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【まだ始まらないのか!『麒麟がくる』リポート】脚本家・池端俊策氏インタビュー「描きたかったのは、従来のイメージとは異なる光秀と信長」

『太平記』以来の大河登板の池端俊策さん。『麒麟がくる』も早くも「伝説の大河」の再来と期待が高まる。

『太平記』以来の大河登板の池端俊策さん。『麒麟がくる』も早くも「伝説の大河」の再来と期待が高まる。

2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』への期待が高まっている理由のひとつは、名作大河といわれることが多い『太平記』(1991年)の脚本を手がけた池端俊策氏が2度目の大河ドラマ登板を果たしたということに尽きる。
後醍醐天皇の挙兵、鎌倉幕府の滅亡、南北朝の騒乱や観応の擾乱など、激動の時代の複雑な人間関係を見事に描き切った『太平記』だが、特に22話「鎌倉炎上」の回は、鎌倉幕府の滅亡を叙事詩的に描いた「神回」として、大河ファンの間で語り草になっている。

今回、『麒麟がくる』ではどのような物語を紡ぎ出されるのか。NHKでの取材の際に、期待がさらに膨らむ言葉が池端さんから語られた。

* * *

●最後の将軍足利義昭を描きたかった

戦国時代をやりたい、しかも戦国時代の後半じゃなく、前史をやりたいということで、僕のところにNHKからオファーがありました。

91年に『太平記』を手がけて、室町幕府を開いた足利尊氏を書いているんですね。僕はかねがね、以前から室町幕府の終わりも書きたいと思っていた。室町幕府の最後の将軍は足利義昭ですから、義昭を書きたいなというのが前からあったんです。室町幕府の終わりの人間模様を描きたいなと考えました。

足利義昭役の滝藤賢一

足利義昭役の滝藤賢一

NHKからは、斎藤道三はどうかという打診がありました。
道三は以前『国盗り物語』(昭和48年)で取り上げられていますが、全く違う斎藤道三をやってみると、そこから信長も見えてくると思ったんです。でも、道三は早く死んじゃいますからね。その後、NHKから明智光秀もいますよねという話があった。そこに飛びついたというわけです。

というのも、足利義昭を描く場合、信長と義昭をつないだのは光秀だという説がありますから、光秀は外せない。僕は割と早く光秀案に飛びついた。そういう感じなんです。

【光秀の前半生は謎に包まれているが】

ということで、光秀をやろうとした時に、直面するのは、史料が少ないということなんです。若い頃の史料が全くない。

歴史上に登場するのは、41歳の時に、信長と足利義昭を結びつける辺りなわけです。そこまでは全く分からない。

研究者たちも史料を駆使して、いろいろと書かれたものがありますけれど、あくまで推測でしかない。
ドラマの作り手としては、生まれて41歳まで光秀は何をしていたのか考えるところから出発するわけです。これは誰も見たことがないし、会ったこともない人物ですから、自由なわけです。

ただし、光秀の周りの状況は割合はっきりした人も、事柄もある。斎藤道三が何をやったのか、織田信長が何をやったのかということを睨みながら、同時代人としての光秀を彼らとの関係を通じて描いていくことになります。

留意したのは、今までの明智光秀像を僕は全く白紙にしたということです。

「光秀は頭がいいけれども陰湿」、「繊細過ぎて信長とそりが合わなくていじめられた」、それで最後は本能寺に突入しましたという、従来の光秀像は、信長の側にいた人物が書いた『信長公記』や江戸時代の史料が基本になっている。これはあくまで信長側の見方です。江戸時代に書かれたものは、徳川家康側から見た光秀なんです。当然、光秀は逆賊であったという発想からスタートしています。そうした光秀像は違うと思っています。

信長の家臣の中で、光秀は一時期は家臣のナンバーワンになった人ですからね。秀吉のライバルでもあったわけです。

そういう人物ですから、勢いがあったり、緊張感に満ちた生き方をした人だろうと思います。
透明感があって、緊張感があって、時代を駆け上っていくという僕の中での光秀像は、光秀役を演じる長谷川博己さんにはぴったりなんです。

●ナイーブな信長を描きたい

織田信長という人物は、歴史上のスーパーヒーローです。

しかし、『信長公記』には異端児であると書かれている。しかも信長は弟殺しもやっている。
平手政秀も、信長をいさめるために腹を切ったといわれるなど、信長の異端ぶりはいろいろと語られています。でも、僕はそうした従来の信長像は、実像とは違うのではないかと思っています。

では、信長という人はどういう人間なのだろうと、自分なりに考えました。
信長は、母親が大事にしていた弟の信勝を敵とみなすわけです。信長が信勝を殺そうとした時に、母親(土田御前)が命乞いをするという逸話が残っています。
嫡男の信長ではなく、弟の方を母親がかばったというのはどういうことなんだということを考えました。なぜ、信長は弟を殺したのだろうと。
もちろん、権力争いでやむを得ず殺したわけですが、家族という視点でいうと、弟を殺すというのはよっぽどのことです。この事件には、母親に愛されなかった信長、信長はマザーコンプレックスだったというのが根底にあるのではないかと思っています。

