■倒れた母に呼び寄せを提案
弘子さんが倒れたと連絡が来たのは、“脱走”後再び一人暮らしになって数年後のことだった。
「母の隣に住んでいる従兄から連絡が来たんです。トイレで具合が悪くなって従兄に助けを求める電話をしたということでした。血圧が下がり、脱水症状が進んでいてそのまま入院しました。今回は体力も落ちていて、一時的ではあるもののオムツと車いす生活になり、さすがの母もすっかり弱気になっていました」
弱った弘子さんを見て、船田さんと兄は今度こそもう一人暮らしは無理だと考えた。でも、また前回のようなことがあるといけないので、しっかり弘子さんに合った住まいを選びたい。そして、隣の従兄に迷惑をかけるわけにはいかないので、船田さんと兄の家の近くに弘子さんを呼び寄せようと決めた。
なお、このとき同居することはまったく考えていなかったという。一人暮らしが長い弘子さんが、今になって息子や嫁と一緒に暮らすのはお互いストレスになるだけだろう。また“脱走”することにもなりかねない。
問題は、弘子さんがその提案に同意してくれるかどうかだ。
「恐る恐る……という感じで母に伝えたのですが、意外なことに素直に上京することを受け入れてくれました。あまりにあっさりとしていたので拍子抜けしたほどでしたが、母も一人暮らしに限界を感じていたのかなと思いました」
早速、船田さんは弘子さんの終の棲家選びを開始した。
【後編に続きます】
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。