すでに「姓→名」に変更されている?

こうした文化的要素はさておき、中国人名のローマ字表記が「姓→名」となっているのは、規則でそのように統一されているからだそうです。中国では、もともとはローマ字でも本来の順で表記していましたが、国際進出にともなって中国人も氏名を欧米式に書くことが多くなり、表記が混乱してきたことを懸念した政府の主導によって、「姓→名」の順に統一する規則を定めたということです。

韓国については前回紹介しましたが、大統領名が「姓→名」でローマ字表記される一方、国際的に活躍する韓国人が「名→姓」としていることも珍しくないという状態です。

日本は、そのどちらとも異なり、欧米式の「名→姓」順が全般的に使われてきているわけですが、長年使われてきたそのローマ字表記の日本人名は、韓国の慣習のように英語風にアレンジした別名のようなものを作るのではなく(レッスン15参照)、日本語の響きを大切にしながらヘボン式のローマ字に置き換え、国際社会のスタンダードと調和させたものです。それが日本人の間で定着したという、ある意味、日本の「名前の文化」の一つになっています。2000年に、文化庁が「姓→名」という日本独自形式を奨励する通知を出したものの、社会には受け入れられずに現在に至っています。それをなぜ、今、また再通知をして変えようとするのか、その説明も方針では十分にされていません。

実は、その19年前の文化庁の通知を受けて、多くの教育機関では、方針に従ってすでに変更がされています。たとえば、現在、中学校で使われている文部科学省検定済みの英語の教科書では「姓→名」表記になっていて、英語圏の順序に合わせて「名」「姓」の順とする二通りがある、といった注釈がつけられています。他にも例があります。日本サッカー協会は、2012年度から「姓-名順」に統一していて、協会のウェブサイトでは、女子ワールドカップ2019フランス大会の日本代表チームメンバーの名前は、その形式で表示されています。他方、FIFAのウェブサイトでは、日本のチームメンバーの同じ名前が「名→姓」の順で紹介されていて、世界の中では統一されていません。

こうした不統一状態を解消するのが再通知の目的なのか、方針の説明にはそうしたことはなにも触れられていないので、よけいにわかりにくい今回の発表なのです。このような突然の発表をする前に、そもそもいつからこの形式のローマ字表記が使われ、どのように広まっていったのか、日本の氏名にまつわる歴史を振り返りながら理解した上で、では、これからはどうするのかと考えていかないと、いくら通知を繰り返しても、社会の中にコンセンサスは生まれにくいでしょう。

文・晏生莉衣(あんじょうまりい)
東京生まれ。コロンビア大学博士課程修了。教育学博士。二十年以上にわたり、海外で研究調査や国際協力活動に従事後、現在は日本人の国際コンピテンシー向上に関するアドバイザリーや平和構築・紛争解決の研究を行っている。

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