信長の父・信秀は偉大でした。今川とやり合って戦った父親ですからね。父親がどれくらい信長をかわいがったかはよくわからないけれど、少なくとも母親から愛されなかった男の子というのは、なんとなく想像がつくんですよ。非常なコンプレックスがある。その裏返しとして異端児のようにふるまう。つまり不良少年ですね。そういう風に幼児期を育った、暴れ者なんです、信長は。

信長のこころはとても繊細な人だろうと思います。そんな信長の人生に、帰蝶が入ってくる。それで、脚本家というのは、帰蝶と信長の夫婦関係はどうだっただろうかということを考えるわけですね。

帰蝶というのは美濃の斎藤道三の娘です。道三はマムシといわれるくらい恐ろしがられた人なんですが、その娘ですから、半端な娘じゃない。

その半端じゃない娘が嫁いできた時に、信長はどう受け止めただろうか。その部分が、信長を考えるよすがになりました。

お嫁に来た帰蝶が、いつ消えていったかははっきりしていない。でも信長は側室の吉乃が生んだ長男の信忠を帰蝶に育てさせている。帰蝶を相当大事にしたことは間違いないんです。帰蝶との信頼関係は相当あったんだと思います。

要するに帰蝶は信長にとってお母さんだったんだろうという直感みたいなものがあって、母親に愛されなかった男が、帰蝶という母親を手に入れる。その帰蝶の遥か後方に光秀がいるという構図が、徐々に僕の中でふくらんできたんですね。

そうなると非常にナイーヴな信長像になる。だから、今までの強直で独裁者風の偉大な信長というのとは違う信長になるのではないかと思います。

ただ、人間というのは変貌していきますから。権力を手に入れると変わっていきますし、年齢を経ると人間はみな変わりますから。変わった結果どうなるかはまた別の話として、基本として幼いころはこうだったんじゃないかと。
それは後々、基本として必ず影響してくるはずで。そういう事を考えながら、この脚本の中での信長を育てていこうと思っています。

織田信長役の染谷将太。新たな信長像をどう演じるのか期待されている。

織田信長役の染谷将太。新たな信長像をどう演じるのか期待されている。

【インタビュー解説/編集者対談】

編集者A: 『麒麟がくる』脚本家の池端俊策さんのインタビューで特筆すべきは、室町幕府最後の将軍・足利義昭を描きたかったという個所ではないでしょうか。

編集者B:『太平記』で初代将軍足利尊氏の生涯を描いたので、最後の将軍義昭も、という発想は素晴らしいですね。歴史ファンの心をとらえましたね。

A: 教科書なんかでは、室町幕府は天正元年(1573)に滅亡したと書かれていますが、実は最後の将軍義昭は、その後も将軍を解任されたわけではなく、現職将軍であり続けていたということですね。

B: 義昭は毛利氏領である備後・鞆の浦に亡命しますが、ここにあった御所を俗に「鞆幕府」といいます。義昭はここから京都への復帰を目論んで全国の大名に号令を発していたということです。鞆の浦は足利尊氏が南朝との戦いに敗れ、いったん九州に落ち、再び東上する際に立ち寄っています。さらに流浪の将軍と呼ばれた室町幕府10代将軍足利義稙も一時滞在した、足利家ゆかりの地です。

A: 風光明媚ないいところですよね。今は、足利将軍よりもむしろ、幕末に滞在した坂本龍馬で観光振興していますけれど・・・・・・・。

B: 鞆の浦が『麒麟がくる』でも登場するかもしれないですね。

A: ところで、『麒麟がくる』では、明智光秀と濃姫がいとこという説が採用されています。

B: 時代考証担当の小和田哲男先生が提唱している説ですね。江戸時代の系譜集『系図纂用』などに記されています。

A: 池端さんは、光秀の前半生は謎に包まれていますから自由だ、という話がありましたが、まったく根拠のない話で展開しているというわけではないんですよね。その説を採用することで、光秀が道三のもとにいることも違和感がなくなる。

B:むしろそれが正しいのではないかという感じがするくらい自然な展開になりますね。

A:なにはともあれ、早く第一回がみたいですね。

* * *

編集者A: 信長はマザーコンプレックスというお話が池端さんから飛び出しましたが・・・・・・。

B: そうですね。

A: 管見の限り、そのことをしっかり提唱したのは、精神科医の影山任佐先生だと思うのですが。

B: 『信長全史』(小学館)ですよね。

A: 影山先生はこう指摘しています。〈信長の母は弟を溺愛しました。兄弟間で愛情に差別があると、嫉妬心や憎悪を抱き、これが周囲に向けられることがあります。これをカインコンプレックスといいます。信長にはこの傾向が見られます。青年期にはマザーコンプレックスもあったと思われます〉

B:懐かしいですね。

A: 『信長全史』はBさんの編集協力のもと8年前に編まれた本です。信長に関する大量の史資料を影山先生に読み込んでもらって分析したんですよね。影山先生が歴史好きということも大きかった。

B:最近では、従来とは異なる様々な信長像が提起されていますし、そもそもこれまでの信長像は「信長史観」からのものですから。

A:せっかく光秀が主人公なわけですから、脱・信長史観の斬新な展開を期待したいですね。

●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。

●編集者B 歴史書籍編集プロダクション「三猿舎」代表の安田清人氏。初めて通しで視聴した大河ドラマは『黄金の日日』(78年)。毎年大河関連本の編集に携わっている。

文/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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