文/印南敦史

大阪を通じて「昭和」を思う一冊|『お邪魔しMAXデラックス 底抜けオオサカ観光局』

タイトルのみならず、表紙のイラストまでが期待度を高めてくれるのが、今回ご紹介する『お邪魔しMAXデラックス 底抜けオオサカ観光局』(神田 剛 著、朝日新聞出版)である。

著者は、朝日新聞大阪本社編集局付アサヒ・ファミリー・ニュース社地域面編集部デスク。東京本社生活部記者時代に住まいの連載「わが家のミカタ」を3年間担当したという実績の持ち主だ。その時点でおカタいイメージを持つかもしれないが、実はそうではないようだ。

というのも、そののち大阪本社生活文化部で建築や美術を取材しつつ、夕刊の「ますます勝手に関西遺産」「まちの埋蔵文化人」などの企画で小ネタをちりばめた独特の文体で異彩を放ってきたというのである。

たしかに本書の序文「ようこそ、底抜けオオサカ観光局へ」からして軽妙だ。

 ご紹介するのは、ニッポン指折りのユニークシティ・大阪とその周辺の珍スポットの数々。太陽の塔内部の「生命の樹」から、超巨大なお獅子の顔が大人気の神社、地獄をバーチャル体験できるお寺、電車を自分の土地に走らせてしまった人から、昭和家電を集めに集めたコレクター、さらには90歳の現役最古のチンチン電車を守る鉄道マン、コスプレ経営者父娘の物語などなど……話は盛らずに、話題はてんこ盛り、208ページの活字の第パノラマ。最後はラジオパーソナリティーの大御所、浜村淳さんとの対談で「ありがとう浜村淳」の放送スタジオで。(本書「ようこそ、底抜けオオサカ観光局へ」より引用)

まるで活弁士のような、なんとも賑やかで楽しい文章である。

ちなみに本書は、書き下ろし記事と、著者が過去に担当した朝日新聞記事の再収録によって構成されている。朝日新聞からセレクトされているのは、先に触れた全国版生活面の連載「わが家のミカタ」をはじめ、大阪本社夕刊の「ますます勝手に関西遺産」「まちの埋蔵文化人」に掲載された関西の話題。

文章と写真が大阪の「トンデモ感」を伝えてくれるので、ぱらぱらとめくっているだけでも楽しめるだろう。が、なかでも突出した魅力をアピールしているのは、「わんぱく万博ものがたり。戦後ニッポンのエナジー爆発」だ。

世代的に、このタイトルを見ただけでワクワクしてくるかたも少なくないのではないだろうか? いうまでもなく、飛躍的な経済成長を遂げた戦後日本の、高度成長の総仕上げたる「日本万国博覧会(大阪万博、以下万博)」の話題である。

世界77カ国が参加し、1970年(昭和45)年3月から半年間にわたって開催された一大イベント。330ヘクタール、阪神甲子園球場約83個分の広大な会場に116の展示館が並び、国内外から6421万人余が訪れたというのだから、開催から49年を経た現在においても驚くべき規模である。

特に、あのころ少年だった世代の心をくすぐるのは、冒頭に登場する「太陽の塔」についての記述だ。

 万博記念公園にそびえ立つ、ご存じ「太陽の塔」。特異な姿がバクハツ的人気を呼んで万博閉幕後も取り壊しを逃れ、2018年3月には耐震補強工事も完了。48年ぶりに内部の一般公開が始まって、さらには2025年の大阪・関西万博の開催まで決定して、これまた話題と人気が再バクハツ。なんせ「ゲージュツはバクハツだ」の現代芸術家・岡本太郎(1911〜96年)の代表作。生命の進化の過程を表現した内部はまさに彼の情熱がバクハツした空間。みなぎるエナジーを求めて今日も多くの人が訪れています。(本書14〜15ページより引用)

そんな太陽の塔は高さ約70メートル、基底部の直径約20メートル、腕の長さは片方だけで約25メートルもある。正面にある「太陽の顔」が現在を、頂上の「黄金の顔」が未来を、そして背面にあるタイル貼りの「黒い太陽」が過去を表現しているというのは有名な話だ。

おまけに夜ともなれば、黄金の顔の目からはピッカリと照明の光線が近郷近在を照らす。ああ、ありがたや。ありがたや。(本書15ページより引用)

以後、太陽の塔が完成するまでの経緯、再度公開されることになった塔の内部の様子などが、この文体で軽妙に明らかにされていく。

 万博の熱気を知る人にはさぞ懐かしいことでありましょう。3歳くらいで連れて行ってもらった方だと、なんとか記憶の片隅に残っているというところでしょうか。
それ以降に生まれた人の中には、家に転がっていた万博グッズを見つけて「なんで自分は連れてってくれへんかったん?」とおうちでゴネた経験のある方も少なくないハズ。(中略)ま、そんな思い出も含め、万博のお祭り騒ぎの高揚感が追体験できるのはありがたし。万博で見た人はもう一度。生まれてなかった人はぜひ一度。(本書15ページより引用)

余談ながら私は当時小学2年生だったので、太陽の塔の内部の記憶も残っているし、大切にしていた「太陽の塔の貯金箱」にも懐かしさを感じる。だから、著者のこうした記述に共感できるのだ。続く以下の文章についても同じ。

一方で、ちょっぴりこうも感じるのです。「あの頃君は若かった」みたいに、昭和ニッポンはあの日あの時元気だったというノスタルジックな雰囲気を。
2020年の東京オリンピックも、25年に開催が決まった大阪・関西万博も、それはそれで結構ですが、なんか「夢よもう一度」感が強くって。で、今のニッポンはどうなんだと。こう問われると何か答えに窮してしまう感じがしてしまうのです。時の流れは止められず、明日は必ずやってくるのに、生命の樹が、この先も伸び続けるように。(本書21〜22ページより引用)

本当に、そのとおりである。

さらにいえば、少しばかりこじつけがましいかもしれないが、感じることがある。他の項目も含め、本書を読んでいるといつしか、大阪を通じて「昭和」に思いを馳せてしまうのである。そういう意味でも、非常に魅力的な一冊だ。

『お邪魔しMAXデラックス 底抜けオオサカ観光局』

神田 剛 著

朝日新聞出版

定価:1404円(税込)

発行年2019年6月

『お邪魔しMAXデラックス 底抜けオオサカ観光局』

文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』などがある。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。

 

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