「正直、頭を抱えたよ。でも落ち込んでいてもC3は直らないし、気を取り直して新しいC3を探すことにした。まだまだC3に乗りたかったからね。横浜のショップに行ったら、今度は79年式のC3があったんだ。C3は年式によって人気不人気があって、79年式は今ひとつ人気がない。でも俺から見れば好きなスタイルだから購入することにしたんだ。C4とC3に乗って、回りから『バカだね』って言われ慣れちゃってさ。この頃には、もう回りの声や視線なんて気にならなくなっていたし、新しいC3は思い切り好みに、世界で1台だけのC3を目指して仕上げることにしたんだ」
C3を契約後、オリジナルの塗装を施すべくカラーリングを考え、ショップのスタッフと何度も打ち合わせます。
納車されたC3は鳴海さんが頭の中で描いた通りの、満足のいく仕上がりでした。町なかでは子供たちから手を振られる回数がグッと増え、ためしに参加したアメリカ車イベントのコンテストでは、見事に優秀賞を受賞します。自分好みとなったC3を満喫する一方で、変わらずトラブルは発生し続け、鳴海さんを悩ませます。そしてツーリング中に起こったエンジンブローにより、ついに積み重なったストレスが鳴海さんの心を折ってしまいます。
「エンジンブローは直したんだけどね……。正直、C3を維持するのがすごく重荷になったんだ。ツーリングの予定を立てるまでは楽しいんだけど、当日が近くなると『ちゃんとエンジンはかかるかな?』、『また途中で動かなくなって、みんなに迷惑をかけるじゃないかな?』って考えちゃってね。C3に乗っている最中もそうだよ。楽しむ気持ちより不安の方が大きいんだ。しまいには夢の中でもトラブルにあって、うなされながら目を覚ますんだから、ちょっとしたノイローゼだよね」
悩みに悩んだ結果、鳴海さんは心血と愛情を注いだC3を手放すことを決意します。
運転を楽しむ心を、コペンが思い出させてくれた
クルマを維持することに疲れた鳴海さんですが、住まいはクルマが必須な環境のため、乗り換えるクルマを探します。気持ちもそうですが、経済的にも少し落ち着かせたかったため、新しいクルマには軽自動車を検討。手頃な価格で売っていたダイハツの4代目『ミラ』を購入します。
「コルベット以外はどれも一緒と思っていたから、経済的なクルマならなんでもよかったんだ。たとえ古いモデルであっても国産車は壊れないし、本当によく働いてくれるって再認識できたよ」
ミラ、その次にホンダの初代『フィット』を乗り継ぎ、気が付けばC3を手放してから6年もの月日が経過していました。そして昨年末、フィットを車検に通すか、それとも乗り換えるかを考えていた時、ふと中古車店に飾られていた軽自動車オープンカー、ダイハツの初代『コペン』が目にとまります。
「コペンを見て、久々に「あのクルマに乗りたいな」って思えたんだ。以前に少し乗せてもらったこともあって、楽しいクルマだってことは知っていたからね。オープンにして走ると本当に気持ちよくて楽しいんだ。C4やC3のタルガトップを外したり、元に戻すのは大変だったけど、コペンは自動だから気軽にオープンにできる。だからちょっと買い物に行くときもオープンにして走っているよ」
コペンと出会ったことで、鳴海さんはクルマを所有し、運転することの楽しさを思い出します。
「コルベットに乗っていた時は、人生のほとんどをクルマに捧げていたよ。時間も気持ちも、経済的にも。でも今は人生の半分くらいが、ちょうど良いって思っている。いや、それでもちょっと多いかな? 維持することに疲れちゃったら本末転倒だよね。コペンとは肩肘張らず、気を楽にして付き合うつもりだよ」
今日も鳴海さんは愛犬を助手席に乗せ、疲れすぎないようコペンとは適度な距離を保ちながら、顔を撫でる風を楽しみます。
取材・文/糸井賢一(いといけんいち)
ゲーム雑誌の編集者からライターに転向し、自動車やゴルフ、自然科学等、多岐に渡るジャンルで活動する。またティーン向けノベルや児童書の執筆も手がける。