海外で働く場合は共通ルールに従うことも必要

今回の外務大臣や文科大臣の主張にあるように、日本の首相や政府要人は「姓→名」のローマ字表記を使用する、というのが今後の政府の方針となるのなら、当事者ご自身が率先してその順で名前を使用し、政府もその方針を海外に向けて示し続けていけば、国際的にも定着させることはできるでしょう。そのようにして、政府要人の方々がご自分の氏名のローマ字表記の順序を変更しても、国民に大きな影響を与えるようなことでもないので、特に反対する理由もないのですが、他方、その方針が一般の日本人にも強く奨励されるということになれば、変更による欧米式表記のクレジットカードに関するシステム障害を始め、私たちの生活に大小様々な問題が発生することが予想されます。

海外で仕事をしている日本人や日本人留学生にとっては、自分たちだけではそうした変更自体、コントロールできるものではないということも、長い海外生活を送ってきた私自身の経験から懸念される点です。

ご自分やお子さんが英語圏へ留学している場合、「名→姓」の順で学生登録されて、以後、成績や学位論文、学位証明書など、すべて、英語式のスタンダードで記録されるのは、どこの国からの留学生であっても同じです。それを、日本で方針の変更があったので、卒業証書の自分の名前を「姓→名」にしてくださいと言っても、そうした個別のリクエストが可能かどうかはケースバイケースでしょう。

仕事について例を上げると、私が働いていた国連機関では、職員用の名刺は、自分のオフィスのコンピューターからデータをインプットすると、そのデータが担当部署に送られて、オートフォーマット方式で作成されるというシステムになっていました。名前は「名→姓」の順でプリントされ、姓のほうは大文字で表記されます。わかりやすいようにラストネームのアルファベットをすべて大文字で書くのは英国式で、アメリカではこの方法はあまり使われないのですが、国連機関では英国式の英語が使われますので、こういう形になります(レッスン2参照)。

コンピューターでの自動作成ですべての職員に同じフォーマットが適応されますから、中国人や韓国人、日本人の職員が、「母国では逆の順序で書くから、名刺もそれに合わせて姓を先にして」というような特注をすることはできません。これは、世界各国の人たちが集まって働く組織の中では当然のことで、すべての国の職員が同じルールに従うのは、どの国の職員も平等に扱われるために必要なことなのです。

先に例に挙げた潘前国連事務総長は、当時の身分は国連職員でしたが、事務総長就任以前の韓国外交通商部長官当時から、母国式で「姓→名」のお名前を使用されていたので、そのまま名乗り続けることになったようです。国連事務総長は国家元首クラスと同等のポストなので、その点からも、「名→姓」という国連ルールからの除外も可能だったのでしょう。

国際化された社会の一員として、国際スタンダードに合わせて名乗るのか、国際化された社会だから、言語の多様性を意識して自国の固有形式を使うのか。次回も引き続き、このテーマを取り上げる予定です。

文・晏生莉衣(あんじょうまりい)
東京生まれ。コロンビア大学博士課程修了。教育学博士。二十年以上にわたり、海外で研究調査や国際協力活動に従事後、現在は日本人の国際コンピテンシー向上に関するアドバイザリーや平和構築・紛争解決の研究を行っている。

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