『麒麟がくる』についに織田信長が登場した。演じるのは染谷将太。大河ドラマ『江 姫たちの戦国』(2011)では織田信長の小姓・森坊丸を、映画『清須会議』(2013)では、同じく信長小姓の森蘭丸を演じ、『麒麟がくる』では満を持して信長を演じることになる。
染谷将太が信長を演じるにあたってメディアに寄せたコメントに興味深い箇所があった。
〈「革新的な織田信長をゼロからつくりたい」とスタッフの方からお聞きし〉
〈『麒麟がくる』の信長は、とてもピュアな少年です〉
〈今回は、みなさんが思い描いているこれまでの織田信長像とは全く違うと思います。『麒麟がくる』の物語の中に生きている“一人の人間”として、フレッシュな気持ちでご覧いただき、「あ、これも織田信長だね」と思っていただけると嬉しいです〉・・・・・・・・。
『麒麟がくる』は、大河ドラマで初めて明智光秀を主役にした意欲作だ。これまでの「信長目線」のドラマとは異なる「光秀目線」の物語が展開されていく(だろう)。
で、あるならば、私たち視聴者も従来の〈淀みに浮かぶうたかた〉のような〈信長観〉を取っ払い〈ピュアな少年〉に戻って、戦国群像劇に接するのがいいのではないだろうか。
信長の登場3週目になる第9話「信長の失敗」の回では、衝撃的な展開が繰り広げられ、そのストーリーに密接に絡んでくる岡村隆史演じる菊丸の素性とあわせて、見逃せない回になっている。
そして――。若き信長の今後の成長過程とともに、今後登場する木下藤吉郎(後の羽柴秀吉)役の佐々木蔵之介と染谷将太の年齢差がある憶測を呼んでいる――。
※
世代によってそれぞれ役のイメージが異なるのが、大河ドラマの面白いところ。『サライ』本誌担当編集者(51歳)が最も印象に残っている信長役は、『徳川家康』(83年)で演じた役所広司。光秀役は『秀吉』(96年)の村上弘明になる。
本能寺の変が登場する大河ドラマで配役の一覧表を作ると、信長役は比較的若い俳優が演じていることがわかる。『国盗り物語』(73年)の高橋英樹は29歳、『徳川家康』(83年)の役所広司は27歳。『信長 KING OF ZIPANGU』(92年)の緒方直人にいたっては25歳だったから『麒麟がくる』の染谷将太(28歳)は決して若いとはいえない年齢になる。
信長役が比較的若い俳優が演じる場合、秀吉役もそれほど年齢が離れていない役者が演じることが多いのだが、『麒麟がくる』では信長役の染谷将太と秀吉役の佐々木蔵之介(52歳)の年齢差が過去最大の24歳差あることに注目が集まっている。
大河ドラマに詳しい、歴史書籍編集プロダクション三猿舎代表の安田清人氏はこう語る。
「信長役と秀吉役で、従来もっとも年齢差があったのは『天地人』(09年)の吉川晃司と笹野高史の17歳差。『麒麟がくる』での年齢差はそれを大きく引き離しました」。
史実では、信長が秀吉より3歳年上だから、『麒麟がくる』の配役の親子ほども離れた年齢差には何やら意味がありそうだ。
「本能寺の変に至る過程では、織田家の出世頭である光秀と秀吉による派閥抗争のような主導権争いがありました。秀吉役の佐々木蔵之介さんが、主君信長をも老獪に籠絡していく、という展開になるのではと深読みしています」(安田さん)
従来の大河ドラマでは、
〈「乱心召されたか、父上」「それよりほかに、この光秀の生きる道はない」〉(『おんな太閤記』(81年)
〈「よいか! 敵は西国にあらず! 神仏に火をかけ、僧を斬り、朝廷にとって代わらんとする天魔信長である!」〉(『功名が辻』(06年)
など、光秀の「乱心」や「怨恨」を軸に展開されてきたが、『麒麟がくる』では、どのような描写になるのだろうか。配役にドラマ制作陣の意図が隠されているのかも含めて、さらに取材を続けていきたい。
※この記事は、『サライ』2月号明智光秀特集掲載の記事をベースに再構成したものです。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり