのリスティングをチェックしてみました。すると、やはり、多くの宿は数か月先までブッキングされています。SNSなどで伝えられているとおり、大勢の人たちが支援金を送ろうとして予約をしていることが確認できました。宿泊料の支払いはクレジット払いで、ホスト側には予約日が過ぎてから入金がされますが、予約が連続して埋まっていれば、ホストは日々、途切れることなく宿泊料を得ることができます。

民泊は首都キエフ以外にも

キエフがこうした状態でしたので、気になっていた別の地域のリスティングをチェックすることにしました。ウクライナ南東部、ヨーロッパ最大級と言われるザポリージャ原子力発電所がある地域です。この原発の重要性を一番理解している地元住民たちは、いち早く、自らが原発へと続く道に立ちふさがって人間の鎖を作り、この原発を守ろうとしました。武器ではなくウクライナの国旗を手に、ただ毅然とそこに立つ人々の勇敢な姿が自分の心に強く残っていたのです。

残念ながら、この原発は数日のうちに敵側の武力攻撃を受けて制圧されてしまったのですが、Airbnbのこの地域のマップを見ると、首都キエフに比べると少ないものの、それなりの数の宿がリスティングされていました。ひとつひとつチェックしていくと、中には何か月も予約が埋まっているものがいくつかありました。こんなことから、首都キエフ以外の地域にも支援の手が伸びているということが見て取れました。

その中のひとつの宿に、メッセージとともに予約を入れてみました。選んだのは、中高年と思われる男性がホストの宿です。ここは小綺麗なアパートメントで、3週間先くらいまですでに予約がされていました。

Airbnbで宿を選ぶ際にはいくつかポイントがあります。多くのゲストから高い評価を得ている「スーパーホスト」認定を受けていることや、滞在したゲストのレビュー(口コミ)やホスト自身による自己紹介欄を読んでみて、宿泊サービスの良し悪しやホストの人柄などをチェックすることが、信頼できる宿泊先を選ぶ上で大切です。Airbnbではホストにメッセージを送って宿泊に関する質問をすることもできますが、それに対する返答率が高いホストなら、宿泊提供についても丁寧なサービスを心がけていると考えられます。

また、常識的な宿泊料と思えるかどうかもポイントです。キエフは首都ですから宿泊料はピンからキリまでという感じですが、ザポリージャ地域では日本円にするとだいたい数千円から5千円程度の範囲内というところです。

私が選んだ宿のホストさんはこれらのポイントについてすべて良い評価を得ていましたし、首都でもない地域の宿なのに数週間先まで予約が埋まっているということは、実際に過去にここに泊まった人たちがこのホストさんを支援したいという思いから予約しているのではないかという推測もできました。そして、男性がホストをしている宿を選んだのは、ホストが女性ならすでに国外に避難している可能性もありますが、男性であれば必ず国内に残っているはずだからです。たとえどこかに避難している人であっても支援が必要なことには変わりありませんが、できれば、危機に面した原発を今も必死な思いで見守っているはずの地元住民の方に支援を送りたいという思いがありました。

危険地帯住民へメッセージ

ホストさんへは、この予約は支援目的で実際に宿泊はしませんという自分の意図と、日本から自分も含めて多くの人たちが応援していますという言葉を添えたメッセージを送り、同時に一泊、予約を入れました。なぜ―泊かというと、頭の片隅で小さな問いが渦巻いていたからです ―― もしこのホストの男性が返事を返せる状況になかったら? Airbnbからも浮かび上がるこうした不条理な現実に、迷いながらとりあえず一泊としたのです。

果たしてホストさんからは返答が返ってくるのだろうか。そんな不安を感じたのも事実です。返答率100パーセントのホストさんから返答がなかったらそれは何を意味するのでしょうか。生死をかけた緊張の事態の中、返答する余裕などないということは十分理解できますので、それならそれで一向に構わないのですが、そうではなくて、もっと悲しく恐ろしい出来事がメッセージを送った先で起こっているとしたら……? 祈る思いで待つ以外ありませんでした。

幸いにも、ホストさんからはメッセージが返ってきました。律儀なお人柄が察せられるとおり、数時間後には返答が届いたのです。ホストさんのメッセージには、私のお送りした応援のメッセージに涙を流したと、まず、ありました。そして、世界中からAirbnbを通じて支援金が送られてきていて大変感謝していること、日本は素晴らしい国だとよく知っているということ、受け取った支援金は病院やシェルターに送ることなどが、英語で綴られていました。

危機的状況に置かれているウクライナ。命がけでその地にとどまっている地元住民の方と、見ず知らずながらもこうしてつながることができ、遠い異国からの応援と心配する気持ちをお伝えすることができて、おおげさかもしれませんが感無量でした。このホストさんやそのご家族、地域の方々のご無事を祈らずにはいられません。

Airbnbは武力侵攻が激化した地域についてはリスティングを外していると発表しています。今後、キエフやザポリージャなどがウクライナのリスティングから消えてしまうようなことがあるのでしょうか。そんなことが決して起こらないように願いながら、ウクライナにAirbnbの民泊リストがある限り、支援を続けていきたいと思っています。

一点、細かいことを言うと、ホストさんが世界各地から寄せられた宿泊料を現地の支援金に回したとすれば、民泊ビジネスの収益への課税がされるばかりでホストさんは損益を被るのではという懸念もありますが、有事にはそのような通常の市民生活にかかわることはすべて後回しとなるのでしょうか。破壊的な混乱の日々が一刻も早く終わり、平時に戻ることを願うばかりです。

こんな注意点も

Airbnbはこのグラスルーツの支援手法に対応する形で、ウクライナの宿泊については通常かかる手数料を無料にしています。その一方、宿泊先を選ぶ際には多くのレビューのある個人経営の宿を選ぶことなども呼びかけています。実態のないサービス提供を装った民泊ビジネスを選ばないようにという注意喚起ですが、これは通常時でもAirbnb利用の際には十分気をつけたい点で、現在のウクライナへの支援ムーヴメントに乗じ、地元に無関係のリスティングなどが増加することが考えられるため、さらなる注意が必要となります。

冒頭で触れた在日ウクライナ大使館への寄付を募る詐欺も横行していると伝えられています。十分に注意しながら、平和のために少しでも自分にできることはないか、私たち一人一人が考えていければと思います。

文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外研究調査や国際協力活動に従事。平和構築関連の研究や国際交流・異文化理解に関するコンサルタントを行っている。近著に国際貢献を考える『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。

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