文/晏生莉衣
グローバル化時代、日本人が外国人と交流する機会は増えています。この教養シリーズでは、異文化理解について楽しみながら学ぶためのトピックスを紹介していきます。国際人としての常識を身につけて、あなたの世界を広げましょう。
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英語は世界の人々とつながる大切なツールです。でも、一口に英語といっても、アメリカで使われている英語とイギリスで使われている英語には違いがあります。一つは基本中の基本、発音です。英語を聞き慣れている人なら、聞いているだけで、「この人はアメリカ人」、「これは英国のニュース番組」などというように判断できます。アクセントが違うのですね。イメージで言えば、イギリス英語のほうはカチッと形式張った話し方をし、単語もきちんと発音するのに対し、アメリカ英語は流れるように話し、省略されて発音することが多い、そんなふうに表現できます。文章だけで違いを説明するのは限界があるのでここまでにしておきますが、どちらかの英語に耳が慣れてくれば、もう一方の英語との聞き分けができるようになってきます。
さらに、例えばアメリカ人の話す英語に慣れてくると、「あ、この人、南部なまりがある」というように、同じアメリカ人の英語でも違いがあるのがわかるようになってきます。著名人ではビル・クリントン元大統領がアーカンソー州の出身で、話していると時に混ざる南部なまりがチャームポイントとも言われていました。同じ南部なまりでもテキサスなまりはまた独特なものです。南部だけでなく東部のボストンなまり、フィラデルフィアなまり、ニューヨークなまり、ニューヨークの中でもブルックリンなまり、などがよく挙げられます。
アメリカは移民の国ですから、出身国によってはドイツなまりの英語、ロシアなまりの英語などもあります。私たち日本人も、自分たちの英語の発音を「ジャパニーズ イングリッシュ」と呼んで、LとRの発音が上手に区別して発音できないなど、その独特さを自覚していますよね。
では、イギリス英語はどうでしょうか。私たちはイギリス(英国)とよく言いますが、これは略称で、正式名のUnited Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)からわかるように、イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドから構成されています。イギリス英語は「ブリティッシュ イングリッシュ」ともよく言われますが、これはアメリカ英語との違いを意識した呼び方です。日本人はイギリスといえばイングランドを思い浮かべがちなので、イングランドの人々の標準的な発音をイメージして「ブリティッシュ イングリッシュ」と言うことが多いようですが、実際には、イギリス人(英国人)の話す英語は多種多様です。その文化的多様性から、イングランドの人々もいろいろな英語を話しますし、イングランド以外のスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの人々の話す英語には、これまたそれぞれユニークな特徴があるので、慣れないと、日本人にはかなり聞き取りにくいでしょう。
また、イギリス連邦(Commonwealth of Nations)の国の人でも、例えば日本人に人気の旅行先のオーストラリアで話される英語には、やはり強いアクセントがあります。イギリスを旧宗主国とするインドやアフリカの英語圏の国々の人の話す英語も独特なイントネーションがあって、そのヴァラエティに富んだ英語を聞いていると楽しくなってきます。
このように、英語にもアメリカ英語とイギリス英語の違いがあり、さらに国や地方による特徴があります。日本語でも標準語と数々の方言があって、日本人同士でも知らない方言で話されると、こちらはちんぷんかんぷんでまったく理解できない、なんていうこともありますよね。ですから、いくら勉強しても英語がじゅうぶん聞き取れない。そんなことがあっても当然のこと。まったく聞き取れなくても自信喪失する必要はありません。
英語という一つの言語をとっても実に多種多様で、その多様性は人類の多様性 – diversity- につながっています。簡単な単語はだいぶ聞き取れるようになったと思っていたのに、この人の英語はなぜか聞き取りにくくてよくわからない…、というような場合には、英語習得の壁にぶつかったのでも、突然、英語力が落ちたのでもなく、世界の人々が持つ言語文化の多様性に触れたということ。ですからそれは、とてもamazingな体験ができたということなのです。
文・晏生莉衣(あんじょうまりい)
東京生まれ。コロンビア大学博士課程修了。教育学博士。二十年以上にわたり、海外で研究調査や国際協力活動に従事後、現在は日本人の国際コンピテンシー向上に関するアドバイザリーや平和構築・紛争解決の研究を行っている。