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暮らし

自然災害から、介護の必要な親をどう守る?|「水が来たらあきらめるしかない」と覚悟を決めた老老介護の妻

取材・文/坂口鈴香

ノノママhttps://www.photo-ac.com/profile/2434086さんによる写真AChttps://www.photo-ac.com/からの写真

ノノママさんによる写真ACからの写真

先日、神奈川県内の高齢者施設で、土嚢が中庭に積み上げられていたのを目にした。10月に上陸した台風19号に備えて用意したものだという。実際に浸水などの被害はなかったというが、入居者を守るために職員が奔走したことを物語っていた。

台風19号は、関東甲信地方や東北地方に甚大な被害をもたらした。東京23区をはじめとした都市部でも河川の氾濫や内水氾濫が起こり、住宅地に避難指示や避難勧告が出された。多くの高齢者施設でも利用者をどう守るか、短時間で判断を迫られた。

■老老介護の妻は覚悟を決めた

上坂恭子さん(仮名・85)は、90歳になる夫を自宅で介護している。夫はパーキンソン病で、介護生活はもう8年になる。病状は少しずつ進み、今はほとんど寝たきりだ。

その上坂さん夫婦が住む多摩川流域の地域が、台風19号の影響で避難指示区域になった。「ここに住んで60年になりますが、避難指示区域になるなんて初めてのこと」と上坂さんは振り返る。

上坂さん宅は2階建てだが、高齢の上坂さん一人で夫を2階まで連れて上がるのはとうてい無理だ。もちろん、避難所に行くことも不可能だ。「水が来たらあきらめるしかない」と覚悟を決めたという。

不安な気持ちで夜を迎えようとしたところに、電話が鳴った。

「週3回利用しているデイサービスの職員さんからでした。今から迎えに来てくれるというんです」

30分後には、上坂さん夫婦はデイサービス施設にいた。

夫が寝るのに必要なエアーマットも用意してくれていたという。もちろん、上坂さんのベッドも確保されていた。

ほかにも、デイサービスの利用者で自力で避難所に行けない高齢者が集まっていた。上坂さん夫婦と同じように、デイサービスの職員が迎えに行って連れてきたのだという。

翌日、台風が去って、上坂さん夫婦は自宅に戻ることができた。幸い、上坂さんの家は浸水することもなく無事だった。

「家はどうなってもいいと思っていましたが、夫と二人、自宅に戻ってまた生活できることになって安心しました」

上坂さんは、臨機応変な対応をしてくれたデイサービスの職員には感謝している。

「ただ……」と、上坂さんは一瞬口ごもった。

「半年ほど前、デイサービス利用中に夫が救急車で病院に運ばれたんですよ。デイサービスの昼食で出された春雨を喉に詰まらせてしまったということでした。夫は、食事もすべて介助が必要です。ところが食事介助する職員さんが、春雨を切らずに食べさせてしまったようです。お世話になっているので、デイサービスや職員さんを責めるつもりはありません。でも、それで誤嚥性肺炎を起こして2か月ほど入院したところ、一気に状態が悪くなりました。これ以上病院にいるともっと状態が悪くなりそうでしたし、何よりただ寝かされているだけの夫がかわいそうだったので、家に連れて帰ることにしました」

なにより、病院では胃ろうを勧められたのがつらかったという。家に帰れば、上坂さんが時間がかかっても口から食べさせることができる。そうすれば、夫の状態は少しでもよくなるはずだという強い思いがあったのだ。

「だから、痰の吸引のやり方を教えてもらって、一所懸命練習して、家に連れて帰ったんです」

自宅に戻った夫は、コミュニケーションがほとんど取れなくなっていた。それまでは、ほとんど寝たきりとはいえ会話はできていたので、上坂さんにはそれが一番残念だった。

上坂さんの献身的な介護の結果、夫はようやく「うん」と「いや」くらいの意思は示せるようになった。台風19号が来たのは、上坂さん夫婦にうっすら希望の光が差し込んできたタイミングだったのだ。

そんな経緯があったから、避難指示が出たときにデイサービス側がいち早く上坂さん夫婦を迎えに来てくれたのは、状態が悪化する原因をつくった「春雨事件」の謝罪の意味もあったんだろうと笑う。

いずれにしても、デイサービス側のこの災害対応は介護している家族にとって心強いことに違いはない。

■施設を選ぶ際にもハザードマップの確認を

同じく台風19号による多摩川の氾濫で、浸水被害の大きかった地域にあるデイサービスの管理者にその日の対応を聞いた。この施設では、浸水被害を受けた職員はいたものの、幸い被害を受けた利用者はいなかったという。

「一人暮らしで、その日にヘルパーが訪問する予定のない方には、送迎車を出して、デイサービス施設に来てもらいました。ただ施設のキャパにも限界があるので、避難所に送り届けることも考えていました。また利用者のご家族には、避難できるうちに避難してくださいと連絡しています。こうした場合、とにかく早く判断して行動することが命を左右するんです」

東日本大震災のあと、東北の被災地にあるデイサービスの対応も何か所かで聞いたが、デイサービス利用者を急遽泊まり対応にしたり、その日デイサービスを利用していない人には、職員が手分けして自宅まで安否確認に回ったりしていた。職員自身が被災者であるにもかかわらず、これら親身の対応には頭が下がった。

さらに大手の事業所の場合、必要物資を全国の系列施設から集めて配送したという例も聞いた。大災害時の物資不足を考えると、デイサービスでも大手を利用する方が安心かもしれない。

自然災害が拡大する昨今、親が利用するサービス事業所の災害対策や避難訓練の実施状況について確認しておくことも重要になるだろう。また、利用する施設を選ぶ際には、ハザードマップを確認しておくことをおすすめしたい。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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