戦国物の大河ドラマで初の4K放送となる『麒麟がくる』。単純にハイビジョン放送の4倍の画素数という高画質。かつらの装着部分がわからないようにするのが大きな課題だが、最新技術を駆使した、かつらの進化がすごいことになっていた。
かつらの進化を象徴するのが、羽二重(はぶたえ)の進化。
羽二重とは、かつらを被る時に下地として頭を覆うもののことで、従来は布製のものが主流だった。和装の結婚式で新婦が高島田にゆったかつらを被る前に、頭に巻き付けるアレ、といえばわかるだろうか。
最近はより本物の人間の皮膚に近いラテックス素材の羽二重が使用されるようになってきている。これによって、より自然な頭皮に見えるよう進化したのである。
ラテックス羽二重はどのような工程で造られているのだろうか。
『麒麟がくる』で特殊メイクアップを担当している特殊メイクアーティスト、江川悦子さんに聞いた。
「まず、スキャニングで役者さんの頭の型をとります。その型を、3Dプリンタで出力して、型にそってラテックス製の羽二重、通称ラテハブを作ります。できたものを一度、役者さんにフィッティングして、色目や形が本当に大丈夫か確認します。かつら屋さんのかつらものせていただいて、トータルで見るという日を設けるんですね。それが終わったら微調整をして本番、という感じになります」
最新技術のたまものといえるラテハブだが、実際に装着させる際、いかに違和感なく肌となじませるかが、特殊メイクの腕の見せ所。
「例えば、坊主頭ですと、ただつるっとしているというだけではダメなんですね。首の上辺りにあるたるみなんかも作るようにしています。髪を剃ったあとの青剃りの感じも、一色でべたっと仕上げてしまうと不自然なので、様々な色を飛ばして仕上げるようにしたり」
役者によって肌の色味や質感などみな異なるが、もっとも苦労するのはどんな部分だろうか。
「実際には髪のある部分を、髪がないように見せるのがラテハブの役目なのですが、坊主頭にせよ、剃髪した尼僧にせよ、本人の頭髪が羽二重の中に納まっていて、でも入っていないように見せるのが大事なんです。そのためには、いかに髪を寝かせるかにかかってきます。剛毛というか、しっかりした毛質の人ほどしっかり寝かせておかないと、せっかく馴染んで綺麗にできたねっていっていたのが、撮影が長時間に渡って、汗をかいたりすると、髪が元気にぶわっと立ってくるんですよ。その処理がけっこう大変なんですね。ラテハブのいいところは、少しはがせば簡単にめくれるので、そこの部分で髪を再び寝かしつけて整えることができます。汗の処理も大変です。夏場で暑くて汗をかくと、ぴたっとフィットしなくなってきます。だから、頭の前から後ろにかけてローラーのようなものをかけて、首のあたりに作ってある汗の出口から汗を流し出すようにします」
この他、怒った時に眉毛が上がって額に皺ができても、ラテハブとの境目が不自然にならないようしたり、本来の人間の肌のように時間経過で脂が出てテカりが生じるように、ラテハブでもテカりをあえて足す方法をとったり、それぞれの役者の表情の癖を意識して仕上げるなど、細部に至るまで様々な工夫がこらされているという。
最新技術を用いているとはいえ、最終的には熟練の技が物をいう。
文/『サライ』歴史班 一乗谷かおり