新型コロナ禍の影響で、今週の第21話を以て、いったん休止ということになる大河ドラマ『麒麟がくる』。休止前の回では、織田信長の人生、日本の進路を変えた桶狭間の戦いがじっくりと描かれた。
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ライターI(以下I):桶狭間の戦い(1560年)はある意味、日本の転換点になった合戦ではないでしょうか。27歳の織田信長が、海道一の弓取りとまでうたわれた大大名・今川義元を討ち取ってしまう。それが『麒麟がくる』でどのように描かれるのか楽しみにしていました。
編集者A(以下A):冒頭で松平元康(演・風間俊介)が菊丸(演・岡村隆史)の説得を聞かずに今川方で戦う決意を固めました。
I:元康の言い分ももっともです。この段階で信長の勝利は予想しがたいですから。それにしても元康はこのとき、今でいえばティーンエイジャーの年齢です。いわれてみればでハッとしましたが、駿府には妻子をおいたままでした。(※元康は駿河時代の1557年に築山御前と結婚、2年後には長子・信康が生まれている)
A:元康が入った大高城は、鳴海城と並んで、もともと織田方の城でした。信長は両城の周囲に丸根砦、鷲津砦、丹下(たんげ)砦、中島砦、善照寺(ぜんしょうじ)砦を築いていますが、『麒麟がくる』では丹下砦以外の砦がすべて説明されていました。
I: Aさんは以前『信長全史』という本を編集した際に全部まわったんですよね?
A:はい。今は公園になっている善照寺砦からの眺望や大高城の佇まいなど今も鮮明に記憶しています。住宅街の中にある中島砦跡に行きつくのが大変でした(笑)。まさかあの時の記憶が、『麒麟がくる』で呼び覚まされるとは思いもよらぬことでした。
I:さて、その桶狭間の戦いですが、『信長公記』に拠っている部分が多かった印象ですが、斬新で刮目すべき展開もありました。信長(演・染谷将太)が義元(演・片岡愛之助)率いる今川軍本隊の軍勢をち密に計算する姿が描かれていました。
A:簗田政綱(演・内田健司)とのやり取りなどみても実際にこういうことがあったのではないかと思わせる演出でした。今までにない感じだったので新鮮な心地がしましたね。
I:城内で今川方に通じているものがいるということで、当初は籠城を叫び、幸若舞の『敦盛』を吟じ、「死のうは一定」という信長が好んでいたという小唄の一節も飛び出しました。義元を襲う直前には豪雨が降り出したことなど、斬新な演出にオーソドックスな出来事も入れ込む精緻な脚本でしたね。
A:本当ですよね。安心してみられる部分、〈なるほどこう来たか!〉という部分が絶妙なバランスで配置されていたと思います。片岡愛之助さんの演技も相まって、本当にひきつけられました。
I:そうした緊迫した中で、〈女軍師〉を務めて来た帰蝶(演・川口春奈)に対して信長の衝撃的な告白がありました。なんとそこそこ成長した奇妙丸(後の信忠)の存在を告白するとは! 今それを言うか、と思いましたけど(笑)。
A:それを今言ったら、相手がどう感じるかという部分に欠けたようにも感じる台詞です。〈わしはこの10年そなたを頼りに思うてきた〉などと言っていますが。信長らしいといえば信長らしいですが。
I:〈尾張の行く末をそなたに任せる〉と出陣直前に言われても・・・・・・。こうしたある意味身勝手な部分も今後の伏線になるのかもしれませんね。
【思わずあっ!と声が出た!斬新な今川義元最期の瞬間。次ページに続きます】