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2020年NHK大河ドラマ『麒麟がくる』が、帰蝶(濃姫)役の沢尻エリカ降板騒動で揺れている――との報道が世間を賑わせている。だが、ドラマの開始を待つ大河ファンにとって、そんな騒動は関係ない。本格戦国大河の放映開始を静かに待つのみである。今週も大河ドラマファンの編集者が語り合う――。

Part1はこちら

* * *

編集者B(以下B)帰蝶(濃姫)役の沢尻エリカ降板ということで世間を賑わせています。

編集者A(以下A) 『国盗り物語』(73年)で当時21歳の松坂慶子が演じた濃姫と争う「大河ドラマ史上最高の濃姫」になると期待していただけに本当にショックです。ただ、放映前に発覚したのを不幸中の幸いとしてほしいですね。制作陣には、『麒麟がくる』の放映を楽しみにしている大河ドラマファンが全国にたくさんいることを肝に銘じてこの危機を乗り越えてほしいです。

B まったくです。

A さて、本能寺の変がでてくる大河ドラマはこれまでで15作もあります。『麒麟がくる』で16作目。なんと大河ドラマの27%で本能寺の変が登場しているわけです。忠臣蔵よりも多いんですよね。

B もっとも古いのが昭和40年の『太閤記』。信長役が高橋幸治、秀吉役が緒形拳。信長の人気が凄くて、助命歎願がNHKに殺到して、本能寺の変の回が2か月延びたという逸話が語り継がれています。

A 大河ドラマ3作目なんですよね。その頃の大河はそれ自体がもう「歴史」として扱われる対象のような気がします。

B 実は残っている映像は公式には本能寺の変を扱った第42回の回のみといわれています。これは、NHKオンデマンドで視聴可能です。Aさんは当然見てますよね?

A もちろんです。半世紀以上も前の作品ですからリアルタイムではないですが、時代劇専門チャンネルやNHKオンデマンドで何度か見ています。この時代はまだモノクロ作品なんですよね。この回は、〈天正10年6月2日。明智光秀が反逆の志を抱いて桂川をわたった――〉というナレーションから始まります。本能寺の変は、光秀の反逆というのが大前提です。

B 昭和40年の研究状況だったら、反逆でしょうがないですね。この回には注目のシーンがあります。明智軍が一本道を縦隊で行軍しているんですが、どこでロケしたのか気になるんですよね。今、あんなシーン撮影できる場所があるんでしょうか。

A NHKにロケ地の記録が残ってないんですかね? 気になりますよね。でも、あのシーンは、戦国のリアリティを感じますね。道が狭いから縦列で行軍するしかない・・・・。まあ、なにはともあれ、ここで当時37歳の佐藤慶演じる光秀が全軍に号令をかけます。〈皆に伝えよ。我が敵は本能寺にある。敵の名は、織田信長〉!!!!

B おお!・・・・・。ここで場面が変わって信長の幸若舞『敦盛』の「/~人間50年~」のシーンになります。おいおい話に出てくると思いますが、15作あると『敦盛』の扱いも様々です。『太閤記』のように光秀謀反を知る前に登場したり、亡くなる直前だったり。もちろん『敦盛』が出てこないケースも多いですし・・・・・・。そうこうしているうちに明智軍先鋒が本能寺に到着します。ここからのシーンが面白いので、光秀重臣の斎藤利三と進士作左衛門の台詞から再現しましょう。

斎藤利三「待て」
進士作左衛門「なぜ止められる。斎藤殿は今になって気後れなされるか」
利三「愚かなことをいわれるな。光秀さまをお諫めする時期はもう終わったのじゃ。今、わしは信長さまのみしるしを頂戴するまで二度と馬に乗って帰らぬつもりじゃ」
斎藤利三、門を二度叩き、
利三「門のうちに物申―す。門のうちに物申―す」
門番「誰か。何の用か」
利三「われら、丹波亀山城主、明智光秀が軍勢1万3000の先鋒隊でござる。この度、信長さまの御仰せをいただき、中国へ出陣仕る途中、この寺に立ち寄り申した。われらが軍勢ご覧の上、お言葉を賜りたく存じます。門を開かれえ」
門番「明智殿か?」
利三「さよう」
門番「今、開け申す」
別の門番「待て、待て、待て。われらそのようなこと、先に承ってはおらん」
門番「では奥へ行って尋ねてまいろう。しばらくお待ちなされ」

