信長(演・染谷将太)の妹で近江の浅井長政(演・金井浩人)に嫁したお市は、国民的美少女の井本彩花が演じる。

義弟浅井長政(演・金井浩人)に裏切られ、絶体絶命の危機に瀕した織田信長(演・染谷将太)。その退却戦「金ヶ崎の退き口」が描かれた『麒麟がくる』第31話。光秀(演・長谷川博己)は〈戦のない世をつくるため戦をしなければならない〉との決意を固める。

* * *

編集者A(以下A):今週の第31話は「金ヶ崎の退き口」が描かれましたが、コロナ禍であることを恨めしく感じる回になりました。

ライターI(以下I):コロナ禍前に撮影を終えた前半戦のクライマックス長良川の戦いはしっかりロケで撮影されました。ところが長良川に匹敵する金ヶ崎の退き口が、地図上で説明されるとは……。

A:金ヶ崎は、信長、秀吉、家康の三英傑に加えて、明智光秀や松永久秀が一堂に会した場所なのですが、ドラマの中では勢ぞろいしたシーンがありませんでした。苦肉の策でしのがざるを得なかった制作陣の無念を感じます。

I:その中で、冒頭に9月に私たちが取材で訪れたばかりの国吉城が登場しました。ドラマの中でも紹介された通り、信長が軍議を開いた城です。

A:信長(演・染谷将太)はこの城に3日間逗留し、金ヶ崎、手筒山両城を攻めてあっという間に落としたそうです。一気に一乗谷に攻め込もうというときに、妹婿である浅井長政(演・金井浩人)の裏切りを知ることになります。これまでの大河ドラマなどでは、信長妹のお市(演・井本彩花)が小豆袋を送って長政離反を伝えるという場面が多かったですが、今回はそのエピソードは採用されませんでした。もともと史実ではないエピソードですから、それは是としたいと思います。

I:『麒麟がくる』では、明智左馬助(演・間宮祥太郎)が書状を携えて光秀に情報をもたらすという展開でした。9月に若狭を取材していなければ、なんとご都合主義な展開かと思っていたかもしれません。

A:そうですね。若狭の熊川宿(福井県若狭町)の若狭鯖街道熊川宿資料館(宿場館)で展示中の細川藤孝(演・眞島秀和)宛ての光秀書状によると、朝倉攻めにあたって、光秀は熊川に先遣隊として信長出陣に先んじて行動していたことがわかっています。

I:細川藤孝宛ての書状には、現状特段に異状はないようだという趣旨のことが書かれていますが、その後も周辺の情勢に目を光らせていたため、配下の左馬助が浅井離反の情報を手に入れたと考えることができるわけです。

A:ちなみに細川藤孝の正室麝香(じゃこう)は、熊川の領主沼田氏の出身とのことでした。藤孝と昵懇だった光秀は、この地に土地勘があったのだと思います。そう考えれば、殿(しんがり)を命じられたのも納得させられるわけです。

I:なるほど。でも浅井長政離反の報を聞いた信長の狼狽ぶりは新鮮でした。従来の信長目線のストーリーではなく、光秀目線のドラマで、新たな信長像を展開するということでしたから、なかなか面白い流れでした。

A:〈ん~、ん~〉と唸る信長は斬新な演出でしたし、長政離反をすぐに信じようとしなかった場面は、おそらく本能寺でも光秀謀反をすぐに信じようとしなかった展開になるのだろうなと想像してしまいました。

I:興味深いシーンでしたね。ちなみに越前、若狭取材の成果は11月9日発売の『サライ』12月号で義昭役の滝藤賢一さんのインタビューとともに掲載されています。今週の「大河紀行」で紹介されていた国吉城は城好きなら訪れてほしい場所ですね。資料館の館長が自ら収集した約500枚の「御城印」は壮観でした。

家康と光秀「干し柿」のエピソードと〈戦のない世〉への渇望

命からがら殿を務めたにも関わらず、仲間内で認められない無念を光秀(演・長谷川博己)に語る藤吉郎(演・佐々木蔵之介)。

A:そうした中で、久しぶりに登場した徳川家康(演・風間俊介)と光秀が差しで話す場面がありました。

I:第4話でのエピソードですね。薬草売りに変装した光秀が織田信秀に人質として預けられていた松平竹千代に干し柿を与えたエピソードを家康が回想していました。

A:当欄では、第27話の際に〈干し柿のエピソードがまた出てくるかも>という趣旨の話をしていましたが、本当に干し柿のエピソードが出てきましたね。本能寺の変に家康が絡んでくる伏線なのでしょうか。

I:それはない、とも言い切れないですね(笑)。

A:ところで、その家康と光秀の場面で家康が〈争いごとのない戦のない世を作る。そのために戦う。我らが生きているうちに(戦のない世が)訪れるのか〉という話をしていました。

I:金ヶ崎からの退却の途中、光秀は左馬助に〈今まで戦はせぬ、無用な戦はせぬと思っていたが、そんな思いが通るほどこの世は甘くない〉という話をした上で、〈高い志があったとしても世は変えられぬ。戦のない世をつくるために今は戦をしなければならない〉と前述の家康の台詞と同じようなことを語っていました。

A:信長も正親町天皇(演・坂東玉三郎)の〈天下静謐の勅命〉を何とか実現したいと考えていました。これも世を平らかにしたいということですから、今週は全編〈戦のない世〉を渇望している様が描かれました。戦国時代にそんな考えを持つ武将はいないと考える人は多いかと思いますが、日本の歴史上でもっとも不幸な時代だった戦国時代にあって、戦のない世にしたいという渇望はあったのではないかと思いますね。

I:そのほか、今週のトピックスは光秀と藤吉郎のやり取りではなかったでしょうか。殿(しんがり)を務めた藤吉郎に対して冷ややかだった柴田勝家(演・安藤政信)らを光秀が一喝しました。

A:〈誰のおかげでその酒を飲めるとお思いか!〉ですね。光秀は曲がったことが大嫌いということを印象付けました。おそらくこの性格が本能寺の変を起こす遠因になっていくんですかね。

I:ところで摂津晴門(演・片岡鶴太郎)と足利義昭のやり取りの中で信長が義昭に対して五か条の条書を送っていたことを説明していました。

A:実際は、それ以前にも同様のものが送られていて全部で二十一か条になっているのですが、信長・義昭間が険悪になっている様が描かれていないので、〈???〉という方も多かったのではないでしょうか。

I:まあ、それはしょうがないですよ。信長妹のお市も「国民的美少女コンテスト」グランプリを獲得した17歳の俳優を起用しながら登場は一瞬でしたから(笑)。

A:え?お市役が、国民的美少女コンテストグランプリ?再放送でもう一度見ないといけないですね(笑)。

藤吉郎をないがしろにした柴田勝家(演・安藤政信)ら織田家臣団に激怒する光秀。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。 編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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