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親の終の棲家をどう選ぶ?|要介護認定が必要なことさえ知らなかった~若年性認知症になった母【前編】

取材・文/坂口鈴香

親の終の棲家をどう選ぶ?|要介護認定が必要なことさえ知らなかった――若年性認知症になった母【前編】

photoBさんによる写真ACからの写真

政府は、2015年に策定した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」の後継となる「大綱」案を5月に公表し、「70代の認知症の人の割合を10年間で1割減らす」と認知症予防の数値目標を提示した。ところが「認知症は発症の原因が解明されていないにもかかわらず、予防できるという誤解を生む」などの批判が起こり、結局この数値目標は予防推進の際の参考値とすることになったわけだが、依然として「本人の努力が足りないから認知症になったわけではない」という声は少なくない。

冷蔵庫にぎっしり詰まったキャベツ

中野美佐さん(仮名・42)が母親(71)の言動に違和感を持ちはじめたのは、10年以上前にさかのぼる。

「母が60歳前後のころだったと思います。実家の冷蔵庫にキャベツが5個も6個も入っていたんです。よく入ったなと思いますが、たぶん下にあったキャベツは腐ってドロドロになっていたんでしょうね」

冷蔵庫に同じ食品がたくさん入っている、というのは典型的な認知症の初期症状だ。しかし、当時中野さんの母親は若かったし、中野さんも父親(73)も認知症についての知識はまったくというほど持っていなかった。

中野さんは両親と兄の4人家族。専業主婦だった母親は、ドジで“ボケキャラ”。陽気な性格で友人も多かった。友人とサークル活動をしたり習い事をしたりと、外に出て趣味を楽しんでいた。中野さんが30歳になるのを機に一人暮らしをはじめたころ、兄も結婚して家を出た。

「もともと家事は嫌いな人で、いつも愚痴を言いながらやっていました。私と兄が家を出たところに、定年退職した父がいつも家にいるようになったのが相当ストレスだったようです」

追い打ちをかけるように、かわいがっていた飼い猫までが亡くなった。それが引き金になったのではないかと、中野さんは考えている。

“冷蔵庫事件”以外にも、「あれ?」という言動は増えていった。しかし、中野さんと父親は、母親がもともと“天然”な人だったため、どこから認知症なのか区別できなかったという。そのため、中野さん父娘が「やはりおかしい。認知症ではないか」と母親を物忘れ外来に連れていったのは、違和感を持ちはじめてから数年経ってからだった。

これからは母親ではなく病人として扱おう

母親の脳のCT画像を見た医師は「アルツハイマー型若年性認知症」だと診断した。認知症は一般的に高齢者に多い病気だが、65歳未満で認知症を発症した場合「若年性認知症」という。

「父が病院に連れていったのですが、母方の祖母も認知症だったので、母は『お母さんと一緒だわ』『私、ボケちゃったのね』と言っていたそうです。もっとも病院に行ったこと自体、すぐ忘れてしまったようですが」

中野さんはすでに母親は認知症だと確信していたので、格段ショックは受けなかったという。

「逆に、それまで母の行動にいら立って怒ってしまうこともあったのですが、目に見えて脳が委縮しているのだから、もうどうしようもない病気なんだ。これからは母親ではなく病人として扱おうと意識を変えました。父とも『お母さんを怒ったり、言うことを否定したりしないで、何でも聞いてあげるようにしようね』と話したのを覚えています」

中野さんは、実家に帰るたびに、母親を外に連れ出して買い物をしたり、お茶を飲みながら母親が何度も同じことを話すのをひたすら聞いたりした。

将来的なことは、この時点では考えられなかった。そこまでの理解も想像もできなかった、と振り返る。

後編に続きます】

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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