B ここで、同じく光秀家臣の進士作左衛門が、利三を制して本能寺への突入をはかるという流れですね。この時、信長はといえば、「表で騒ぐ声がする」と小姓たちに尋ねますが、小姓らは、「表御門の番士たちが喧嘩でも始めたのではないでしょうか」と光秀謀反にまだ気づいていません。さらに信長は、「塩は?」と言って、歯を磨き始めるほど。

A なんと悠長な! 危機感が感じられないですね(笑)。本能寺の変というより、忠臣蔵の討ち入りでも見ているかのようです。この段階で信長は顔を洗っているわけですが、蘭丸が戻ってきて、「光秀さまの謀反でございます」と伝えても「はははははははは。光秀はそんな馬鹿者ではない」と一蹴して、信じようとしません。実は、このシーンを塀越しに進士作左衛門が見ているわけです(イラスト参照)。

塀越しに本能寺の様子を窺う光秀家臣。牧歌的ともいえる初期大河『太閤記』(65年)が描く本能寺の変。

塀越しに本能寺の様子を窺う光秀家臣。牧歌的ともいえる初期大河『太閤記』(65年)が描く本能寺の変。

B ここで進士作左衛門が放った矢が信長の左腕を襲う。ようやく謀反が真実だということを悟った信長は、濃と侍女に、女どもは逃げよと命じるんですね。

A 見ていて、「信長、逃げろよ、逃げられるよ!」と叫びたくなるほどやきもきするシーンでした。「8時だよ全員集合」でドリフターズがやっていた「うしろ! うしろ!」のような感覚ですね。この時の蘭丸と信長の会話が切ないです。

信長「お蘭、防ぎの人数は?」
蘭丸「はい。戦える人数は、35、6名にござりまする」
(略)
信長「光秀の軍勢は少なくとも1万は超えていよう。1万と35、6名。これはもう戦(いくさ)ではない」
蘭丸「はい」

光秀謀反を知らずに顔を洗う信長。思わず「逃げて!」と叫びたく なるシーン。

光秀謀反を知らずに顔を洗う信長。思わず「逃げて!」と叫びたく
なるシーン。

B 『太閤記』では、濃姫は一貫して「おこい」「こい」と呼ばれていました。演じたのは稲野和子という文学座の女優でした。「こい」も薙刀を手に戦おうとしますが、戦闘のシーンは出て来ず、亡くなってしまいます。

A 煙に包まれて自害する信長のシーンが印象的でした。蘭丸が次の間で正座で控えているのが涙を誘いますね。

B 蘭丸を演じていたのが片岡孝夫(当時。現片岡仁左衛門)。後年、『太平記』(91年)で後醍醐天皇を演じました。

A 前回も話しましたが、『太平記』は名作大河でした。2020年の『麒麟がくる』への期待が高いのは、『太平記』の脚本を書いた池端俊策さんが『麒麟がくる』の脚本をやっているということに尽きます。

B 帰蝶(濃姫)降板騒動程度で、期待は揺るがないということですね。

A 当然です(きっぱり)。『麒麟がくる』がどのような本能寺の変を描くのか、今から楽しみでしょうがないです(以下続く)。

※役者降板騒動を受けて、予定を変更してお届けしています。(敬称略)

●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。

●編集者B 歴史書籍編集プロダクション「三猿舎」代表の安田清人氏。初めて通しで視聴した大河ドラマは『黄金の日日』(78年)。毎年大河関連本の編集に携わっている。

●画/和田聡美

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