織田信長の登場、斎藤道三息女・帰蝶との結婚と続き、第12話で信長の父・信秀が亡くなる展開となった『麒麟がくる』。高橋克典の好演が印象に残った織田信秀について語り合う。

* * *

ライターI(以下I):大河ドラマ初出演の高橋克典さん演じる織田信秀が亡くなりました。本木雅弘さん演じる斎藤道三同様、ドラマを締める存在だったかと思います。

高橋克典が好演した織田信秀。

高橋克典が好演した織田信秀。

編集者A(以下A):意外や、大河初出演だったんですね。〈信長役でもよかった〉という視聴者の声もあるようですから、制作陣もしてやったりでしょう。前半の出演のみでしたが、信秀の生涯のトピックスがあらかたドラマの中で紹介されていたような気がします。

I:制作陣は、〈今まで言われていた信長のイメージを信秀が請け負ってほしい〉と要請していたようですね。

A:信秀は第1話から登場していますが、第2話、斎藤道三との〈加納口の戦い〉が印象的でした。弟・信康も討ち死にし、従軍していた熱田神宮大宮司も戦死した様子が描かれました。

I:はい。落ち延びるときに〈城へ帰って寝よう〉と言っていましたが、そのセリフも信秀の負けを引きずらない性格を表しているということでした。

A:加納口の戦いは美濃との合戦ですが、そのほかにも三河との間に交わされた小豆坂の戦いや安祥城の戦いなどの描写もありました。

I:美濃の大柿(現大垣)を攻める戦いも描かれていましたね。

A:振り返ってみれば、戦いに明け暮れた信秀の一生をきちんと描写していたということになりますね。しかも、戦いだけではなく、蹴鞠を楽しむシーンや連歌に言及したセリフもありました。京都の公家・山科言継(やましなときつぐ)の日記『言継卿記』には、信長が生まれる前の若き信秀が、蹴鞠指導の公家を京都から招いていたことが記されていますから、そのあたりもしっかりおさえられていたわけです。

I:斎藤道三に〈信秀が朝廷に4000貫寄進〉した旨、語らせている回もありましたね。

A:朝廷の築地塀の修繕に拠出した金ですね。登場回数はそれほど多くはなかったですが、信秀の生涯をほぼ網羅する感じだったと思います。古渡城、那古野城、末森(末盛)城などと、居城をよく変えていることなどもわかるような展開でした。通常、信長がよく食べている印象のあったマクワウリを、信秀が食べているシーンもありました。

I:第12話では、信長に対する信秀の思いを帰蝶の口から語らせていましたね。〈良いところも悪いところもわしの若いころに瓜ふたつじゃ〉って、信秀の信長に対する愛が伝わってきてジーンとする場面でした。

A:父からはそこそこ愛されていた感が出ていましたが、『麒麟がくる』では、母の土田御前(演・壇れい)から愛されていないことを信長自身が再三吐露する展開になっています。今回も信長が泣くシーンがありましたが、信長の人間形成のうえで、母親に愛されなかった影響が大きかったという設定にしているようです。

信長と帰蝶の関係からも目が離せない。

信長と帰蝶の関係からも目が離せない。

I:もう9年前の刊行物になりますが、『信長全史』という本の中で精神科医の影山任佐先生が分析しました。影山先生はこう解説してくれました。〈信長の母は弟を溺愛しました。兄弟間で愛情に差別があると、嫉妬心や憎悪を抱き、これが周囲に向けられることがあります。これをカインコンプレックスといいますが、信長にはこの傾向が見られます〉。

A:『麒麟がくる』ではまだ10代の信長が描かれていますが、今後、弟との確執を経て、尾張国内を統一することになります。大人になっていくにつれて、どのような展開になるのか、毎回本当に見逃せない流れになっているようです。

I:それは楽しみですね! さて、信秀の登場も今回の12話までとなります。高橋克典さんの演技、もっと見たかったですね。また大河に登場してほしいです。

A:本当ですね。さて、信秀はこれまで『国盗り物語』(1973年)で千秋実さん、『徳川家康』(1983年)で伊藤孝雄さん、『信長 KING OF ZIPANGU』(1992年)では林隆三さんが演じてきましたが、『麒麟がくる』の信秀は、ひときわ印象に残りますね。信秀について、興味を持たれた方は、『天下人の父 織田信秀』(祥伝社新書)を読まれたらいいかと思います。

斎藤道三をめぐる展開が佳境に突入

I:信秀役の高橋克典さん以上に話題を集めている本木雅弘さん演じる斎藤道三をめぐる展開も、目が離せなくなってきました。

A:当欄は、これまで再三、斎藤道三と息子高政(後の義龍)の間で繰り広げられる〈長良川の戦い〉の回は、神回になるといってきました。今回、土岐頼芸が爪に毒を盛った鷹を送ったエピソードは、その序章です。今後の展開から目が離せません。

鷹好きだった土岐頼芸の史実をうまく演出

鷹好きだった土岐頼芸の史実をうまく演出

I:稲葉山城に登城せよという合図の狼煙(のろし)があがるシーンがありました。

A:明智荘は、岐阜県可児市の設定になっていますから、稲葉山城までの距離は30数キロあります。狼煙はそれこそ『日本書紀』の時代から通信手段として用いられていたようです。しかし、斎藤道三の怒り具合は半端なかったですね。

I:本木さんは〈演じることは(道三への)鎮魂でもある〉と語っています。今後は、まさに魂の演技が繰り広げられると思います。

A:病床にある信秀を見舞う帰蝶が描かれましたが、この場面はけっこう重要かと思いました。斎藤道三の娘として、織田家に嫁ぎ、やがて父・道三は、帰蝶の兄にあたる斎藤高政(義龍)と争うことになる。そうした展開でも重要な役割を果たすのではないかと思います。

I:最近は最後に『麒麟がくる』に登場する食べ物の話で〆ることが多かったのですが、今回は違う話をしたいと思います。

A:なんでしょう?

I:例えば光秀の館や、信長の館の庭というか庭園が美しいということです。

A:確かに。見逃しがちなところですが、注目してみれば、「おっ」と思いますよね。手抜きがない。

I:あれは京都造園界の大家・北山安夫さんの指導によるものです。そういう部分にも注目して見てほしいですね。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。

●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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