文・晏生莉衣

ヴォランティア活動をしたことがある。したことはまだないけれど、興味はあるので機会があれば参加してみたい。年齢を問わず、そんな方々が増えています。私たちの生活の中に浸透してきた「ヴォランティア」について、今回はその歴史と理念を振り返ってみましょう。

「志願する者」

volunteerという言葉はラテン語を語源とするフランス語volontaireに由来していることは、前回のレッスンで取り上げましたが、歴史的には16世紀、フランスで 「志願兵」「義勇兵」の意味で使われたのが最初といわれています。徴兵制によってではなく、つまり強制的にではなく、自らの意志で一般市民を守るために兵士となった人たちをこのように呼びました。フランスの国歌『ラ・マルセイエーズ』(La Marseillaise)は、その後の革命時の18世紀末にマルセイユから志願して集結し、パリへと進軍した兵士たちが歌っていた曲だそうですが、義勇軍の行進曲が国歌になっているのですから、そのつながりは歴史的に深いことがわかります。

英語のvolunteerは、英国で、フランスと同じく「志願兵」として17世紀には使われていたとされます。アメリカでは、英国との独立戦争が始まった1775年から、やはり同様の意味でvolunteerが使われるようになったといわれています。その経緯は、独立戦争で苦境に陥っていたアメリカを助けるために、フランスの義勇軍がはるばる海を渡って参戦し、アメリカの独立のために多大な協力を行ったことにあります。まさしく、フランスの義勇兵volontaireが、アメリカでvolunteerとなったのです。英国ではそれとは逆に、フランスやアメリカに対抗するために義勇軍が形成されることになりました。同じvolunteerという言葉から、込み入った三国の対立関係の歴史を紐解くことができるのは興味深いところです。

このように、世界史の中のヴォランティアの起源は、困っている方々の助けとなる支援活動をするという日本社会でイメージされるヴォランティア活動とはかけ離れたものですが、数世紀前の動乱の時代、志願兵たちが犠牲をいとわず自らの意思で危険な戦場へ向かったのは、「自発的に他人のために行動する」という強い志があったからこそで、そうした志は現在の日本で一般的に言われる「ヴォランティア活動」の基本理念にも受け継がれています。

キリスト教のチャリティ活動へ

Volunteerが軍隊に関する意味ではなく、現在のようなヴォランティア活動の母体となるのは、イギリスでは1800年代とされ、主にキリスト教関連のチャリティ団体による貧困層の家庭訪問や教育支援などの社会活動が行われるようになりました。1844年には、ロンドンのすさんだ社会環境を変えるために、若者によるヴォランティア組織のYMCA(Young Men’s Christian Association)が創立され、1865年には、同じくロンドンのプロテスタントの牧師によってSalvation Army(サルヴェーションアーミー:救世軍)が始められ、クリスチャンミッションとして活動を続けました。こうした社会福祉活動はヨーロッパやアメリカなど世界各地に広がり、日本にも1880年(明治13年)に、最初のYMCAが「東京キリスト教青年会」という名称で誕生しています。

アメリカでは消防団が始まり

アメリカでは、「志願兵」のvolunteerが広がる以前の1736年に、ベンジャミン・フランクリンが、ヴォランティアによる最初の消防団をフィラデルフィアに組織したことが知られています。これがアメリカのヴォランティア消防団の始まりで、アメリカでは地方都市の多くの消防活動は、現在もこうしたヴォランティアの消防士によって担われています。自分の住むコミュニティのために活動したいという気持ちで献身的に活動するヴォランティア消防団は、その後に広がる社会貢献、コミュニティ活動という形のヴォランティアの原点ともなっています。

1800年代中頃からはYMCAやSalvation Armyがアメリカでも結成されたほか、地域貢献のための共同募金を目的とするUnited Wayの大元となる組織や、低所得層への支援活動を行うVolunteers of Americaといったアメリカ発祥の組織が誕生しました。こうした団体は、その後、全米に拡大して大規模なNPO(Nonprofit Organization:非営利団体)に発展し、NPOの成功モデルともなっています。

共同募金もヴォランティア

United Wayはアメリカ最大の民間共同募金組織となり、現在ではUnited Way Worldwide(ユナイテッドウェイ ワールドワイド)として世界中でヴォランティア活動の輪を広げています。2011年の東日本大震災発生後には、日本へもその支援の手を差し伸べてくれました。復興支援活動のために、米国企業から多額の献金を集めて「赤い羽根共同募金」に寄付してくれたのです。

戦後の日本で民間の助け合い運動として始まった「赤い羽根共同募金」の活動も、このUnited Wayの共同募金活動をモデルにしています。街頭の募金活動に使われる赤い羽根も、このアメリカの団体から取り入れたものです。英国やアメリカでは古くから、赤い羽根は勇敢さ、高潔さ、善意などを表すシンボルとされており、United Wayの先駆けとなった団体がコミュニティへの奉仕活動のシンボルとして赤い羽根を使っていたのです。日本の共同募金でもそれを借用したことから、「赤い羽根共同募金」という名称になりました。日本ではお馴染みの「赤い羽根」ですが、こうした経緯についてはあまり知られていないのかもしれません。

日本では自然災害からの復興支援のお手伝いをするヴォランティア活動が広く行われるようになってきましたが、こうした社会風潮が高まるずっと以前、戦後から行われてきたこの草の根の募金活動を支えてきたのは、寄付を募る人、寄付する人のどちらにも共通する「人の役に立ちたい」という思いです。自ら進んでお財布からお小遣いを出して募金箱に入れ、受け取った赤い羽根を一度でも襟元に付けたことがある方は、ご自身ではお気づきでないかもしれませんが、正真正銘のヴォランティア活動経験者です。ちなみに、寄付者に感謝とともに渡されるふわふわの赤い羽根は、数年前からシールタイプのものに変更されているそうですが、長年使われている「赤い羽根」のシンボルは同じままです。

* * *

時の流れの中で、ヴォランティアはさまざまな形に変遷を遂げてきました。それでも、時代や社会情勢が変わっても、誰かのために、世の中のために、あるいは世界のために、自分ができることを進んでやってみようとする気持ちがヴォランティアにとってなにより大切であることには変わりがありません。あまり難しく考えず、日常生活の中で小さなことでもできるヴォランティアはいろいろとあると気づくことから、なにかが始まります。

文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外研究調査や国際協力活動に従事。平和構築関連の研究や国際交流・異文化理解に関するコンサルタントを行っている。近著に国際貢献を考える『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。

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