ライターI(以下I):『麒麟がくる』第4回に初登場した松平竹千代(後の家康)の〈干し柿、あまい〉という台詞にほだされて、ついつい美濃の干し柿をお取り寄せしてしまいました。
編集者A(以下A): え? 本当ですか? 確かに農民姿に扮装した光秀が、織田家に人質になっている竹千代と遭遇して〈噛まずに口の中に含んでおくと、ずっと甘くて、気が晴れますよ〉と干し柿を渡すシーンがありましたけど・・・・・。
I: 〈噛まずに〉っていわれたのに、渡された瞬間、かじっちゃったのが話題になりました。
A: まあ、あの場面の竹千代は数え年で5歳ですからね。そりゃあ、かじりますよ・・・・。で、お取り寄せした干し柿って。
I: 〈堂上蜂屋柿〉です。岐阜県美濃加茂市の名産みたいですね。1粒がとてもお高いのですが、実際に食べてみて、なるほど、この価格も仕方ない、と思いました。干し柿ですから表面は乾燥しているのですが、中はとろりとしていてなめらかで、すごく濃厚な甘みなんです。でも、後味は意外なほどさっぱり。コクがあるのに、くどくないというか。肉厚だから、乾燥させても熟した内側に程よい湿度が残り、こんな粘り気と甘みが保たれるんでしょうね。
A: どれどれ。(口に含んで)。あ~、これは甘いですね。竹千代が〈干し柿、あまい〉っていうのもわかります。しかも、口に含んでおくと確かにずっと甘い。いや、これは絶品だ。光秀が竹千代に与えた干し柿だと思うと、感慨深いです。
I: 光秀の時代は、砂糖がないってことも頭に入れてください。その時代に、この甘さを体験したら極楽浄土にのぼったような気持ちになったんじゃないでしょうか。
A:確かに。(由来略書を手にとって)ほう。この干し柿は鎌倉時代から名産だったようですね。しかも室町幕府七代将軍足利義勝のときに幕府に献上している。お、しかも関が原の戦いの際に、家康に献上しているようです。
I:家康がご機嫌になったと書いてありますね。関が原は『麒麟がくる』の枠外ではありますが、『麒麟がくる』が終わっても、干し柿つながりで物語は続くみたいな話ですねえ。
A: これまで、再三いろいろな史料を駆使して脚本が出来上がっていると指摘してきましたが、本当に芸が細かい。
I: 干し柿が今後のキーアイテムになるんですかね? 人質時代にこんな甘いものをもらったら、もう絶対に〈光秀はいい人〉ってインプットされますよね。
A: 物語上はともかく、信長、秀吉、家康に光秀が揃い踏みする場面としては、〈金ケ崎の退き口〉があります。そこでまた干し柿は出てきますかね? 殿(しんがり)を務める光秀に家康が「光秀どの」といって干し柿を手渡すとか・・・・・
I:それは考えすぎです!
A: ところで、同じ第4話では、織田信秀が、豪快にウリを食するシーンが目を引きました。本当に美味しそうに食べている。
I: マクワウリですかね? 実は、私の実家(愛知県三河地方)では、今もよく食べられています。地元ではキナウリともいいます。皮が黄色いから、キナウリ。
A:え? そうなんですか? 美濃の真桑が産地だから〈真桑瓜〉というそうですが、今も食べられているなんて。
I: さくっとした適度な歯ごたえで瑞々しく、ほのかな自然の甘みのマクワウリは、私にとっては夏の味なんですよ。実家の父は、今でも夏になると毎日のようにおやつとして食べています。夏には、地場のスーパーや産地直売所などでよく見かけますよ。
A:へー、そうなんですか。いずれ信長がマクワウリを食べるシーンが出てくると思います。しかし、『麒麟がくる』は、細かいところにいろいろぶち込んで来ますねえ。
●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』も好評発売中。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり